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異郷に飛び込むFC東京GK林彰洋…外国語を習得し、チームに溶け込むための秘術とは?/独占インタビュー

6/29(木) 17:25配信

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2017シーズン、サガン鳥栖から完全移籍でFC東京に加入し、明治安田生命J1リーグ第15節までで14失点という堅守に貢献しているGK林彰洋。ジョアン ミレッGKコーチの指導を素直に吸収しているその背景には、彼自身の人との接し方や外国語への理解に対する柔軟なパーソナリティも影響しているようだ。

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林は欧州時代にどのように言葉を憶え、それぞれの地域、あるいはクラブに適応していったのか。独学の言語習得術、移籍先に溶け込んでいくコツと、それらを活かして勝利へ邁進するFC東京への想いを語ってもらった。

インタビュー=後藤勝

■ゼロの状態から独学で憶えたフランス語

――Jクラブを経ずにプロキャリアを始めた林選手は、最初は欧州全域で加入するクラブを探していました。その際に、どの言語から身に付けようと思ったのですか。

「まずは英語を少しでもいいから理解できるようにしたいと思い、それと並行してラテン語系のスペイン語やイタリア語で書かれたものを読むようにはしました。どの地域に行っても英語は使えるだろうという感覚のもとに習得していたので、最初にまさかフランスへ行って、英語がまったく通用しないシチュエーションになるとは思っていなかった(苦笑)(編集部注:林は流通経済大3年生時の2008年3月にフランス・リーグ・アンのFCメスの入団テストを受験)。コーチに質問するにしても、フランス語の『質問』という単語すらわからない。また、丁寧語や敬語にするためにはどうしたらいいのかという言葉の“ひねり方”から始めなければなりませんでした。例えばイタリアだと、同じ年くらいの人間に『どこ行く?』と訊くのは問題ないのですが、監督のような目上の方に『どこ行く?』と言ってしまったら、たとえ外国人であってもかなり問題になる。『どこに行きますか?』と訊くくらいには敬語を使えないと、チーム内で孤立することもあるようなんです。それは海外に行かないとわからなかったことですね」

――ネイティブの敬語などは、外国人にはわかりにくいですね。

「フランス語の『vous』は敬語で二人称の『あなた』なのですが、同じ意味の『tu』は『おまえ』くらいの感じなんですね。でも、僕は最初、監督にも『tu』を使っていたので、周囲の人に『いやいやいや、違うぞ』と指摘されました。またフランスの挨拶習慣に『ビズ(bise)』と言って互いの頬をくっつけるものがあるんですけれども、『目上の立場である監督にはそれをやらないんだよ」とも言われました。チームメイト全員とビズをするにも関わらず、監督とは握手。当時の僕はそれを知らないから、監督にビズをしに行ってしまって……(苦笑)。その国が初めてだから、習慣や慣習を知らなくても仕方がないじゃなくて、『知っていないといけない』状況なんです。それを知るためには、早い段階で誰かとコミュニケーションを取って常識を身に付けることが必要になります」

――具体的にはどうやって言葉を憶えたのですか。

「最初にフランスに行ってメスに参加したときは(フランス語の蓄積が)ゼロだった。『Bonjour』もわからない(笑)。憶える方法は、まず朝起きたらスーパーマーケットに行きます。そこで、誰でもいいから店員にとにかく話しかけまくるんですよ。そして適当に買い物を終わらせたら、次はカフェに行くんです。で、スーパーマーケットで話していた言葉をPCか紙のノートにメモして、すでに親しくなっているカフェの店員に『これ英語でどう言うんだ?』と訊いて、『それはあれだ』と教えてもらう。そのあと、練習に行って『あれは使えるかな』と試してみる。昼くらいに練習が終わったとしたら、午後2時、3時頃からチームメイトにずっとくっついていくんです。何を言っているのかわからない話を、『何言ってるんだろうな』と思いながら、ずっと聞いている(苦笑)。それで、ちょっと突っ込めそうなところがあったらフランス語で突っ込んで。そういうのを延々と繰り返していました。隙間があれば、その間に筋トレを入れてね(笑)」

――FC東京ではカタルーニャの出身であるジョアン ミレッGKコーチの指導を受けていますが、カタラン(カタルーニャ地方の言語)やスペイン語には精通しているのでしょうか?

「今年に入ってからスペイン語を勉強しています。スペイン語は(同じラテン語系の)フランス語に似ているところもあるし、(サガン鳥栖在籍時代に)マッシモ( フィッカデンティ監督)の話していたイタリア語に似ているなという感覚を得ることもあるので、決して憶えにくいものではないと思います。ただ、スペイン語特有の男性名詞と女性名詞の使い分けなどは憶えるしかない。今の僕の語学レベルだと間違いなく通訳を介したほうがいいですね。早く(ジョアンGKコーチと)コミュニケーションをとりたいので、まずはスペイン語(カスティジャーノ)を習得したい。余裕が出てくればカタルーニャ語(カタラン)も」

■未知の国、未知のクラブでのコミュニケーション

――海外のクラブに移籍した場合、サッカーのやり方をすり合わせるのに苦労しそうですが、GKとして、どのようにフィールドプレーヤーとコミュニケーションを取っていたのでしょうか。

「アフリカ系にしてもヨーロッパ系にしても、まず自分自身の能力を活かそうとするから、細かい指示は聞いてくれないと思うんです。だから、言うことを聞かせようとするよりは、自分が何をできるかを示して『こいつはこれができるな』と思わせるようにしていきました」

――その時点で林選手が考える自身の長所はなんだったんですか?

「強みはハイボールだと思っていたんですけれども、海外に行ったら僕より身長の高い選手がハイボールに出ていくわけです。だから全然強みじゃなかった。でも、ハイボールへの対応で使えるところもあるし、キックにも良いところがある、あれは、これは……と、長所を一つひとつ積み重ねていくようにしました。何か違いがあって特殊じゃないと、外国人選手を獲ろうという結論には至らない。キーパーはポジションがひとつしかない、言葉ができない、アジア系の外国人として来ている……。僕の場合はマイナスから入っているに等しい要素が複数あるわけです。それを覆したいとずっと思っていました」

――言葉が通じない場合はどうしていたんですか。

「『わからない』と言われたときには、相手がわかるまで同じ言い方で聞き続けます。だって、言い換え方がわからないから。『Question』と言って通じなければ、10回言う。わからなかったら『わからない』と言えばいい。『What do you want to drink?』と言われてこちらがわからなければ、向こうも『What…drink?』とか『Are you hungry?』と、言い方を変えてきますから。心で負けないというのが大事ですね。日本人は『何回も言ったら厚かましいかな』という感じになるじゃないですか。でも、途中で折れちゃうのはもったいないと思うんです」

■FC東京が優勝するために必要なことはブレない

――ジョアンGKコーチの指導はこまかくて独特ですね。練習中に「5.5」とか言っている数字はなんですか?

「メートルですね。たとえばゴール幅でポールを設置して、その外に抜けるのは左右のポスト、ポール幅を抑えることができればゴールを抑えられるんだとやるんです。だから、『なんとなくやってます』じゃないんですよ。一度自分が前へ出てから相手にファーサイドに振られる、そのサイドのポストまであと何メートルあるという状況で、出た位置から五歩でもボールに届かないということはポジションが出過ぎだから、ここまでの距離感で対応しよう、というように調整していく」

――練習の甲斐があってか守備が安定してきているようですが、成長している感触はありますか。

「試合によってけっこうバラバラになってしまうし、良い試合もなくはないんですけども、それを一試合を通してできなかったりする。理想に適った『間違いないな』と思えるようなチーム運びができているかと言ったら、正直疑問に思うところはあります。ただ、そこ(チームの実相)と結果とを並行して引き上げていくのは難しいことなので、どちらを優先するかと言ったら結果を優先すると思うんですね。ただ、結果をキープするためには、結局内容を良くしていかないといけない。波があっても、下の波(平均値未満)を減らしたいんです。その下の波を小さくしたチームが優勝していると思うし、堅くやれるチームが、Jでもどこの世界でも優勝していると思うので、そうなれるように、後ろからの声掛けを意識していきたいと思っています」

――FC東京が中位から脱却していくには何が重要ですか。

「FC東京は本当に強いと思われるようなチームになれるかもしれないのに、くすぶっている部分は正直あると思うんです。これが『何がどう』と説明できるレベルだったらもう解決していると思うんですけれども、一人ひとりの判断とチームの方向性をたくさん合わせていかない。仮に1から10まであったとして、3が良くなってきたら既にできていた1が崩れてきたり、その1を直そうとすると4が悪くなって、4を良くすると3がまただめになって……。三歩進んで二歩下がるような積み重ねなんですね。ただそれでも、一貫性を持って言いつづけて廻していくことでチーム力は上がっていく、強いチームになると思います。ブレないということと、ひとつの方向に向かってやっていくことが、今は必要なのかなと思って、僕は言いつづけるようにしています。

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最終更新:6/29(木) 17:26
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