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「ザ★チャーハン」が男性の胃袋をつかんだ理由

6/30(金) 8:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 冷凍チャーハンの市場が熱い。日本冷凍食品協会の統計データによると、2016年の冷凍チャーハンの国内生産量は前年比24%増。飲食店にも負けない本格的な味を求めて、各メーカーが商品開発でしのぎを削っている。その火付け役となったのが、味の素冷凍食品が15年に発売した「ザ★チャーハン」だ。同社によると、16年の冷凍チャーハン市場は、ザ★チャーハン発売前の14年と比べて1.5倍に拡大。活性化に貢献してきた。

【「ザ★チャーハン」のパッケージ】

 がつがつと食べられる味と香り、他にはないパッケージなどが多くの人を引き付けている要素。どのようにコンセプトを考え、それを商品として形にしたのだろうか。同社マーケティング本部家庭用事業部商品開発グループの田中宏樹さんに、商品開発の取り組み方や苦労などを聞いた。

●“男性好み”に軸足

 味の素の冷凍チャーハンといえば、1978年に発売した「具だくさん五目炒飯」が主力。冷凍チャーハン市場を開拓したロングセラー商品だ。豊富な具材を楽しめることから、ファミリーを中心に長年愛されてきた。

 一方、そのような冷凍チャーハンと中華料理店で提供されるチャーハンは特徴が異なる。お店でよく食べられているのは、ネギ、卵といったシンプルな具材。中華鍋で勢いよく炒められており、風味が立っている。近年は冷凍チャーハンでも、このような特徴を再現した商品が増え、人気を集めている。

 主力商品といえども、具だくさん五目炒飯をさらにおいしくする努力を重ねるだけでは、本格的なお店の味を求める人には買ってもらえない。これまでとは違う、新しい顧客層を取り込むための新商品が必要だった。

 そのため、新商品開発に当たって、ファミリー中心だったターゲットも大きく変えた。「スーパーなどで冷凍食品を買っているのは女性でも、実際に食べるのは男性が多いことが分かった。思い切って“男性に好まれる商品”に軸足を置くことにした」と田中さんは振り返る。

 男性をメインターゲットにした、がつがつと食べられるチャーハンの開発に挑むことになった。

●店のチャーハンを食べ歩く

 「チャーハンにとって大事な要素」を明らかにするため、まずは中華料理店やチェーン店など、さまざまな店のチャーハンを食べ歩いた。そこで分かったのは、具材はシンプルながら、香ばしい風味があるチャーハンがよく食べられているということ。出てきた瞬間に食欲がそそられる香りだ。

 「炒め方に特徴がある競合商品はあったが、“香り”や“風味”を特徴とした冷凍チャーハンは少なかった。香りを立たせることを開発のコンセプトに置くことにした」(田中さん)。

 お店のチャーハンのような香ばしさを出すにはどうしたらいいのか。中華料理店のチャーハンは、強い火力で一気に炒めるため、焦がしたような香りが出てくる。冷凍チャーハンで同じような作り方はできない。そのため、調味料を工夫することになる。「香ばしさを出すための材料を探し、答えに行き着くことに苦労した」と田中さんは振り返る。

 さまざまな調味料を研究するうちに、焼き肉のたれやドレッシングの風味に行き着く。チャーハンとは直接関係ないが、それがヒントになった。香ばしい風味がある調味料には、ニンニクが使われているのだ。その気付きをきっかけに、「ニンニクにチャンスがありそう」と考えた。そうしてたどり着いたのが、「マー油」だ。

 マー油は、炒めて焦がしたニンニクを材料とする油。香ばしさがあり、ラーメンによく使われている。中華鍋でご飯や卵などを炒めることで引き立つチャーハンの香ばしさを、マー油の香ばしさで再現した。

 加えて、ネギを炒めて風味を出したネギ油を使用し、香ばしさをさらに高めた。また、調味料を扱う味の素グループ内の研究開発で実用化された「コク味」物質も採用。「味を分厚くする」(田中さん)ため、新しい材料を取り入れた。

●イメージを変えるパッケージ

 ザ★チャーハンを店頭で手に取るときに気になるのが、パッケージの大きさとデザインだ。他の冷凍チャーハンとは“見た目”の部分でも一味違う。それは、従来の冷凍チャーハンのイメージにとらわれない、利便性や独自性の追求から生まれた。

 まず、600グラムという内容量だ。冷凍チャーハン1袋の量は450グラムが主流。そこから150グラムも増やすと、他の商品と比べて単価も上がってしまう。それでも量を変えた理由は、450グラムが最も適正な量ではないと考えたからだ。「1人で食べるには多い。でも、2人だと少ない。中途半端だった」(田中さん)。飲食店のチャーハンを食べ歩いたときには、スケールを持ち込み、量も調べた。その結果、どの店もだいたい1皿300グラム前後。1袋の量は、2食分の600グラムに定めた。

 そして、存在感のあるパッケージだ。正方形、背景は黒色、金色の文字。売り場で目を留めてもらうため、独自性を重視した。冷凍食品は横長のパッケージが多いが、「横長のパッケージが特に便利だというわけではない」(田中さん)。丸く盛ったチャーハンの写真を中央に大きく位置付けることができて、どのように陳列されても表面が見えやすい正方形を選んだ。

 また、赤や黄色、白など明るい色が主流の冷凍食品売り場で、黒と金のパッケージは異彩を放つ。「パッケージ案は20種類ほどあったが、男性に『これいいね』と言ってもらえるようなイメージを意識した」(田中さん)という。

 思わず目を留めて読んでしまう「焦がしにんにくのマー油と葱油が香る、ザ★チャーハン600g」という文章のようなフレーズも目立つ。他の商品パッケージにも、商品名と併せて特徴を記載しているが、文字が小さいためなかなか目に入らない。今回は、「香り」というキーワードだけでなく、マー油、ネギ油といった材料まで商品名と同じ大きさの文字で目立たせた。「パッケージに目を留めて読んでもらえれば、特徴を一目で理解してもらえる」(田中さん)という狙いだ。

●“新しさ”の意図を販売現場に伝える

 こうして完成した、ザ★チャーハン。あとは市場投入してお客さんの反応を見るだけ……というわけにはいかず、店頭に置いてもらうために社内外の理解を得ることが必要だった。パッケージや容量をこれまでと大きく変えたことから、そのコンセプトや「売れる」という思いを十分に伝えることが難しかったという。

 当初、社内の営業担当者や小売店などの取引先から、疑問の声が聞こえてきた。量を増やしたことで、他の商品より100円程度高い400円前後の販売価格が想定される。そのため、「単価が高い。本当に売れるのか」「量はこんなにいらない」といった意見もあったという。それでも、「食べれば『おいしい』と言ってもらえる」。販売のモチベーションを上げるために、田中さんら商品開発グループは説明を重ねた。

 繰り返し伝えたのは、「新しい市場をつくる」という思い。「競合他社からお客さまを奪うのではなく、冷凍チャーハン市場そのものを大きくすることが必要」と田中さんは強調する。そのためには、常識を変えるような新しい商品を提供し、消費者により満足してもらうことが欠かせない。何度もそのような説明をすることで、機運を高めていった。

 発売から約2年。狙い通り、男性を中心にファンを増やしている。しかし、田中さんは「全体を見ると、ザ★チャーハンを買ってくれている人はまだ多くない」と見る。「“手作り派”にも、冷凍食品だからこそ実現できる価値を伝えていけば、もっと伸びるチャンスはある」。加熱する市場で切磋琢磨し、さらなる市場活性化に挑む。