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100年に一人の逸材・棚橋弘至の「一瞬の夏」をこの目で見届けたい

6/30(金) 12:04配信

スポーツ報知

 ファッション、そして生き様。一人の人気レスラーのファンに与える影響力はすごいな。そんなことを思わせる出来事があった。

 サッカー担当だった1994年以来、かれこれ四半世紀近い付き合いの元日本代表MFと、ある芸能イベントで久しぶりに顔を合わせた。「見てよ。この髪型。かっこいいでしょ。体型も内藤みたいでしょ」。そう言って、力こぶを作った彼。確かに金に染めた髪を肩まで伸ばし、ビルドアップされた体はサッカーの現役時代とは一変。名前の飛び出した新日本プロレスの人気レスラー・内藤哲也(35)にかなり“寄せて”きていた。

 今、人気NO1団体の新日本プロレスをファッション面でリードしているのは「制御不能のカリスマ」と言われ、昨年のプロレス大賞MVPにも輝いた内藤だろう。試合会場に行けば、内藤率いる「ロス・インゴベルナブレス」の黒のTシャツを来たファンがいかに多いか。さらにもう一人。人気、実力ともにNO1。新日最高峰のIWGPヘビー級王者であり、交際中の彼女がテレビ朝日アナウンサーというスター中のスター・オカダ・カズチカ(29)も今、リング上で光り輝いている。

 そんな2人の陰で今、エースとして10年近く新日を引っ張ってきた男が、もがき苦しんでいる。棚橋弘至。40歳。異名は「100年に一人の逸材」。抜群のルックスとハイフライフローを始めとする華麗な技、何よりもその強さでトップに君臨し続けていたスターレスラーは近年、新日特有のハイスパート・レスリングを長年続けてきたツケで満身創痍。昨年5月には左肩剥離骨折、二頭筋断裂。今年5月にも右上腕二頭筋けん遠位断裂で3週間欠場と常に大ケガと戦いながら、リングに上がり続けている。

 今年1月4日、内藤に敗れた際は「棚橋は完全に終わった」と切り捨てられた。一般入試で立命館大法学部に入学したインテリレスラーの姿は、テレビのクイズ番組やバラエティー番組で見かけることの方が多くなった。昨年、本人が雑誌のインタビューで「改めて考えると、棚橋って言うのは見た目だけで上がってきたレスラー。ただカッコイイだけなんです。後は普通なんです」と自虐的に答えているのを読んだ時は随分、追い詰められているなあと思った。

 20年ぶりにプロレス取材の現場に戻って、今年1月4日の東京ドームでケニー・オメガ(33)との激闘を制したオカダに翌日、「さすがは新日のエースですね」と話しかけた時も「いいえ、エースを名乗っている人は他にいるので…。でも、本当のエースが誰かは見る人は分かっていると思いますけど」と答えられ、ああ、棚橋は「エースを自称している過去の人」になりつつあるのかと思わされた。

 そんな元エースに今、風が吹き始めている。試合会場に足を運び始めた当初はしぼんで見えた、その体が取材に行くたびに輝きを増し、明らかにパンプアップされてきた。「筋肉は僕の大事な根幹の部分」そう言い続けている棚橋最大の武器“美しい体”が明らかに取り戻されつつある。相手の技を受けて、また受けて、最後に自分のフィニッシュホールドで勝つ―。そんなプロレスラーの基本「体の強さ」を大ケガが続き、限界ぎりぎりのトレーニングに励めなかった棚橋は失いつつあった。しかし、今、40歳にして痛む体と戦いながらの激しいトレーニングが再び「100年に一人の逸材」を輝かせ始めている。

 結果もついてきた。6月11日の大阪城ホール大会では王者・内藤を破り、インターコンチネンタルヘビー級のベルトを取り戻した。試合後の「まだ死んでなかったでしょ。棚橋は生きているから。少し休んでもエースはエースだから」。息も絶え絶えに絞り出した言葉に、エースを張ってきた男だけが口にできる重みを感じ取った。

 その後、東京・後楽園ホール大会を何度か取材した。どんな激闘を演じた後もきちんと取材陣に答え続ける律儀な男の口から威勢のいい言葉がどんどん出てくるようになった。

 「相手に失礼のないようにリニューアルして、リング上でリンクしないとね。まだまだ成長していけると思う」。ある時は現在、米国で大活躍中のかつてのライバル・中邑真輔(37)の名前を出し、「真輔の気持ちも背負って、リングに立っていますから」と前を向いた。

 そんな復活途上の元スーパースターが挑む大舞台が、7月17日開幕の新日最大の真夏の祭典「G1クライマックス」。所属するスターレスラー20人がシングルマッチのリーグ戦を戦うファン待望のビッグイベントだ。

 2007年、2015年の覇者・棚橋は16年連続16回目の出場。もちろん優勝を狙う。かつて、ノンフィクション作家・沢木耕太郎さん(69)はいったんリングを去った素質抜群のボクサー・カシアス内藤(68)のカムバック戦を追いかけ、名著「一瞬の夏」を上梓した。2017年夏、棚橋の「一瞬の夏」には、どんな結末が待っているのだろう。8月に出る答えを、じっくりと見届けたいと思う。(記者コラム・中村健吾)

最終更新:6/30(金) 20:43
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