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IT導入に失敗し続けた印刷会社の社長が出会った一冊の本

6/29(木) 12:00配信

アスキー

IT導入に失敗し続けたという九州の印刷会社の社長が出会った1冊の本。クラウドを活用した業務改善と新しい働き方はここからスタートした。
kintone hive Fukuokaではいくつかの活用事例が紹介されたが、最後は井上総合印刷の事例を紹介したい。ITを使った業務改善に長く取り組んできた同社だが、なかなかうまくいかなかった。ところがいくつかの出会いをきっかけにkintoneを使うようになり、業務改善の着実な一歩を踏み出したという事例だ。kintoneに限らず、IT導入がどうにもうまくいかないと悩む経営者は、多くのヒントを得ることができるだろう。
 
アナログで解決できない課題はシステムでも解決できない
 井上総合印刷は、福岡県朝倉郡筑前町にある印刷会社。従業員10名のほとんどがパート社員という、いなかまちにありがちな印刷会社のひとつだ。社長である井上 憲一郎さんはITリテラシーが高く、システム化による業務改善の可能性を信じていた。しかし何度チャレンジしても、うまくいかなかったという。
 
「地元のシステム開発企業、大手企業にも頼んでみましたが、いずれも投資に見合う効果を得られませんでした。いま思えば、システムがあれば業務改善ができると信じていたことが失敗の要因でした。システムさえあればいい訳ではなかったのです」(井上氏)
 

 そんな井上氏に大きな転機が訪れたのは、2014年8月のこと。偶然書店で手にした1冊の書籍、「『納品』をなくせばうまくいく(倉貫 義人 著)」に衝撃を受けたという。同書はソニックガーデンのシステム開発手法とそれがもたらす成果について書かれたもの。ソニックガーデンは月額制でシステム開発を請け負い、アジャイル開発的な手法で継続的な業務改善のパートナーとしてその力を発揮している。「こんなやり方があったんだ!」と衝撃を受けた井上さんは、すぐにソニックガーデンにコンタクトを取った。
 
「しかしソニックガーデンはなかなかシステムを作ってくれないと言われていて、私もあの手この手でお願いしたけど作ってもらえませんでした。アナログで解決できない課題はシステムでも解決できないというのです」(井上氏)
 
 それでも食い下がると、「井上さんはITリテラシーが高いから自分でシステムを作ったら?」と、kintone Caféを紹介された。そこで初めて参加したkintone Café。活用事例や機能の紹介を聞きながら、「自分だけで本格的な開発するのは無理だ」と感じたとのこと。それでも、kintone Café参加は無駄にはならなかった。kintoneエバンジェリストの久米さんと出会い、システムによる業務改善やkintoneに関する知識を深めていくことができたからだ。こうしたいくつかの出会いを経て、2016年3月にようやくソニックガーデンや久米さんとともに受注管理システムの開発がスタートした。
 
まずはアナログで業務改善ポイントを徹底的に洗い出すことからスタート
 システム開発に当たり井上氏は、まず自社の業務を洗い出すところから取り組み始めた。各従業員のポジション、役割、業務を構成する各従業員の行動など、受注から納品までの自社の業務を徹底的に書き出した。使った道具は、ボールペンとノートと付箋紙。まずはアナログで業務を見直すところからスタートしたのだ。書き出された業務内容は、約100項目にのぼる。
 
「頭の中にはなんとなく業務の流れが入っているつもりでしたが、文字として書き出すことですっきりと整理することができました。とても面倒くさかったけど、効率化できる業務も見えてきました。アナログで解決できない課題はシステムでも解決できないという言葉は、こういうことを意味していたんですね」(井上氏)
 
 こうした努力の甲斐があってか、2016年7月にリリースされた受注管理システムシステムにより、社内の手書き書類削減や、データの再利用ができるようになった。今後は在庫管理や受注予測など、より広い範囲のシステム化に取り組んでいきたいと井上氏は語る。
 
クラウドサービスの活用で業務効率化を進め、15時定時、休み放題を実現
 冒頭に紹介した通り、井上総合印刷は従業員10名の小さな印刷会社だ。社長である井上さん自身も営業やデザインなどの実務に携わっている。しかし井上さんは社長の本来の仕事は、みんなが働きやすい環境づくりだと言う。
 
「私以外の従業員は全員女性で、育児をしながらパートで働く方もいらっしゃいます。みんな井上総合印刷の従業員であり、母親でもあり、ひとりの人間です。それぞれが働きやすい環境を考えて、2016年8月のからは定時退社時刻を15時にしました。また、休暇の上限もなくしました」(井上氏)
 
 15時が定時なら、子供の迎えにも十分間に合うし、家事の時間にも余裕を持てる。休暇の上限がないので、子供の体調不良や学校行事の際にも不安はない。さらに、夏休みなど長期休暇の期間には、子連れで出社することも認めている。
 
「今では長期休暇以外でも、学校や幼稚園から事務所に帰って来る子供たちがいるんですよ。夕方になると、ただいまって言って帰って来るんです。私の好きな時間のひとつになりました」(井上氏)
 
 このような取り組みは、従来の働き方を続けていたら実現できなかったと井上氏は語る。kintoneを中心に、Googleカレンダーやチャットワーク、boxなどさまざまなクラウドサービスを組み合わせることで業務効率化を進め、在宅勤務さえも可能にしたからこそできるようになったことだ。実際に2人いるデザイナーは在宅勤務で仕事をしているという。
 
「複数のクラウドサービスを組み合わせて実現した働き方ですが、今後、kintoneに統合できるものは統合していきたいと考えています。ただしkintoneありきではなく、あくまでもみんなが使いやすい環境を作ることが目的なので、今使っているものの方がよければ継続してそれを使います」(井上氏)
 
 井上総合印刷は昨年から「BEYOND THE PRINTING」を掲げている。今までの価値観を超えて、井上総合印刷で働いていることがステータスになるような会社を目指すという。システムだけではなく、業務をアナログの視点で見つめ直すところから始めたからこそ、地に足のついた業務改善のサイクルに踏み出すことができた。そんな好例と言えるだろう。
 
 
文● 重森大

最終更新:7/18(火) 7:07
アスキー