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“痛み”を取るデジタル化提案 GEの戦略

6/29(木) 6:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、自社開発した産業用IoT(モノのインターネット)プラットフォーム「Predix」を2016年2月から提供している。これは、産業用機器から収集するデータを蓄積、分析する基盤で、設備の管理などを行うアプリケーションを使用したり、開発したりするための基盤となる。GEは、自社の工場で推進してきたデジタルトランスフォーメーション(DX)の技術や知見を生かして、「デジタル・インダストリアル・カンパニー」へと変貌を遂げようとしている。

【GEデジタル・ジャパンのワヴデ・マンダール氏】

 DXに関する有識者や専門家たちの意見をお伝えするシリーズ特集。今回は、GEデジタル・ジャパンのコマーシャルリーダー、ワヴデ・マンダール氏にGEの取り組みについて聞いた。

●パートナーは650社

―GEのデジタル事業の規模について。

 2016年は、デジタル関連の受注額が前年比22%増の40億ドルでした。17年は50億ドルを目標にしており、そのうちPredixで10億ドルを目指しています。20年には、全体で150億ドルの目標を掲げています。また、Predixのアプリ開発などを担ってもらうパートナー企業は650社に上ります。

―Predix開発のきっかけは何ですか。

 GEでは、もともと製造系ソフトウェアを作っていました。自社工場で航空機のエンジンなどを製造していると、工場の運用、モニタリング用のソフトが必要になるのです。しかし、時代が変わってくると、お客さんにデータをただ見せるだけではなく、データから得られるインテリジェンス(重要な情報)を生かして、いかに効率良くできるかということを考え始めました。そういったソフトウェアを自社用に作ってみて、効果があるということが明らかになったのです。

 また、全く想定外のところから競争相手が出てくる時代になったことも1つのきっかけです。例えば、携帯電話。昔はソニーエリクソン、ノキア、モトローラといったメーカーが携帯電話市場のリーダーでした。しかし、アップルのようなプレーヤーが入ってきて、その市場を変えてしまった。従来のマーケットリーダーの存在感は消えてしまいました。そういった危機感を持って動くのがGEという会社です。タービンも飛行機のエンジンも医療機器も、自分たちよりも他の会社がうまくできてしまうんじゃないか、という危機感が常にあります。そこで、ソフトウェアをプラットフォーム化して販売していく、という戦略を取っています。

●顧客の“痛み”を見つける

―企業に対して、何を重視して提案をしていますか。

 プラットフォームを使って、いかに“outcome”(成果)を提供していくか、が非常に重要です。従来のやり方だと、「こういうことをやるからこれだけお金をください」という提案でした。私たちが提案するのは、お客さんのビジネスを見て、どこがやりにくいか、どこに無駄が発生しているのかという課題を認識し、その課題を解決することでコストを何%削減できる、という考え方。そのため、「実践することで○億円のコスト削減ができます。私たちには何%ください」という、成果を重要視した提案になります。

 そのような提案をするためには、お客さんがどこに“痛み”を持っているかを知ることがポイントになります。例えば、原材料を調達してきて、製品を作り、それを包装して出荷して、売り上げになる。そのプロセスについて、私たちが全部管理したい、というのは、1世代前のパッケージ導入のやり方です。そうではなくて、その中でも最も痛みがある工程を見直します。例えば、特別な薬を作っていて、特別な環境で運ばないといけないため出荷費用が非常に高いという課題があったとすれば、トラックの温度調節や台数などについて、最適化するためのデータを示すことができます。

●医療機器工場の取り組み

―なぜ自信を持って成果重視の提案ができるのですか。

 私たちは自社で実践し、効果が出ているからです。その事例もお客さんにお伝えすることができます。同じ製造業のプレーヤーとして、「私たちの工場はこういう形で取り組んで、こんな効果が出ました。どうですか?」と提案できるため、おそらく他の競争相手とは話の内容が違います。一般的なソフトウェアプロバイダーとは違って、自社がテストケースになっているのです。

―自社の事例とは? どのような取り組みをお客さんに紹介しているのですか。

 分かりやすい例は、東京都日野市にあるGEヘルスケア・ジャパンの工場です。医療機器の製造現場で実践している「ブリリアント・ファクトリー」という取り組みです。デジタルを使って、作業にかかる時間を見える化して改善を図ったり、データを一覧表示する機能を取り入れたりと、さまざまな取り組みをしています。

 具体的な例を挙げると、オペレーターの制服に発信機(ビーコン)が付いていて、工場内の動きが分かるようになっています。画面上でその動きを見ると、個人、あるいはチームとして、「こういう動きが多いな」などといった発見があります。製造ラインで作業する際に、取り付ける部品を何度も取りに行くような動きです。近くに置いた方が早いことが分かり、改善できます。

―日本企業に提案しているソリューションはどのようなものですか。

 例えば、住宅設備メーカーのLIXILグループにPredixを導入しました。新築の家にバスタブなどを納める際、工事が必要になりますが、その施工人員の割り振りを自動化しています。「案外、大したものじゃない」と思われるかもしれません。しかし、家のサイズ、道路の幅、施工する技術者の状況、また、1階から入れられるか、2階から入れるならクレーンはどうするか……。さまざまな条件があることで、手配作業が煩雑になるのです。属人的になっていたこの作業を自動化することで、効率化しました。これは、GEの本来の事業とは全く異なる分野に、私たちが持っているスケジューリングの専門性などを提供できたという事例です。

 また、これは私たちにもなじみがある分野のソリューションですが、東京電力フュエル&パワーの発電機のデータをPredixのクラウドで管理することで、メンテナンスを最適化しています。エンジニアやメンテナンス担当者に、どのタイミングでメンテナンスをすると最も効率がいいか、という情報を伝えることができます。以前は、何週間に1回、あるいは異常が起きてからメンテナンス、という流れだったかもしれませんが、最適のタイミングでメンテナンスすることによって、ダウンタイムを減らすことができました。

●日本企業には“改善”の文化がある

―日本企業のデジタル化について、どう見ていますか。

 日本は“改善”に対する意識と文化が根底にあるように感じます。整理整頓を日常生活でやっているし、電車に乗るときもちゃんと並んで乗車しています。そのような文化には、DXの考え方がフィットするのではないかと強く思っています。あとは、どうやって意識を高めて、理解していくか。それから、既存のシステムの契約期間などもあり、「ごめんなさい、2年契約なので今はできません」という返事をいただく企業もあります。ですから、一概に日本企業の現状はどうか、とコメントをするのは望ましくないと思います。

 しかし、1つ言えるのは、改善したいという意思で取り組んで、気付きがあって、やり方を変える、ということに対して、日本の製造業はなじみがあると感じています。

―デジタル化に必要な視点は何だと思いますか。

 まず、何のためにやっているかという明確な目的がないと、迷子になってしまう可能性があると思います。私たちが常に念頭に置いているのは、製品を作って提供するというプロセスの中で、何らかの理由でその価値が著しく低下している場合に、それを解決し、さらに良い成果を出すということです。

 例えば、不良品が多いという課題に対して、工場のボイラーの温度が冬に0.5%下がると不良品が増えるというデータを提示できたとします。100円で売れる正規品が不良品になると20円でしか売れないとすると、ボイラーの温度を一定に保つ費用が10円だったら、70円は単純な利益ですよね。その70円のうち、いくらか私たちにください、という感じでソリューションを提案しています。効率化することで利益を生み出すという、明確な目的が必要です。

 次に、トップリーダーからミドルマネジメントまでのコミットメントが必要です。「われわれは変わる必要があるんだ。なぜなら、こういうことです」といった共通認識を持たなくてはいけません。そして、最先端のテクノロジーを使うこと。リテラシーがあるチームの体制を作らないとたぶん難しいと思います。

―ある程度リテラシーが必要なんですね。GEに依頼して、丸投げすることはできないのですか。

 丸投げはできません。DXはアウトソースできないのです。自分でやらなければいけないものであって、私たちが情報を共有したり、プロセスを支援したりすることはありますが、やっぱり自分でやらないと。GEが去ったときに、元に戻ってしまってはいけません。

●仕事のやり方を変える

―GEがDXを推進できた理由について、どうお考えですか。

 GEがなぜできたかというと、そういう組織、そういう体制を作ってきたからです。人事制度やオフィスの環境も変えてきました。自由な席に座れるようにしていて、例えば今日のミーティングの後は200通たまっているメールの処理だけをやらないといけないという場合は、家でやってもいいし、フリースペースのソファでやってもいいのです。今どきのやり方に合わせて、仕事の仕方を意識して変える、そういうフレームワークを作っていかないと、できないと思います。

―デジタル化の部分だけでなく、仕事のやり方全体を変えていく意識が必要なのですか。

 おそらく、その部分があって初めてDXという議論になるのではないかと思います。フリーアドレス制にしたからデジタル化もできる、というわけではないですが、そういったソフトな面のトランスフォーメーションによって、デジタル化のマインドセットを形成する環境を作る、ということをGEはやっています。もちろん、それが正解ということではありません。ですが、GEの場合は、人事制度や仕事のやり方などに最新のものを取り入れることで、マインドセットに影響を与えているということです。

 やるからには徹底して文化を変えないと、持続的に運用していくことはできない。GEは間違いなくそれを信じています。