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Intelが脅威を感じる「ARM版Windows 10」の実力 そして「Always Connected PC」とは?

6/27(火) 16:02配信

ITmedia PC USER

 米Microsoftと米Qualcommは、「Snapdragon 835プロセッサで動作するWindows 10搭載モバイルPC」を投入すべく、準備を進めている。OEMパートナーのPCメーカーとしては、ASUS、HP、Lenovoが名乗りを上げており、2017年後半以降にこうした製品を発売する見通しだ。

【ARMプロセッサで動作するWindows 10のデモ】

 このWindows 10はかつてのWindows RTと異なり、ARM系プロセッサで動作しながらも既存のPC版Windows 10同様、Universal Windows Platform(UWP)アプリとx86向けに記述されたWin32アプリが動作するという。

 これに対し、Intelが「x86 ISA(命令セットアーキテクチャ)の特許」を侵害している可能性について指摘していることは前回紹介した通りだ。まだ具体的な製品がないタイミングということもあり、Intelは訴訟など具体的なアクションを起こしていないが、この新しいARM版Windows 10を「無視できないレベルの競合」と認識したからこそ、このようなけん制をしたのだろう。

 今回は、6月1日に台北で報道関係者向けに披露された「Snapdragon 835で動作するWindows 10のテストプラットフォーム」を振り返りつつ、この「Windows 10 on Snapdragon」と、さらに「Always Connected PC(常時接続PC)」というMicrosoftが掲げた新しいPCのコンセプトについて掘り下げていこう。

●「Windows 10 on Snapdragon」のパフォーマンスとエミュレーション

 QualcommがCOMPUTEX TAIPEI 2017に合わせて台北で披露したSnapdragon 835のプラットフォーム上で動作するWindows 10は非常に軽快だった。一連の動きを見る限り、何も説明されなければ、x86系CPU搭載の標準的なPCと思う方も多いかもしれない。

 デモの画面ではx86向けのOfficeアプリ各種がパフォーマンス的に問題なく動作する様子を紹介していたが、これらはエミュレーションで実現している。このエミュレーションは、通常のx86プラットフォームで動作させる場合に比べてメモリ上のフットプリントを余分に消費するという。完全な逐次実行ではなく、プログラムのx86バイナリをある程度動作中にARMバイナリに変換してしまい、これでパフォーマンスを捻出しているのではないかと推察する。

 実際の製品投入時には、本体付属のソフトウェアの他、OfficeのようにMicrosoftが提供するアプリを中心に、ARMバイナリベースのものが用意されるという。Windowsストアで提供されるUWPアプリについても、同プラットフォームをターゲットにしたものについては、ARMバイナリ版がダウンロードされるようだ。

 UWPアプリの実体であるAPPXファイルは、アプリをダウンロードするデバイスの環境に応じて、パッケージするファイルの中身の構成を適時変更する仕組みになっている。

 つまり、通常の64bit版Windows 10であれば、それに対応したバイナリがパッケージングされ、今回のSnapdragon 835搭載PCであれば、ARMバイナリがパッケージングされた状態でダウンロードが行われる仕組みだ。これはAPPXのファイルサイズを最小限にし、ストレージやネットワーク帯域を圧迫させないための工夫となる。

 ただし、ARMバイナリを含んで最適化した形でWindowsストアに登録するかはデベロッパー次第であり、もしx86バイナリしか存在しない場合に必要となるのがエミュレーションというわけだ。

 現状でWindows 10 on Snapdragonは、32bitアプリのエミュレーションのみに対応し、64bitアプリの動作には対応しない。将来的なバージョンアップで対応予定とのことだが、エミュレーション機能が搭載された意義を考えれば、32bitアプリの対応だけで事足りるとも考えられる。

 そもそもエミュレーションとは、レガシー資産の動作が主な目的だ。フリーソフトを含め、ユーザーがフル機能版のWindows 10に期待する目的の1つは、これらレガシーアプリの動作にあり、この点でニーズを満たせるだろう。

 逆に、64bit版も提供されるようなアクティブなアプリであれば、ARMバイナリ提供の可能性が高いため、エミュレーションはそこまで重要な意味を持たない。問題はゲームや画像処理ユーティリティーなどのパフォーマンスに振った使い方をするアプリの動作で、これらは今後実際の製品が登場してからの評価項目となる。

●Windows 10 on Snapdragonが目指す市場は?

 Snapdragon 835を搭載したWindows 10デバイスの満足度は、過去のWindows RTデバイスに比べて高いというのが現時点での予測だ。これは、フル機能版のWindows 10が動作するという点と、ARMバイナリではない過去のx86アプリ資産もエミュレーションで動作するという2点にある。

 さらにSnapdragon 835自体のパフォーマンスが高く、動画再生にはHEVC(H.265)を含むハードウェア再生支援機能が利用できる他、用意されるインタフェースも一線級のPCと遜色ないなど、もはやバイナリ互換問題を除けば、性能的にはPCに採用しても問題ない水準に達しているからだ(Intelが指摘する特許侵害の可能性はさておき)。

 他方で、Windows RTデバイスと異なり、Snapdragon 835を搭載したPCの価格はそこまで安価でないことが予想される。スマートフォンでも同クラスのプロセッサを搭載した製品は、700~1000ドルくらいの価格帯だ。Windows 10デバイスでは、より大画面のタッチディスプレイや大容量SSDを搭載するとなると、最も安価なラインで1000ドル前後がターゲットになるのではないか。

 Intelのプロセッサを搭載した既存のWindows 10デバイスと比べた場合、Core i3採用のモデルよりは下だが、PentiumやCeleronを用いたエントリー向けモデルよりはかなり高価だ。そのためターゲット層としてはミドルレンジ以上、あるいは「モバイルに最適なPC」を比較的高めの価格帯でも購入したいというユーザーが挙げられる。

●PCに常時接続と契約利用の利便性をもたらす「Always Connected PC」

 Microsoftは、Qualcommプロセッサの新しいWindows 10デバイスは全てLTEを搭載し、「Always Connected PCのコンセプトを体現する」と説明している。

 これらは「eSIM」と呼ばれる組み込み式のSIMを内蔵し、適時オンライン契約でWindowsストアから料金プランを購入できるという。特に海外への出張や旅行が多いユーザーにとって、現地での通信手段の確保は毎回頭を悩ませる問題だが、eSIMはこれを「On-The-Go」方式で手軽に契約して利用できるメリットがある。

 もちろん、AMDやIntelのプロセッサを搭載したPCでも、LTEの採用でAlways Connected PCの実現は可能だろう。ただ、QualcommプロセッサのWindows 10デバイスであれば、必ずLTEがセットになるので、ターゲットユーザーには製品選択における大きなポイントになる。

 モバイル用デバイスに関しては、「サイズと重さ」や「バッテリー駆動時間」も重要だ。Snapdragonプロセッサでは、LTEも含めて通信に必要な機能がSoC(System on a Chip)に統合されており、部品点数が少ないというメリットがある。そのため、本体を軽量化しやすい他、デザインの自由度を高められるというアドバンテージも期待できる。

 モバイルに特化ということで薄型化や軽量化(あるいは日本人が好きな超小型化)にデザインのリソースを振ってもいいし、そのぶんをバッテリーの増量に回して長時間駆動が可能なデバイスを目指してもいい。

 また、Qualcommプロセッサが採用するbig.LITTLEコア(大型でパフォーマンスの高いCPUコア「big」と、小型で消費電力の低いCPUコア「LITTLE」を組み合わせる)の特性や、スタンバイ状態(Qualcommでは「Always-on」と表現)での高度な電力制御といった面もWindows 10デバイスに付加価値をもたらしそうだ。従来のx86ベースのPCと比較して、アイドル時の消費電力が抑えられ、より長時間駆動を実現できる可能性がある。

 「モバイルでPCをとにかく活用したい」と考えるユーザーであれば、2017年後半以降に発売される見込みのWindows 10 on SnapdragonによるAlways Connected PCはチェックしておきたい。

●一体どこまでがAlways Connected PCなのか

 筆者は以前、「新型SurfaceにeSIMが採用されて常時接続可能なPCになる」と予想したことがある。残念ながらこの予想は外れたが、eSIMと常時接続コンセプトは「Always Connected PC」という名称で現実のものとなった。

 実は、新Surfaceラインアップの国内発表時に来日したブレット・オストラム氏(Surfaceデバイス全般のエンジニアリングを担当するコーポレートバイスプレジデント)に、SurfaceでのeSIM採用について質問したところ、「口の途中まで出かかっているが、今の時点では話せない」と返答されたのだが、それはこのAlways Connected PCの発表を直前に控えていたためとみられる。

 次に登場する次期SurfaceがAlways Connected PCになるのかどうか、それはまた別の機会にあらためて確認してみたい。

 さて、Always Connected PCについては気になる点がある。MicrosoftがCOMPUTEX TAIPEI 2017で行った基調講演の壇上では、賛同するOEMメーカーや携帯キャリアら(さらに言えば、eSIMソリューションを提供するGemaltoまで)が紹介されたのだが、Snapdragon 835対応に名を連ねていないOEMメーカーも含まれていた。

 Always Connected PCでは、IntelまたはQualcommのモデムチップを採用するとのことなので、IntelのLTE通信チップを選択することになるのだろう。あるいは、QualcommからSnapdragon SoCではなくGobiのチップのみを入手して組み込むのかもしれない。

 Microsoftの説明を聞く限り、「LTE+eSIM」がAlways Connected PCの条件のようなのだが、Qualcommの説明によれば「eSIMは必須要件ではなく、SIMスロットを採用しても構わず、全ての判断はOEM次第」という。

 もう1点、Microsoftでは「Qualcommプロセッサを搭載したPCは全てLTE対応」としているが、Qualcommはやはり「LTEは必須ではなく、OEMによってWi-Fiモデルを選択しても構わない」とコメントしている。両社の意見の食い違いが気になるところだが、Always Connected PCとはマーケティング的な意味合いが強いコンセプトであり、最終的にどこまでを必須要件としてブランドを提供するのかは、Microsoftの判断次第だ。

 さらにQualcommプロセッサを搭載したPCにWindows 10をライセンスするのもMicrosoftであり、もし「常時接続可能なモバイルPC」としてのARMプラットフォームを推したいのであれば、何らかの条件をOEMに提示してくるだろう。

 いずれにせよ、初期に登場するAlways Connected PC対応デバイスはMicrosoftの意図を強く反映したものである可能性が高く、プラットフォームの展開状況を見ながら徐々に方向を修正していくのではないかと予想している。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

最終更新:6/27(火) 16:02
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