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“プリンタ界の巨人”の進撃始まる、閉じられた3Dプリンタビジネスに穴

6/27(火) 14:35配信

MONOist

 日本HPは「第28回 設計・製造ソリューション展(DMS2017)」(2017年6月21~23日、東京ビッグサイト)において同社の業務用3Dプリティングシステム「HP Jet Fusion 3Dプリンティングソリューション」(以下、HP Jet Fusion 3D)の実機を展示し、機能や使い方について紹介した。

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 HP Jet Fusion 3Dは米HPが独自に開発した業務用3Dプリンティングシステムであり、ボクセル(Voxel)単位で3Dデータを扱えることや、オープンな材料開発プラットフォームを提供することなどが特色だ(製品について:いよいよ日本でも販売する“10倍速い”3Dプリンタ「HP Jet Fusion」、ボクセルで広がる可能性)。用途としては従来のような試作の他、最終製品製作も対象とする。

 同製品はボクセル単位で造形ができるため、細やかな材料や色の指定が可能であることから(ただし記事公開時点では販売する造形材料は1種)、従来の積層造形や加工技術では実現できない、新しい発想の部品製作も可能になる。「エージェント」という溶解促進剤も、さまざまな種類を開発していくとのことで、例えば、部品に導電性を付加することなどが可能になるという。

●2台の装置が連携して効率よく働く

 同社は展示会場で、3Dプリンタ本体であり、造形処理を担う「HP Jet Fusion 3D 4200 Printer」と、材料の充填やパーツの冷却、取り出しを担う「HP Jet Fusion 3Dプロセッシングステーション」と共に、造形サンプルも披露した。同システムはこの2つの装置がセットで連動することで成り立つ。

 3Dプリンタ本体の中央にあるユニット(下の写真、赤丸)が「ビルドユニット」で、同システムの作業効率を高めるための肝でもある。

 3Dプリンタ本体の中にあるビルドユニット上部で積層造形が進められる。造形が完了した時点では、造形物は熱を帯びている。その状態でビルドユニットを抜き出し、事務机の袖机を運ぶがごとく、ごろごろとキャスターを転がしながら、プロセッシングステーションまで移動させてセットする。

 プロセッシングステーションではホカホカの造形物を冷やし、造形に使われなかった材料(粉)を取り除いていく。余った粉はステーションの中で新しい粉と混ぜ合わせて、またビルドユニットに戻して再利用する。それらの過程の一切が全自動で行われる。HP Jet Fusion 3Dはレーザー照射ではなく、ヒーターを用いて樹脂を硬化させる仕組みのため、温度変化が前者よりも緩やかであって、材料が劣化しづらい。従来のレーザー照射による方式の材料のリサイクル率が50%程度であるところ、HP Jet Fusion 3Dでは約80%だという。ビルドユニットを2つ以上備えておけば、装置を休ませることなく稼働することも可能だ。

 造形事例の中には、HP Jet Fusion 3Dの製品に実際に組み込まれた部品が含まれている。同製品が最終製品での活用をうたっていることから、「そういうからには、自らが実行せねば」ということで、「HP Jet Fusion 3D内部にある従来製法の部品をHP Jet Fusion 3D製の部品に置き換える」という設計変更を積極的に実施している。今後、その比率はさらに増えてくる見込みだ。部品設計においては、複数の部品で成り立っていた部品を一体化する、トポロジー最適化によって部品を軽量化する、流体解析の結果を反映するといったことをしてきた。

●ライバルは射出成形――ナイグロ氏

 同システムの責任者、米HP 3Dプリンティング担当プレジデント ステファン ナイグロ氏は、先行で販売している欧米の顧客の反応について、次のように話した。「早期に導入したユーザーからは好感触を得ている。最初の1台を購入すると、早いと8週間以内に追加受注があった。またもう1台、2台と増やしていってくれるケースもあった」

 従来、3Dプリンタ市場において、大手の2Dプリンタ開発元の参入が見られなかった。それが2014年後半、キヤノンやリコーといった2Dプリンタを開発するメーカーが参入を表明。それに続き、HPも2014年10月に参入を発表している。

 同社における3Dプリンタ市場参入のタイミングについて、ナイグロ氏は次のように説明した。「当社は1990年代から3Dプリンタに関する調査や研究に取り組んできた。しかし、実際に市場参入するためには、飛躍的な技術革新が必要だった。後にHP Jet Fusion 3Dの技術が生まれ、従来技術と比較して10倍のスピードと高い品質が担保できると判断した段階で市場参入を決めた。もちろん、2013年以降の3Dプリンタブームの影響もあった」

 従来の3Dプリンタ大手の最新製品を見ていると、HP Jet Fusion 3Dが従来製品の10倍の生産性や将来の拡張性をうたっているとしても、現時点で1種類しか対応材料がないことや、フルカラーではないことなどが、少々物足りなく感じられるかもしれない。しかしこれは、製品としての完璧な完成を待たずして、ユーザーとなる顧客と共に製品を練り上げていく方針を取った故のこと。「10倍の生産性と、高い品質」という、従来技術と大きく差別化できるスペックを見いだした時点で即参入を決めたということだ。

 2Dプリンタと3Dプリンタとの大きな違いは、まずは言うまでもなく「Z軸」の存在である。3Dの機構は2Dと比較すると、複雑さや難易度が格段に増す。同社は3Dのための新たな研究へも投資した。また両者では対象顧客やビジネスが大きく異なるため、営業面においても、人員増強している。

 今回、HPが2Dプリンタのビジネス文化の一部を取り入れてきたことは、今後の3Dプリンタのビジネスに影響する可能性がありそうだ。紙プリントのインクと同様な考え方を3Dプリンタに持ち込んだことだ。

 従来の業務用3Dプリンタ業界のビジネスは閉じられた世界であるといえた。大手メーカーが、中小メーカーや新興メーカーを積極的に取り込むことで、ユーザーを囲い込んできた。また業界で共通の規格があるわけでもなく、造形材料はメーカーが独自かつ専用のものを開発してきた。造形材料については価格の競争が起こりづらい世界だった。そこにHPが「材料開発のオープン化」という風穴を開けた。材料開発にさまざまなメーカーを参画させてサードパーティー材料を積極的に増やしていき、かつ価格競争を起こさせていきたいという。現在、アルケマ、BASF、エボニック、ヘンケル、 Lehmann & Voss、Sigma Designといった企業が既に参入し、材料開発に取り組みだしている。

 「HP Jet Fusion 3Dのライバルは3Dプリンタではなく、射出成形。将来は射出成形よりも部品製作単価を安くしたい」とナイグロ氏は宣言する。同社参入以前は、3Dプリント技術(積層造形)は「射出成形と住み分ける」という考え方が業界では主流であって、将来もそれほど大きくは変わっていくことはないだろうといわれてきた。もちろん、それを達成することは簡単なことではないだろうし、当然、その時が「具体的にいつになるのか」も現時点でははっきりと見えていない。その技術そのものへの期待はもちろんだが、3Dプリンタ業界全体のポジティブかつ大きな変化にも期待したい。

最終更新:6/27(火) 14:35
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