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検察が東芝歴代経営者を立件していれば・・・

6/30(金) 14:30配信

ニュースソクラ

検察の怠慢が巨額損失などの傷を大きくした

 「財界総理」とされる歴代経団連会長でも、石坂泰三氏と土光敏夫氏は存在感が違った。その2人を輩出した東芝が債務超過に陥り、上場維持が危ぶまれる。虎の子の半導体メモリー事業の売却で切り抜けようと綱渡りが続く。名門の凋落は目を覆うばかりだ。

 いくつかの「たら」「れば」がある。「ウエスチングハウス(WH)社を買っていなかったら」は、東芝関係者の最大の悔いだろう。筆者は、2015年に発覚した不正経理を機に「検察が、証券取引等監視委員会の告発を受け入れ、歴代経営者を立件していれば」もう少しマシな展開があった、と思う。

 監査法人が認めず、東芝は17年3月期の有価証券報告書(有報)の提出を期限の6月末から8月に延ばし、28日の株主総会は決算報告なしの総会になった。有報や四半期報告書の提出延期は5回目、上場会社として失格だ。機関投資家など株主から起こされた損害賠償訴訟の請求額は計1000億円を超えた。

 証券監視委は、15年に発覚した利益水増しの一部を粉飾にあたるとみて、関与した西田厚聡、佐々木則夫、田中久雄の歴代3社長の刑事訴追を検察に求めていた。特捜検事経験もある佐渡賢一監視委委員長(当時)を筆頭に検察と掛け合ったが、16年夏までに法務・検察当局は、監視委の告発をはねつけた。

  「オリンパス事件」では菊川剛・同社元会長らが、粉飾(有価証券報告書虚偽記載)で起訴され有罪判決を受けた。「ライブドア事件」では、ホリエモンこと堀江貴文・同社元社長が、粉飾などで実刑判決を受け服役した。なぜ、「東芝事件」にならないのか。

 会計不正で引責した歴代3社長のうち、西田、佐々木氏は経団連副会長を務め、政府の審議会などに関わった。佐々木氏は安倍政権の経済政策立案の中枢ともいえる経済財政諮問会議議員、産業競争力会議議員を歴任している。

 3社長の前任社長の岡村正氏は13年まで日本商工会議所会頭、その前任の西室泰三氏は16年まで日本郵政社長、また、安倍首相の「戦後70年談話に関する有識者会議」の座長も務めた。法務・検察当局の立件回避には、東芝に「お世話になった」政権への忖度(そんたく)があったのでは、と疑いたくなる。

 もし、検察が早い時点で監視委の告発を受理し、捜査・立件に動いていたら、後継の経営陣の顔ぶれや、ガバナンスのあり方も違っていた可能性がある。

 元トップの刑事訴追は、経営陣のコンプライアンス意識を覚醒させる“百戒効果”が期待できた。16年末に発覚した米原子力事業の巨額損失も、もっと早く把握でき、手を打てたのではないか。決算発表の遅延を繰り返す醜態も避けられたのではないか。検察の不作為が東芝の傷を深めたのではないか。

 組織の常で検察も、他組織からの持ち込み仕事を嫌がる。古くは70年代の石油危機の際、公正取引委員会が、検察に事前相談なしに石油元売り12社を闇カルテルで告発した。狂乱物価に憤る世論にも押され、検察は総掛かりで不十分な公取調査を補い立件した。当時の検察幹部から「おかげで内定していた別の事件を逃した」と恨み節を聞いたことがある。

 しかし、東芝を立件するなら担当したはずの東京地検特捜部がこの間、めぼしい事件を手がけていただろうか。思いつくのは、建設会社からカネをもらったという週刊文春の暴露で、「あっせん利得処罰法違反」で告発された甘利明元経済再生相と2人の元秘書を、立件せず不起訴にしたくらいだ。元秘書2人には検察審査会が「不起訴不当」と議決している。

 検察官は、英語で「プロセキューター」。直訳すれば「起訴する人」である。起訴したがらない検察なんて、話にならない。

■土谷 英夫:けいざい温故知新(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:6/30(金) 14:30
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