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クイズ王はなぜ「ですが問題」を最後まで聞かずに答えられるのか? 勝負を決める「先読み」思考法

6/28(水) 11:10配信

ねとらぼ

 こんにちは、東大生クイズ王、略して東大王の伊沢です。

 先頭打者宣伝ですが、6月28日にテレビ朝日系で放送される「くりぃむ VS 林修!超クイズサバイバー」という番組に出演しております。クイズ王チーム10人が、芸能人チーム総勢50人と早押し勝負をするという内容になっており、僕もクイズ王チームの一員としてバチバチやっとるわけです。

【図解】東大クイズ王が早押しできる理由

 クイズ王が何者か、については以前の連載記事で説明しましたが、では具体的にクイズ王というのはどういうスキルを持った人間なのでしょうか?

 クイズ王というからには、普通の人にはない能力が備わっているはずです。よもや、権威だけでそんなにクイズが強くない、というはずはないでしょう。

 クイズ王がそうでない人と決定的に異なる要素は、豊富な知識以上に、その圧倒的な「早押し力」です。

 たとえ最後まで聞けば確実に答えが分かる問題でも、「ここまで聞けば分かる」というギリギリの場所でしっかりとボタンを押す、その技術こそがクイズ王の実力といえるでしょう(具体的にはぜひ番組を!)。

 そして、その技術が最も際立つのがいわゆる「ですが問題」。

 「日本一高い山は富士山――ですが、世界一高い山は何でしょう?」というような、文章が2段階になっている問題です。バラエティ番組でのひっかけ問題やCMでの商品宣伝にも使われています。

 そんな色物ポジションの「ですが問題」も、クイズ王が登場する番組では、最もクイズ王の強さを引き立たせる問題になります。クイズ番組で、「ですが」が読まれる前に押して正解するクイズ王を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

 でも、そもそもなぜクイズ王たちは「ですが」の後が分かるのでしょうか。ある種ヤラセにすら見えてしまうようなスピード感は、ただ単に知識があってもできるものではありません、だって問題文聞いてないんだから。

 ということで、これを読んでくださる皆さんにはこっそり、「なぜクイズ王はですが問題をあんなに早く押せるのか」ということについて解説したいと思います。

●「ですが問題」の全て

 ここでは、僕が過去に正解した「ですが問題」を例にとって説明しましょう。

 僕は2011年の「第31回高校生クイズ」全国大会準々決勝で、

◆Q.「小説『三四郎』の作者は/」

 というところでボタンを押して、正解にたどり着きました。

 この問題の続きは、こうなっています。

 「小説『三四郎』の作者は夏目漱石ですが、小説『姿三四郎』の作者は誰?」

 答えは「富田常雄」です。答えを聞いてもイマイチぴんとこないですよね……。

 『姿三四郎』は柔道家を主人公とした小説で、黒澤明監督により映画化もされています。が、僕がボタンを押す前には姿三四郎関連の情報は一切出てきていません。答えを判断するのに使える情報は『三四郎』と「作者」の二つだけです。

 果たして、この少ない情報からどうやって答えを導き出すのでしょうか!?

 と、散々自分をアゲたところで、種明かしに参りましょう。

 まず注目すべきは「作者は」のところ。おそらくこの後には「作者は夏目漱石ですが」と続くのが自然です。となると、「ですが」の後も作者を聞く問いのはず。ここで最終的に作者以外を聞くのであれば汚い問題文になりますし、「ですが問題」にする意味もありません。テレビでもそのような問題が出たら視聴者からのブーイング必至でしょう。

 この問題が何らかの作品の作者を答えさせるものだと分かりました。次に注目すべきは『三四郎』の部分です。『三四郎』を、お笑いで言うところの「フリ」に使っているのだから次に来る作品も三四郎がらみなはず。

 可能性の1つとして考えられるのは、「『三四郎』くらい有名な、同時期の作品」です。選択肢はたくさんありますから、この場合は早く押しても正解するのは至難の技です。

 もう1つの可能性は、「『三四郎』に似ている名前の作品」を持って来ること。万が一『五六郎』なんて名前の作品があればそちらが出題される可能性もありますが、有名さを考慮するにこのパターンなら『姿三四郎』が妥当そうです。

 ここまで考えて、前者(同時期の作品)と後者(似た名前の作品)を比較しましょう。前者は答えになりそうな選択肢が多すぎる上、「何でそれを持ってきたの?」という違和感も生じます。問題文としては妥当でも、納得感の強い一問にはならないでしょう。それに対し後者は名前が似ていて、同じ文学作品で……という完成度の高さ、わざわざ「ですが問題」として問う妥当性などの面で優れています。

 ということで、ここで出題されうるのは後者・『姿三四郎』の作者である富田常雄だ、となるわけです。一件落着。

 もちろん、富田常雄のことを知っていないとこの押しはできません。しかも、ここまで書いたような思考プロセスを、問題文の構造を把握してボタンを押してから答えるまでの数秒でたどらなければいけません。知識に加え、そのような思考プロセスの鍛錬を行っているのが、画面の中で生意気にも鎮座しているクイズ王なわけです。

 しかし、思考のヒントは上記のプロセスにほぼ全て含まれています。以下の4つのことを踏まえていれば、あなたでも「ですが問題」を楽しめるはずです。

◆「ですが」の後ろ側は、「ですが」の前後に成り立つ対比関係によって推測可能である
◆対比の前後で変化する言葉(上記の例なら『三四郎』)を見極めることがキモ。それは固有名詞などであることが多い
◆対比の前後に共通する、「どんなもの(作品名なのか、作者なのか)」が問われているかを認識することも必要
◆全ての問題文は、クレームが来ないためにも美しく、ツッコミどころなく作られているので、それを信頼して推測していく

 単純化してしまえば、「ですが問題」のキモは「美しい対比構造」なのです。

 故に、クイズ王はこの対比構造を意識することで正解を予測しているわけです。タネが分かれば意外と簡単でしょ。もちろん、対比を意識してから正解を出すまでのトレーニングはたくさん積んでいるので、意識すればすぐできる、というわけではありませんが。

 よりテクニカルなことをいえば、「問題文の読み方」でも「ですが問題」を見分けることができるのですが、これはあくまで「競技クイズ」と呼ばれるテレビ以外のクイズ大会での慣例のようなものに依拠しているのでここでは省きます。たった50文字の問題文にも、さまざまな秘密が隠れているのです。

 では、さらに一歩掘り下げていきましょう。

 そもそも、クイズ王の早押しはこの「美しい対比構造」に依拠しているわけです。逆にいえば、美しい対比構造がない問題では正解にたどり着くことができないわけですね。とはいえ、テレビのクイズ番組に出題される問題は、クレームなどが来ないように基本「美しい」形をしています。

 では、クレームが来ないような「美しさ」って、結局何なのでしょうか? ここからはそれを、具体的な問題文でお見せしましょう。

●美しい問題って、どんなもの?

 それでは、実際に「これが美しい問題文である」というものをお見せしましょう。

 今回はオーソドックスな「ですが問題」を例にとり、100点満点で採点しつつコメントを加えました。

 大体80点以上ならテレビの早押しクイズで出題されうると考えてください。僕自身が出題するとしても80点以上のものを採用すると思います。

 それでは見ていきましょう。まずは普通のものから。

◆Q1:日本一高い山は富士山ですが、世界一高い山は何でしょう?

 100点。日本→世界という対比がきれい。答えが簡単なことはこの際置いておいて、構造上の無駄は一切ない。

◆Q2:日本一高い山は富士山ですが、お隣韓国で一番高い山は何でしょう?

 85点。「日韓」と並べられることは多いが、日本→世界の素直さと比べると限定性がやや不満。中国でも成り立ちはするし。「お隣」というフォローワードがなければ80点。

◆Q3:世界一高い山はエベレストですが、火星一高い山は何でしょう?

 40点。世界→火星、という対比は不正確。ここでの「世界」が指す範囲には宇宙すら入り得るからである。ここで用いるべきは「地球」である。

 さて、ここまでの3問からは、面白い示唆が得られます。

 前振りに「日本」を持ってくると、後ろにある「世界」が「日本」に対比されるものとしてきっちり定義されます。世界=地球と決まるわけですね。しかし、「世界」を単独で使うと、一転その意味の解釈が不自然になります。このこと自体は、「ですが問題」というものを初めて聞く人でも構造として理解できるのではないでしょうか。

 これこそが、「ですが、の後は前振りと対比的なものでなければならない」という前提を裏付けるのです。つまり、たとえ「ですが問題では、前と後ろが対になっていますよ~」という事前知識がなくても、Q1では感じなかった日本語的な違和感をQ3では明確に感じ取ることができるし、その違和感の正体は「対になりきれていない」ことだというのもまた自然に分かるレベルのことです。

 故に、「ですが問題」には美しさが必要なのです。美しくない「ですが問題」は、解答者に違和感とツッコミどころを与えるだけであり、相当洗練された「ですが問題」以外は出しても失敗にしかならない、とさえ言えます。そのため、美しくない「ですが問題」は排除されていき、美しい、つまり早く押せる可能性の高い問題のみが生き残る、洗練された状態になっていくのです。そのあたりの背景まで考えて、クイズ王は無謀にも見える速さの押しを繰り出しているんです。

 さてさて、さらにバリエーションを増やして採点していきます。

◆Q4:地球で一番高い山はエベレストですが、火星で一番高い山は何でしょう?

 85点。Q3を踏まえての出題であるが、点数はQ2と同じ理由。ですが問題の前後対応としては十分に機能しているが、地球と火星が一対一対応しているわけではない。金星の最高峰を聞いたっていいからだ。その点では日本→世界というきれいな対比に劣る。

◆Q5:日本で一番高い山は富士山ですが、日本で一番長い川は何?

 60点。「山」と「川」がきれいに対比されているので一見良作に見えるが、「高い」と「長い」は似ていてもイコールではない。つまり、対立軸以外の部分が微妙に変わっているため、きれいな対称構造を作れていないのだ。ボロクソにいうほどではないが、このような問題は真剣勝負では出題されづらいだろう。

◆Q6:日本で一番高い山は富士山ですが、日本で一番売れている○○は何?

 20点。「日本で一番」でくくり、その後を対比させるという構図はできているので最低限は得点をあげられるが、「高い」と「売れている」が対比されていないので厳しい。○○の中に山要素のあるものを入れられればまだフォロー可能か? 「日本で一番売れている山」などならまだ収集がつくだろう。答えは「山本山」か「きのこの山」か。いずれにせよ没。

◆Q7:日本で一番高い山は富士山ですが、日本で唯一毛が生える効果が実証されている発毛剤は何?

 0点。「一番」と「唯一」は言葉尻が似ていても全く別の概念であり、対にすらなっていない。おやおや……。

 上に挙げたものの中には、ともすると違和感を覚えない問題文もあったかもしれません。「対比の軸がしっかりしていること」「対比関係にあるものがきれいに対応していること」の2点を満たした、採用できるレベルの美しい「ですが問題」を作るのは意外と難しいのです……。

●これぞ「ですが問題」!

 最後に、少し変わり種の「ですが問題」をご紹介しましょう。このような対比の作り方もあります。

◆「会計などで用いられる用語で、ある期間の最後のことを期末と言うのに対し、初めのことをなんという?」→「期首」

 最初→最後ではなく、最後→最初と振るパターン。最後のことを「期末」と呼ぶのは普通ですが、「期首」は知らないと答えられない、少し特殊な呼び方ですよね。「期末」を問うより問題として面白い上に、最初と最後というきれいな対比がある良問です。

◆「『空の車』と書く『空車』の対義語。タクシーなら実車ですが、駐車場なら何?」→「満車」

 このように、最初に一文置くことであらかじめ対立軸を見せてしまうことも可能です。正解が出るような配慮ですね。

 「空車」という言葉が使われるのは、ほぼタクシーか駐車場のみなはず。タクシーと駐車場というその言葉自体が明確な対立軸を持っていなくても、このような限定を設ければ2語は相補的な関係になります。

◆「日本の牛肉銘柄で、米沢牛の米沢は山形県にありますが、前沢牛の前沢はどこにあるでしょう?」→「岩手県」

 「牛肉の銘柄なんていくらでもあるじゃないか!」という声が飛んできそうですが、よく見てください。ここで対比されている銘柄はもちろん双方とも超有名ブランドであり、そして何より名前が似ている「紛らわしい」2つ。よくごっちゃになる、どっちがどっちにあるのか分かりづらい、という意味でこの2つは対比される関係にあるといえるでしょう。完璧に両者の存在と所在を押さえていたものだけが私に石を投げなさい。

●まとめ

 ということで今回も長くなってしまいました。「ですが問題」はその特殊性ゆえにクイズ王が出る番組ではよく出題されます。そして、その中身はここに書いてある通りです。

 大事なことは、このような思考ルートが明らかになってなお、「ですが問題」を早く押せることの価値が揺らがないということです。問題文の構造を的確に把握した上で、正解にたどり着く知識も持っていなければいけない。フォークボールがなぜ落ちるかを知っているだけでなく、実際にフォークボールを投げられる、というところにこそクイズ王の鍛錬の結果があります。ここまでの説明は、手品の種明かしではなく、スポーツにおける技の解説のようなものなのです。

 今後クイズ王が「ですが問題」に挑戦している様子を見かけたら、隣にいる人に「実は彼らはこんな理由があって早く答えられるんだよ」とワケ知り顔で解説していただけたら幸いです。出典を明言しなくても一向に構いませんよ!

 クイズのショウ的な面白さだけでなく、競技的な奥深さが普及していけばいいな、そんなことを考えながらこの連載を書いています。

最終更新:6/28(水) 11:10
ねとらぼ