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FRBが気にかける、三回目の金融危機の微かな兆候

6/29(木) 15:40配信

ニュースソクラ

引き続き利上げのFRB発表に、市場が反応冷ややかな理由

 米国連邦準備制度(FRB)は6月半ばに利上げした。事前に予想されていたことで全く驚きはなかった。米国の景気拡大は既に8年目に入っており、失業率も4.3%とほぼ完全雇用状態にある。個人的には利上げのペースは遅すぎた(いわゆるbehind the curve)ともいえるくらいだ。

 名目金利から物価上昇を差し引いた実質金利はマイナス1~1.25%程度と景気刺激的なスタンスを続けてきたからだ。慎重なイエレン議長は雇用統計が市場予想より弱い、上海の株価が暴落する、英国がEU離脱を決定した、といった度に利上げを見送ってきた。

 2015年、2016年と結果的には年に一回しか利上げできなかったが、本来はあと2~3回利上げしていれば実質金利はゼロとなっていた。

 今回の利上げについては、米国では小売売上や自動車販売などの実体経済指標は弱く、物価もむしろ、ジリジリと低下している中で一部に早計ではなかったか、との批判もある。たしかに5月の消費者物価が前年比1.5%とFRBの目標である2%を大きく下回っている。

 長い目で見ると、米国経済は失業率が8.2%から4.3%まで低下しているこの5年近く、12ヶ月移動平均でみて消費者物価のコア指数が2%を越えたことは一度もない。往時の米国であれば4%台半ばという失業率の水準であれば、賃上げ率は優に4%を越えていたはずだ。このような物価・賃金のスパイラル的上昇がみられなくなったのは日本も欧州も同じである。

 いわゆる賃金インフレの兆候は全く見えないのだから利上げを急ぐべきでないという論者の言い分も一見もっともなところがある。しかし、いったん火がつけば人手不足が広がっているなかで、イエレン議長が記者会見で答えたように急速に賃上げが進むこともありうる。

 FRBの利上げスタンスが明確化しているのに米国長期金利が低下しているのを市場では「イエレン議長の謎(Yellen's conundrum)」と呼んでいる。しかし、素直に考えれば、これは市場がFRBの利上げは長続きしないとみている表われであろう。

 つまり市場関係者は「FRBは中立金利水準とみられる3%までの利上げと4.5兆ドルとGDP比20%まで膨らんだ資産縮小により金融の正常化を図ることを志向している」と受け止めている。だが、FRBの想定のように物価・賃金が上昇せず追加利上げを断念せざるを得ない、あるいは8年も続いている景気拡大局面が終焉を迎えてむしろ利下げに転じざるを得ない、とうがった見方をしているのであろう。

 FRBは9月のFOMCで、今回発表された資産縮小策を実施する旨宣言することになろう。ニューヨーク連銀のダドリー総裁が資産縮小の実行を発表するのと利上げは別々にすべきだ、と発言しているのを参考にすれば、次回利上げは12月になるとの見方が主流となっている。

 今回発表された資産縮小プランでは、米国債の縮小額が当初は1ヶ月60億ドル、住宅ローン抵当証券(MBS)が同40億ドルというゆっくりとしたペースとなっている。概算では、これであると、FRBの総資産4.5兆ドルは2年で全体の2割に当たる9,000億ドル程度減少する計算になる。

 FRBは資産残高について、リーマン・ショック前よりは高く、しかし現在の残高よりは相当に低い水準を想定している。目標が半減だとすると4年程度かけて「出口」のプロセスが終了することになる。

 FOMCの発表文では触れられていないが、FRBが気にかけているのは長年の量的緩和の下での信用の拡大とその副作用である。5月30日にハト派のブレナード理事が講演をしている。

 その中で彼女は、2001年のITバブル崩壊と2009年のリーマン・ショックという直近二回の金融危機は、前者がPER等の指標に表れた株価の急騰、後者は住宅バブルに起因した、いずれも「急速に拡大した金融の不均衡(sharply elevated financial imbalances)」にあると指摘している。そのうえで米国企業部門の債務残高が高水準となっているにもかかわらず、投資家の意欲が旺盛なことに懸念を示している。

 さらに低所得者層を対象としたサブプライム自動車ローンについても引き受け姿勢が弛緩していること、支払い遅延など借り手の支払能力にも限界が見え始めたことを指摘している。8年に及ぶ景気回復が続く中で金融の状態は急速に変化し、格別の警戒が必要であると警鐘を鳴らしている。

 アルファベット、アップル、アマゾンなどのIT企業の先行き不安から一時、IT関連の株価が調整場面にあったのもこの文脈でとらえるとわかりやすい。

 トランプ政権による大幅減税がほぼ完全雇用状態の米国経済で実施されることになるのか、中国経済が7%近い実質成長を遂げる一方で資本流出や債務問題に直面していて持続的成長を遂げられるのか、などFRBの金融政策を取り巻く環境には不確定要素が大きい。

 だからこそ、低金利の是正や膨張したFRB資産の縮小を通じて金融の正常化を図っておき、柔軟な対応力を確保していくことが不可欠である。米国が直面している成長率、生産性の低下ひいては賃金神話のゆらぎを金融政策で正すことはできない。それはトランプ大統領率いる米国政府の役割である。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:6/29(木) 15:40
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