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GMS大量スクラップ時代の風に乗るドン・キホーテ

6/28(水) 7:12配信

ITmedia ビジネスオンライン

 6月13日、ユニー・ファミリーマートホールディングスとドンキホーテホールディングスが業務提携に向けた検討を始めると発表した。店舗や商品の共同開発、物流の合理化といった幅広い分野で、半年以内をめどに具体的な提携内容を詰めるという。

【ドン・キホーテの06年~16年の都道府県別売り上げシェア増減はこちら】

 業界内外の反響は大きく、おおむねその効果に期待する向きが多いように思われる。双方の業態が異なるため競合する分野が少なく、相乗効果を得られるのではといった好意的な見方が多いようだ。

 ユニー・ファミリーマートといえば、最大の課題は総合スーパー(GMS)部門の再構築が自他ともに認めるところであろう。セブン‐イレブン、ローソンを追撃するためにどうしても手に入れたかったサークルK・サンクスをグループ化することを優先し、ユニーグループ丸ごとでの経営統合を果たしたファミリーマートおよび伊藤忠商事陣営はGMSという難題を抱えざるを得なかった。

 コンビニ大手、大手商社といえども、GMSという業態に関する運営ノウハウは持ち合わせているわけではない。グループシナジーの活用、店舗改装、専門店と組んだ新たな直営売り場への取り組みといった施策を打ち出してはいたが、業態として不振が続くGMSの活性化策としては力強さを欠くものであった。そこに、乾坤一擲(けんこんいってき)の一手として投じられたのが、今回のドン・キホーテとの業務提携であり、事実上、ドン・キホーテの手にユニーの運命は託されたということになる。

 なぜドン・キホーテかと言えば、答えは簡単で、店舗再生に関して最も実績を持つ企業であるからである。

 そもそも小売りの店舗戦略には、スクラップ&ビルドという大原則が存在する。時間経過とともに変化する環境の下、その時々に合った適正な業態や店舗形態に変わっていくことは必然だからである。そのため、振り返ればどの時代にもスクラップ店舗に居抜き出店することを得意とする企業が存在していた。

 例えば、家電量販店の覇権争奪戦が行われていた時代、初期に各地で勃興した小型店舗家電量販店群に対し、大型店を擁したコジマが圧倒し業界最大手の地位を築いた。そのコジマもさらに大型店のヤマダ電機に敗れ、ビックカメラの傘下に入ることとなった。この間、同業界の敗者企業からは、スクラップ店舗や業態転換店舗が大量に発生した。こうした物件を吸収して成長したのが、ブックオフ、ハードオフといったリサイクルショップチェーン、もしくは業務スーパーといった価格志向型の企業であった。店舗コストを抑えて、低価格で商品を提供する仕組みを持った企業が居抜き店舗の活用で立地を再生してきたのである。

 その中でも最も成長し、今もなお成長基調を維持している有力企業と言えば、ドン・キホーテをおいてほかにはないであろう。「MEGAドン・キホーテ」という大型店フォーマットを持ち、GMSクラスの大型店を立地再生可能な企業として定評がある。破たんした長崎屋を傘下で再生させたノウハウは同業他社では持ち合わせていないと言ってもいい。

 この会社のすごさは、再生する前のGMS店舗とほぼ同様の商品ジャンルを売っているにもかかわらず、再生を果たす力を持っているという点にある。ドン・キホーテといえば、ディスカウントストアの最大手というイメージが定着しているため、価格訴求によって集客を図るからだと考えがちであるが、それだけではない。

 今回は、このドン・キホーテの再生力の源泉について考えてみたい。

●ドン・キホーテは「モノを買いに行くところ」ではない

 その前に、地方百貨店やGMSが立地不適となった理由を簡単に整理しておこう。地方百貨店の場合は大まかに言えば、クルマ社会となった地域において中心市街地自体が交通の結節点ではなくなったため、立地とともに成立しなくなった、と言うことができる。だから百貨店がなくなった地域においても、郊外の大型ショッピングモールは、相応ににぎわっているのである(この問題に関しては地方の人口減少などは関係がない)。

 GMSの場合は、若干複雑な経緯をたどることにはなったが、結論だけを言えば、専門店チェーンとの競争に敗れたということになる。忙しい平日には、食品スーパー、ドラッグストア、100円ショップ、カジュアル衣料品チェーンが集結している小型モールに寄って、毎日の生活必需品をできるだけ短時間で買う。休日には、家族で一日時間を過ごすことができる時間消費型の巨大ショッピングモールに滞在するという生活スタイルの人が増えた。このどちらにも中途半端な存在となったのが、一般的なGMSなのである。

 こうして集客力を失った百貨店やGMSはやがてスクラップの運命へと向かうのであるが、このような店舗でもドン・キホーテは再生してしまうのだ。なぜかと言えば、ドン・キホーテとは極論すれば、「モノを買いに行くところ」ではなく、「暇をつぶすついでにモノを買うところ」だから、である。

 多くの人にとって生活必需品の買い物は必ずしも楽しいものではなく、足りないからやむを得ず補充するという感覚の作業である。こういった人たちにはドン・キホーテは最も向かない店舗と言っていいだろう。

 迷路のような通路の両脇には手が届かないぐらいの高さまで商品がところ狭しと陳列されている。その上、とても必需品とは言えないが、なるほどといった面白い商品が各店舗の裁量で編集されているため、見始めてしまえば思わず時間を忘れてしまうような個性的な店舗である。

 もちろん時間があるときにはいいが、忙しい人が短時間で目的買いをするには向かないだろう。だが、ドン・キホーテはそうしたショートタイムショッピングニーズの顧客をターゲットにはしていない。ある程度暇があって時間潰しをしながら、ついでに買い物をしたい人に対して宝探しの楽しみを提供しつつ、面白い商品を情報提供して衝動買いもしてもらう、というのがドン・キホーテの基本戦術である。

 こうした意味では、ドン・キホーテは小売業ではあるが、それ以上に時間消費空間の提供というサービス業的要素が極めて強い店舗であると言えよう。この点においてまったくの同業と言える小売業は存在していない。強いていえば「遊べる本屋」を標榜(ひょうぼう)するヴィレッジヴァンガードが機能としては似ていると言えるくらいだ。

●インバウンド需要はいまだ衰えず

 こうした特徴を書くと、「それでは時間に追われた多くの人を集客できないではないか」と思われるかもしれないが、まさにその通りなのである。首都圏を例にとれば、食品を安く短時間で買いたい人はオーケーストアに行けばいいし、PB(プライベートブランド)商品でもとにかく安く手に入れたい人はイオン系のスーパーに行けばその目的は果たせる。近所のスーパーでも特売日を狙って行けば、移動時間を短縮して安いものを手に入れることは可能だ。時間がない大半の人たちが、その選択肢にドン・キホーテを入れて考えることは、よほど近隣住民でない限りそう多くはないだろう。

 また、ドン・キホーテはナイトマーケットの開拓者とされ、24時間営業の店舗を含め、深夜まで営業していることを基本とし、夜中でもにぎわっているのが特徴だが、そのことも大多数のファミリー層が中心顧客ではないことを示している。ただ、ドン・キホーテは基本的にそんなことは意に介さない。なぜなら、少数派ではあるが時間があって買い物を楽しみたい人をターゲットに、深夜まで総合小売業をやっている店はほぼ皆無であり、競合が存在しないからである。

 ドン・キホーテが、オンリーワンの業態であるというのは、世界的に見てもそのようだ。訪日外国人のガイドブックで同社の店舗は日本の見どころの1つとして、その認知度は極めて高い。特に小売業の発展途上段階にあるアジア諸国からの外国人客にとって、こんな時間消費型小売業の店舗を自国で見掛けることはなく、その珍しさから日本に来たら見て帰るべきスポットとして人気が高いのだという。

 中国人観光客の「爆買い」に支えられて一息ついていた百貨店が、インバウンドが一段落したことによって計画見直しを迫られている昨今も、ドン・キホーテはほとんど影響を受けていない。当たり前だが、高級ブランド品の本物が自国内や越境ECなどによって手に入るようになれば、遠い日本の百貨店から重い荷物を持って帰る人は減るに決まっている。だが、ドン・キホーテに来店する目的はその店舗空間を体験するということなのだから、訪日外国人の数自体が増加基調である状況下で、客数が減少する理由はない。オンリーワン業態であるドン・キホーテにとっては、インバウンドの恩恵は今後も大きな成長余地として残されているのである。

●課題は「市場飽和」

 こうして独自の世界を切り開き、停滞する小売業界の中では数少ない成長企業であるドン・キホーテにとっての懸念材料を挙げるとすれば、「市場飽和」ということになるだろう。

 前述の通り、ドン・キホーテのベース顧客層は全体からすれば少数派であり、その対象マーケットは理屈の上では限られたものだからだ。ドン・キホーテ自身、市場飽和については十分に認識していると思われるが、それは店舗展開からもうかがえる。

 下図は都道府県別の大規模小売店販売額におけるドン・キホーテの2006年、16年のシェアと、その間の売り上げ増加額を示したものだ。ここから見えるのは、(1)この10年は出身地エリアでかつ最大のマーケットである首都圏よりも、地方での出店エリア拡大を重視した、(2)各県のシェアはおおむね5%程度が上限、といったことである。ドン・キホーテのターゲットが全国に一定比率存在するマーケットだと考えれば、(1)のエリア拡大もうなずける。そして、その存在が仮に10%程度であるとすれば、それだけでもドン・キホーテの成長余地は1兆3000億円程度という計算になる。現時点のドン・キホーテは出店エリアを全都道府県に拡大し、その検証を行っているとみるべきであろう。

 これまで見てきたように、ドン・キホーテは既存の総合小売業とはまったく異なるコンセプトの業態であり、その成長余地がまだまだあることもうなずける。今回の業務提携によって、ドン・キホーテはユニーGMS店舗が他社に流出することを阻止した上で、戦略に合致した店舗を優先的にピックアップしていく立場を確保したということになる。

 ただ、16年2月期のユニーの東海地区(愛知、岐阜、三重)における大規模小売店販売額のシェアは24%程度ある(17年2月期は未公表)ことを考えると、相当数の店舗がドン・キホーテにとってはオーバーシェアという計算になる。現時点でドン・キホーテが店舗再生に対応するのは、その地域の成長余地の有無による、ということだとすれば、地域ごとの目標値を達成した地域で、ドン・キホーテは店舗を増やそうとしないだろう。GMSユニーの苦難はこの提携によって軽減されるものの、一気に解消とはいかないのである。

 これからドン・キホーテが力を入れるのは対象顧客層の幅を広げていくことであり、これまで来てくれなかったファミリー層、主婦層を取り込むために、GMS店舗を使って実験を続けていくであろう。この実験に対してユニーファミマ・グループがどれだけノウハウを提供できるかが、ドン・キホーテにとってのオーバーシェア部分の解消に直結するということになるが、その過程はそう簡単ではないことは想像がつく。ユニーファミマ・グループが、GMS再構築という難問から解放されることはまだ先のこととなりそうだ。

(中井彰人)