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またか。なぜアントニオ猪木にトラブルが多いのか

6/30(金) 8:19配信

ITmedia ビジネスオンライン

 あの“燃える闘魂”のお家騒動が表面化した。プロレスと総合格闘技の団体「イノキ・ゲノム・フェデレーション(IGF)」が創業者のアントニオ猪木氏の妻を「不当利得返還請求事件」として提訴し、東京地裁で第1回審理が行われていたことを公表した。IGF側は猪木氏のマネジメントを行う夫人に対し、2014年4月~16年2月までに請求された接待交際費やマッサージ代などをIGFの業務には関係ない不当利得として約4250万円の返還を求めている。

【猪木氏を擁護する声も】

 IGFはその団体名通り、07年に猪木氏が設立した。猪木氏は参議院議員に当選した後の14年に取締役を辞任したが、その後も31.5%の株を保有する筆頭株主として水面下で団体運営に深く関わってきた。

 しかしここ最近は、猪木氏が新たなマネジメント会社を設立するなどIGFとの距離感が鮮明になっていった。さらに先月末の新格闘技イベント「ISM」の記者会見で猪木氏は「あんまりコメントしたくないんですが(IGFは)会社の整理という形で考えている」とコメント。先日もTwitter上で「今のままのIGFは無くなります。その後の事はプロレスファンの気持ちを汲んで行動します」(原文ママ)などと書き込み、6月14日に行われた株主総会でIGF取締役3人の解任と猪木氏の取締役選任を求めたものの、猪木氏側の代理人の出席と委任状の提出が「不合理な理由で」認められなかったことも明かしていた。

 猪木氏側から解任を求められているIGF取締役の1人はサイモン・ケリー猪木氏。猪木氏の娘婿だ。サイモン氏は00年に、当時、新日本プロレスの筆頭株主だった創業者、猪木氏の誘いを受けて、同社に入社。その後、社長の座にまで上り詰めるなど猪木氏と一蓮托生ともいえる間柄だったが、今や骨肉の争いをする犬猿の仲となってしまった。

●猪木氏の周辺でトラブルが続発

 それにしても猪木氏の周辺では以前から、このような不穏なトラブルが不思議なほど繰り返し起きている。

 その中でも新日本プロレス時代の1980年代前半、その猪木氏を巡ってぼっ発した「アントン・ハイセル問題」は忌まわしき黒歴史と言えるだろう。この時期、猪木氏は幼少期を過ごしたブラジルでさまざまな事業を展開しており、その一環としてバイオ燃料事業を主軸とする「アントン・ハイセル」社を設立。同社はサトウキビの搾りカスから精製したアルコールをバイオ燃料へと転換する技術開発を目的に事業を始め、他にもタバスコの販売権を得るなど業績を伸ばそうとしたが、結局数年で経営が行き詰った。

 前段階でロクに試験的な精製も行わずに巨大プラント建設を強行したことで、肝心のバイオ燃料精製が実際にはうまくいかず、さらに当時ブラジル国内で頻発していたインフレによって自転車操業を強いられるようになったことが大きな足かせとなった。加えてこのバイオ燃料の精製が実は深刻な公害問題を引き起こすことも発覚し、その解決策を見い出せないまま同社は経営破たんに追い込まれ、多額の負債を背負うハメになった。一説によればその額は16億円にも上ると言われている。

 しかもアントン・ハイセル社を軌道に乗せるため「新日本プロレスの社員や所属レスラー、スポンサー、その他の関係者から借金を重ねていた」との証言もあり、当時新日本プロレスの社長だった猪木氏はこの副業を数多くの“犠牲”のもとに成り立たせようとしていたことが分かる。

 アントン・ハイセルの事業失敗が結果として一枚岩だった新日本プロレスが内部崩壊を招く形につながり、猪木氏はメインイベンター兼創業者という立場でありながらも新日本プロレスの社長を解任させられている。

 前出の16億円ともささやかれる巨額の借金については新日本プロレスと放映権契約を結ぶテレビ朝日が放映権を担保とし、一部を肩代わり。そして当時の有力スポンサーだった佐川急便の会長にも肩代わりしてもらい、その不足分には新日本プロレスの売り上げをつぎ込んで何とか完済した。

●猪木氏を擁護する声も

 人様の手助けを得たとはいえ、これだけ巨額の借金を完済した事実は猪木氏ならではと言えるのかもしれない。それでも新日本プロレスの社内利益を自分の副業の借金に補てんしたことは、やはり経営者として失格と言わざるを得ないだろう。これが後に社内クーデターへとつながり、愛弟子の初代タイガーマスク(佐山聡)や前田日明、高田延彦、長州力ら人気レスラーたちの大量離脱を招いたと指摘する声も少なくない。

 まだある。1976年6月に行われたプロボクシング世界ヘビー級王者のモハメド・アリとの異種格闘技戦は現在も語り草となっているが、ここで猪木側が背負った借金は「10億円」との説もある。プロボクシング界の超大物、アリに支払うギャラが20億円近い超高額だったことが最大の要因だ。だが、この負債も最終的にはテレビ朝日の尽力や当時サポートしていた側近たちの裏交渉なども実り、すべて「ゼロ」になったとみられている。

 それでも猪木氏を古くから知る事情通は、こう擁護する。

 「猪木さんは『金に汚い』と言う人もいるが、そうではなく『無頓着』という批評のほうが正しいと言えるのではないか。ショー的な要素だけでなく“裏”の実力とカリスマ性に加え、破天荒なことをやる発想力と実行力もあるから、あれだけの一流レスラーになった。夢を追い求めようとするが余り、そこにどれだけのカネがかかろうとも『だから、それがどうした』と押し切って突き進んでいく。

 そんなブルドーザーみたいに周りを見ない感じのところもあるから、中には押し潰されてしまう人もいるのは事実。とはいえ、いい意味でも悪い意味でも即決することができる人なのでしょう」

 確かにアリら他の有名格闘家たちとの異種格闘技戦シリーズや“真の世界一を決める”とのうたい文句で提唱したIWGPヘビー級ベルトの創設といった画期的なアイデアを猪木氏は破天荒ともいえる実行力でこれまで数多く実現させ、話題をかっさらってきた。

 最初の参議院議員当選後の90年には湾岸戦争の危機が迫っているイラクで、そして95年には北朝鮮でもそれぞれ『平和の祭典』という名称でプロレス興行も行った。当時、イラクの元首だったサダム・フセイン大統領は、この興行を契機として人質となっていた日本人41人を解放しており、これは素直に猪木氏の功績と言っていい。

 ただ、こうした猪木氏の性格とやり方を批判する別の関係者もいる。

●猪木氏は究極の“夢追い人”

 「究極の“夢追い人”だから周りからうまい話を持ちかけられると乗っかってしまうところがある。『アントン・ハイセル』の失敗の件があったのに、その後も『アントン・フーズ』の名前で健康食品事業を始めたり、外部からのエネルギーを一切使用せずに運動を続けるというシロモノの発電機『永久電機』の発明に尽力し続けたり。

 ただこれらもすべて頓挫してしまった。すべてがそうだとは言わないが、スーパースターの猪木さんだから『うまく利用してやろう』と近づいて来る悪い人間も少なからずいる。そういう輩にうまく丸め込まれて担がれ、それまで良好な関係だったはずの人と亀裂が生じるケースもある。まあ、それも猪木さんらしいといえばそれまでなんですが……」

 個人的に言えば、猪木氏は安住の地を見つけて楽をしようとせず、絶え間ない変化を追い求めて常に足掻(あが)くことを生きがいにしている人なのではないだろうか。同じ場所にとどまり続けていても進歩はない。だからこそ新しい何かに挑戦することを望み、時に奇想天外な発想を世に訴える。プロレスの枠組みだけにとらわれず、多くの失敗も重ねながら世間を驚かせ続けてきたのは、きっといい意味で「永遠の少年」のように好奇心旺盛だからなのだろうと考える。

 だが、周辺ではそういういわゆる「猪木イズム」を巧みに利用しようとするズル賢い輩が現れては消えることを繰り返し、そしてそんな彼の破天荒な生き方について行けずに離れていく人も多い。猪木氏に数多くのトラブルが付き物となっている背景には、夢を追う姿勢を持つがゆえにそこに群がろうとする一部の悪い取り巻きの存在や、彼自身もまた「去る者は追わず」という非常にドライなポリシーをもっているからだと考察する。

 猪木氏が座右の銘としている詩で「道」というものがある。「この道を行けばどうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし 踏み出せばその一足が道となり その一足が道となる 迷わず行けよ 行けばわかるさ」――。

 これからも猪木氏には「道」を突き進んでほしいと願う。ただし、かつてのアントン・ハイセル問題や今回の件を含めたリング外のゴタゴタでファンを幻滅させてしまうような姿だけは、もう見たくない。

(臼北信行)