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剛腕・森金融庁長官が留任するわけ

6/30(金) 16:02配信

ニュースソクラ

森改革総仕上げ、金融界は戦々恐々

 地銀に再編を含めた経営改革を迫るなど、「豪腕」で知られる森信親・金融庁長官がこの夏の官庁の定例期以降も続投する。2015年7月の就任から異例の長官3年目に入る。

 森長官は金融検査体制の見直しを自らの改革の総仕上げと位置づけているとみられが、銀行業界は戦々恐々だ。

 事務次官や長官など中央省庁のトップは1年交代が当たり前で、2年やれば「大物」といわれる。3年目が異例と言われるゆえんだ。

 ただ、金融庁長官は5代前の五味廣文氏(2004年7月~2007年7月)、2代前の畑中龍太郎氏(2011年8月~2014年7月)といるので、必ずしも異例というわけではない。

 だが、五味氏が不良債権処理と金融再編、畑中氏が東日本大震災対応という、いわば「有事」での長期在任だったのに対し、森長官の場合、「平時」だけに、異例さが際立つ。

 森長官の強面、剛腕ぶりが、長官留任の話題性を高めている面もある。

 「安くておいしいレストランはにぎわい、まずくて高い店は淘汰される。顧客本位を口で言うだけで、具体的な行動につなげられない金融機関が淘汰されるような環境を作っていくことが我々の責務だ」

 森長官は4月の講演でこう力説し、顧客本位の経営ができない金融機関を容赦なく「退場」に追い込む考えを示した。この内容自体は、森長官が従来から掲げている方針を述べたものではあったが、その強い口調に、聴いていた金融機関の関係者が震え上がった。

 森長官は就任以来、「顧客本位」を掲げて金融機関に改革を迫ってきた。例えば、銀行が窓口で販売している貯蓄性の高い保険商品の販売手数料。

 森長官は「銀行が顧客のニーズにかかわらず、生命保険会社から受け取る手数料が高い商品を勧めている」と問題視し、銀行業界に販売手数料の開示を迫って2016年、実現させた。

 マイナス金利政策で貸し出しによる収益が伸び悩み、手数料収入に頼らざるを得ない銀行は反発したが、金融庁に「顧客本位」という正論を突きつけられ、従わざるを得なかった。

 地銀の経営改革も森長官が注力してきたテーマだ。人口減少が加速する中、地銀に「預金を集めて貸すだけ、国債で運用するだけという従来の経営手法は通用しない」と指摘。

 経営統合による効率化や、担保に頼らない融資によって、地場産業の育成という本来の役割を果たすよう厳しく求めてきた。ここ数年、全国的に相次いだ地銀の再編には、こうした森長官の方針が陰に陽に働いている。

 地銀に改革を促して地域経済の活性化を図る森長官の方針は、安倍晋三政権の看板政策「地方創生」とも合致。森長官は菅義偉官房長官や麻生太郎金融担当相から厚い信任を得ている。
 
 金融庁の「本家筋」にあたる財務省の事務次官は今年、福田淳一主計局長(1982年入省)が昇格するので、旧大蔵省に1980年と2年早く入省した森長官との年次逆転は、財務省的には好ましくない。

 それだけに、異例の3年目の続投は「官邸の強い意向があった」(政府関係者)からの人事といえる。そして、官邸の威光も加わって、剛腕がさらに輝きを増すという「正の連鎖」が生じている。

 ただ、銀行業界では「官邸の威光をかさに着て、銀行の経営方針に介入している」(地銀幹部)と豪腕ぶりへの不満もくすぶる。2017年春の三井住友信託銀行の社長人事では、常陰均前社長の在任期間の長さを森長官が問題視し、金融庁が交代圧力をかけたといわれている。

 「トップ人事にまであからさまに横やりを入れられてはたまらない」(大手行幹部)との声は根強い。

 森長官は今後、検査と監督を一本化する金融庁の抜本的な組織改革に乗り出す。金融庁はバブル崩壊後、不良債権を抱えた銀行に厳しい検査を行い、「金融処分庁」と揶揄された時期もあった。

 今後は顧客本位で経済成長につながる経営に向けた「対話」に軸足を移す方針だ。厳しい検査が不良債権問題の解決に役立った半面、「金融庁に従うだけで何も考えない銀行の横並び体質を生んでしまった」(金融庁幹部)との反省が背景にある。

 検査体制の見直しは金融行政の大転換となるだけに、森長官は自らの仕事の総仕上げとして新体制に道筋をつけ、銀行の経営改革を加速させる腹づもりとみられる。

 銀行業界は「『対話』と称して、さまざまな場面で口出しが増えかねない」(大手行幹部)と警戒する。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:6/30(金) 16:02
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