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倉石平氏が日本代表の新HCに期待「アルゼンチンバスケットは世界的に異質で、今までなかったスタイル」

6/29(木) 18:00配信

バスケットボールキング

バスケットボール日本代表として活躍し、引退後は古巣の熊谷組、大和証券、日立(現サンロッカーズ渋谷)、日本代表などでヘッドコーチを歴任。現在は早稲田大学スポーツ科学学術院教授を務める倉石平(くらいし・おさむ)氏に、6月上旬に行われた東アジアバスケットボール選手権大会2017を総括してもらった。アルゼンチンから新ヘッドコーチを迎える日本代表の現在地は? 倉石氏は来る2017FIBAアジアカップ、FIBAバスケットボールW杯1次予選へ向けて「どんなバスケットをするか楽しみ」と期待を口にした。

インタビュー=安田勇斗
写真=山口剛生、Getty Images

――6月3日から7日に掛けて行われた東アジアバスケットボール選手権大会2017で、日本代表は中国代表を76-58で破り、3位に入りました。大会をとおして日本代表の良かった点は?
倉石 シーズン終了直後にも関わらず、しっかりと戦えたことですね。オリンピックなどに比べあまり価値が高くない大会ですけど、真剣に戦ってある程度の結果を残せたことは収穫だと思います。Bリーグができて、選手たちがプロであることを意識して懸命に戦ったことは評価できるかなと。あと具体的なプレーとして、ルカ・パビチェビッチヘッドコーチ(現アルバルク東京HC)が指導していたディフェンス面の成果が出た点は良かったですね。新しいHC(フリオ・ラマス/元アルゼンチン代表HC)が来て、それをさらに高められるかが今後のポイントになると思います。

――ベストメンバーではないチームもあったと思います。そのあたりはどう見ていますか?
倉石 優勝した台湾(チャイニーズ・タイペイ)はトップクラスの選手がそろっていましたけど、中国や韓国は若手が中心でしたし、何が何でも優勝する、という感じではなかったですね。ただ、確かに各国のテンションの違いはありましたけど、そのことに関係なく日本が自分たちのバスケットを出せたことは良かったと思います。

――初戦で78-72と勝利した韓国に対して、比江島慎(シーホース三河)選手は、ベストメンバーの韓国とあまり変わらない印象を受けた、と発言していました。
倉石 韓国にはこの大会に出ていないスター選手が何人もいます。国の威信を懸けた大会であれば彼らが出ていたはずです。プレーレベルに圧倒的な差はないかもしれないですけど、1点2点を争う戦いでは彼らのプライドや経験値が大きな力になると思います。今回はホームでの対戦でしたけど、アウェイや中立地だとまた状況も変わってきます。

――過去対戦した韓国代表と比較して、プレースタイルに違いはありましたか?
倉石 ほぼ同じスタイルですね。韓国は中学ぐらいから高校、大学、プロと指導方法が一貫しているんですよ。だから戦い方が大きく変わることはありません。インサイドバスケットを主体として、ある程度中にボールを集めながら外を使う形です。ただインサイドでいける時はインサイドを徹底します。韓国はずっとこのバスケットを続けているんです。もっとも、韓国には独特のリズムがあって、一概にインサイドゲームだ、インサイドアウトだとは言えず、世界的にもあまり多くない、リスクを負うバスケットで戦っています。アジアの代表として長年世界で戦ってきた経験から、このスタイルを選んでいるんだと思いますね。

――では準決勝で73-78で敗れたチャイニーズ・タイペイにはどんな印象を持ちましたか?
倉石 台湾とはアジアカップ(2017FIBAアジアカップ)でもW杯予選(FIBAバスケットボールW杯1次予選)でも戦います。この試合には負けましたけど、勝てるチャンスはあります。日本はシーズンが終わったばかりで疲れていましたし、ベストな状態だったら倒せる可能性が十分あったと思います。

――チャイニーズ・タイペイは実力的に、日本と同程度と見ていいのでしょうか?
倉石 そうですね。さらに言うと、W杯予選ではホームでもアウェイでも勝たないといけない相手です。その意味でも今回の対戦はいい試金石になりました。向こうはほぼベスト、日本は疲労困憊、それで競った展開になったので。実際に対戦してたくさんの情報を得られたのも大きいですね。

――続く3位決定戦では中国相手に76-58と大勝を収めました。
倉石 今回の中国は経験値が不足していました。中国は日本や韓国と違って、高校卒業のタイミングで大学とプロに分かれます。その高卒プロの選手が年々増えてきました。東アジア選手権に出ていた選手たちは大学に行かずプロに進んだ選手たちで、プロキャリアも浅く経験が足りないんです。それが経験で勝る日本の勝利につながったと思います。ただあの若さでプロの試合でプレーし、代表にも選ばれるエリート選手なのでポテンシャルは間違いなく高いですね。あと1年したら見違えるほど成長すると思いますよ。

――どのあたりにポテンシャルの高さを感じましたか?
倉石 まずはがむしゃらにプレーすることですね。とにかく相手選手やボールに食らいつくし、勝負を絶対に捨てない姿勢は素晴らしい。それとサイズの大きい選手が3ポイントを打ったり、ドライブを仕掛けたり、何でもやってくるんですよ。日本で2メートルあったらインサイドだけってなりがちなので。こういう選手たちが経験を重ねたらどうなるんだろうっていう怖さがあります。

――「経験」とは具体的にどういった点でしょうか?
倉石 まずは展開や流れを読む能力ですね。それとプレーのオリジナリティやクリエイティブさも経験を重ねることで生まれるものです。

――東アジア選手権4試合をとおして、日本代表で特に良かった選手は?
倉石 比江島や富樫(勇樹/千葉ジェッツ)は良かったですね。比江島は苦しい場面、追い詰められた場面で何本もシュートを決めていました。ああいうメンタルの強さ、勝負強さを持っていることを証明できたかなと。1番(ポイントガード)をやらせていろいろなことを任せたら面白そうだなと感じましたね。富樫はサイズはないですけど何でもできる。日本人は「柔よく剛を制す」が好きだし、彼の活躍はチームに勢いを与えます。ただ何でもできる分、負担も大きいので、富樫1人でクリエイトするのではなく、富樫から連係してチーム自身にリズムが出る、臨機応変にクリエイトできる形を作れるようにならないといけない。富樫以外の選手がもっと点を取りに行って、富樫が得点だけでなくアシストに回る場面が増えればより彼の能力が際立つはずです。もちろんサイズ面のマイナスはありますし、相手に徹底してミスマッチを突かれたらもっと苦戦したと思います。今後はそうなっても守りきれるようにチームとしてカバーすることも必要になってきます。

――メディアは馬場雄大(筑波大学)選手の活躍もクローズアップしていました。
倉石 実力どおりのパフォーマンスだったと思います。ドライブやダンクなどで運動能力の高さを見せてくれました。ただ彼には伸ばせる部分がたくさんあります。外のシュートだったり、1対1の仕掛け方だったり、複数ポジションをこなすなどそれ以外にも成長できるところがたくさんある。東アジア選手権では素晴らしい活躍を見せましたけど、ポテンシャルを考えるともっとできるはずです。彼にはいろいろな経験を積んでさらに成長してほしいですね。

――ではもっと活躍してほしかった選手はいますか?
倉石 インサイド陣ですね。太田(敦也/三遠ネオフェニックス)は良かったと思います。台湾の、元NBAや元NCAAのセンター相手に体を張って戦えていましたし。ただ、他の選手はもっとやってほしかったです。例えば永吉(佑也/京都ハンナリーズ)はもっとできると思います。真っ向勝負するところは良さでもあるんですけど、身長が2メートルないのでそれだけでは厳しい。10センチ以上大きい相手とどう戦うかが課題かなと。体の幅や強さはありますけど、手は長くないですし正面から戦うにも限界がある。川崎(ブレイブサンダース)から京都への移籍を機に技を増やす、シュート力を高めるなど成長してほしいですね。

――8月のアジアカップでは今回のメンバーに加えて、どんな選手が入ってくると思いますか(候補選手発表前の2017年6月22日に取材)?
倉石 NCAAのルールなどもあり難しいかもしれませんが、渡邊(雄太/ジョージワシントン大学)や八村(塁/ゴンザガ大学)、あとU-19日本代表あたりからいい選手が出てくる可能性がありますし、出てくると面白くなりますね。あとは川崎の篠山(竜青)、辻(直人)、栃木ブレックスの古川(孝敏)、三河の金丸(晃輔)あたりはあるかなと。今回は実質シューターがいなかったんですよ。辻や古川、金丸なんかが入るともっと違った展開になると思います。

――日本代表のヘッドコーチに就任するフリオ・ラマス氏はどんなバスケットを展開すると思いますか?
倉石 まずプレーがより速くなると思います。アルゼンチンも全体的にサイズがなくて、スタイルとしてはトランジションやディフェンスのアグレッシブさを特徴としています。前任のルカのバスケットはインサイドの選手を2人置くというベースがありましたが、アルゼンチンバスケットは形が異なるため、場面によってはインサイドを1人にすることも十分あると思います。世界的にも異質で、アジアに今までなかったスタイルなのでどう転ぶかはわからないですけど、個人的にはすごく期待しています。ダイアグラムなどで図にすると、プレー自体に真新しさはないんですけど、リズムやスピードの緩急などは狙いどころが違うし、パスゲームのやり方も違う。どんなバスケットをするか楽しみですね。

――2012年ロンドン・オリンピックでアルゼンチン代表をベスト4に導いた実績もあります。
倉石 アルゼンチン国内で“四天王”と言われているコーチのうちの1人です。その“四天王”の中で唯一、オリンピックやW杯でメダルが取れていないのが日本代表の新しいコーチなんですが、メダルを取れるかどうかは紙一重で、その時の運もあったと思います。“四天王”の他の方とそん色ないと考えています。

――そのアルゼンチンバスケットにマッチしそうな選手は?
倉石 馬場、渡邊、八村あたりは合うと思います。サイズがあって動ける選手はマッチしやすいですね。

――8月にアジアカップが行われ、11月にはいよいよW杯のアジア予選が始まります。アジア予選はチャイニーズ・タイペイの他、オーストラリアとフィリピンが同グループです。
倉石 一番強いのはオーストラリアで、それに次ぐフィリピンも日本より格上です。台湾には勝てると思いますし、アウェイでも確実に勝たないといけない相手です。フィリピンとはいつも競って負けてるんですよ。インサイドでガンガンやられてそこに気を取られると、外の小柄なシューターに決められる。同じ形でやられないように対策が必要ですね。

――カギはインサイドになるのでしょうか?
倉石 そうですね。太田1人に頼っては勝てないので、もう何人かインサイドで勝負できる選手がほしいです。今は竹内兄弟(公輔/栃木ブレックス、譲次/アルバルク東京)しかいないのでできればフレッシュな選手も入れたいですね。そこで勝負できればグループ2位も見えてくると思います。

――オーストラリアに勝つのはやはり難しいですか?
倉石 勝てたらメダルを狙えますよ(笑)。アジアで一番強いチームです。2メートル10センチ台の選手がゴロゴロいて、選手育成が実り何人もNBA選手を輩出しています。

――惨敗もあり得る?
倉石 惨敗でもトライして、20点差以内に抑えられたら二重丸です。それを繰り返しながら高さ対策、強さ対策を明確にしていく。アジア予選では逆に一泡吹かせるぐらいの速いバスケット、意外性のあるバスケットを見せてほしいです。オーストラリアの強さは本物なので、すぐに追いつけるとは思えないですし、何年も掛かるかもしれないですけど、新しい日本代表はそうした可能性を秘めていると思います。

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