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「都議選の結果は、長期的に国民の健康を左右することになる」 受動喫煙とどう向き合うべきか?

6/30(金) 18:00配信

BuzzFeed Japan

日本の医療政策をリードしてきた黒川清氏と、気鋭の医療政策学者の津川友介氏が、受動喫煙対策の問題について対談。黒川氏が次の内閣改造で塩崎厚生労働大臣の交代を危惧する理由、そして津川氏が指摘する今の政治の問題点とは。BuzzFeed Newsが単独取材した。【BuzzFeed Japan / 朽木誠一郎】

都議選前に振り返る 1964年東京五輪の「レガシー」

「今、塩崎さん(厚生労働大臣)が交代させられるようなことがあれば、今後10年間、受動喫煙対策は何も動かない」そう強く言い切るのは、黒川清氏。

厚生労働省は先の国会で、受動喫煙対策法案の提出を断念した。与党自民党内で強い反対にあったためだ。自民党内には「たばこ議連」という、たばこ産業の業界団体の立場を擁護する議員が多数いる。

厚労省案は、建物内に喫煙室の設置を認めている点で、規制は諸外国より緩やかだといえる。しかし、自民党案で「客室面積100平方メートル以下の飲食店は表示義務に止める」など、さらに後退を迫られた塩崎恭久厚労相は抵抗、譲歩はしなかった。

このことにより、夏に予定されている内閣改造で「塩崎大臣の留任はないのでは」とする観測も一部で報道され始めた。黒川氏の発言は、このような報道を受けてのものだ。

医療政策学者で医師の津川友介氏によれば「受動喫煙により健康上の害があるというのは科学的に証明された事実で、もはや議論の余地はない」。

受動喫煙が原因で、世界では年間約60万人が、日本でも9000人~1万5000人が死亡していると推計されている。これらは自分ではたばこを吸わず、他人のたばこの煙を吸ったために命を落とすことになった人たちだ。

日本は「世界最低レベル」と指摘される受動喫煙対策の現状があり、東京ではたばこフリー(たばこによる受動喫煙の害がない状態)が原則のオリンピック開催も控えている。対策は緊急の課題でありながら、議論はこう着してしまった。

この議論を前に進めるためには、どうすればいいのか。BuzzFeed Newsは6月19日、黒川氏と津川氏の対談を単独取材した。対談は黒川氏が代表理事を務めるNPO日本医療政策機構で行われた。

議論しているのは「たばこ規制」ではなく「受動喫煙対策」だ。アルコールだって、自分で楽しむだけなら個人の自由。でも、他人に無理やり飲ませたら犯罪。

黒川清氏(以下、黒川):臨時国会、内閣改造、そして都議会議員選挙と、それぞれの争点になっているように、受動喫煙対策はもう政治的な問題なんです。

津川友介氏(以下、津川):これを一歩でも前に進めるには、どうすればいいと思いますか?

黒川:まず必要なのは、議論の整理でしょう。例えば、噛み合わない議論の例として、「酒も飲み過ぎれば体に害のある嗜好品だが、アルコールも規制するのか」という反論がありますね。しかし、これはいくつかの点で的外れです。まず、今回、別にたばこそのものを規制しようとしているわけではない。

津川:そうですね。お酒を一人で飲んで楽しむだけなら個人の自由です。しかし、受動喫煙というのは、隣の席の人に無理やりお酒を飲ませるようなもの。他人にアルコールの摂取を強要すれば、場合によっては犯罪です。「自分で飲むのはいいけど私には飲ませないで」と言っているだけなんです。

黒川:それにこれだけ反対するところを見ると、もしかしたら政治家というのは、「飲め」と言われたお酒を断るなんてあり得ない、というカルチャーの人たちなのかも知れません(苦笑)。しかし、そんなのはもう、前時代的でしょう。

津川:私が一番問題だと思うのは、そのような一部の政治家の主観により、エビデンス(科学的な証拠)が歪められてしまっていることです。

黒川:「私はずっとたばこを吸ってきたが、子どもも孫も健康そのもの。だから受動喫煙は健康に影響ない」などのように、一個人の限られた経験を根拠に、国民全体の健康を危険にさらす考え方ですね。

津川:その通りです。前提として、私はエビデンスと政治的な意思決定は別のものだと思っています。つまり、受動喫煙により世界中でたくさんの人たちが命を落としている。日本でも交通事故より死亡者数が多く、その中には数千人の子どもたちが含まれていると言われる。これはまず、議論の余地のないことです。

それを知った上で、たばこによる税収やJTの株の配当金など、経済的合理性を優先して、「受動喫煙対策を推進しない」という選択はあり得るかもしれません。しかし、主観により「受動喫煙は健康に影響ない」としてしまうと、科学的な証拠を捻じ曲げていることになる。

これは、今、トランプ大統領の影響で、アメリカを中心に問題になっている、フェイクニュースやポストトゥルースそのものです。これらはもともと、トランプ大統領がウソをついていることを追求されたときに用いられた言葉であり、要するにウソ、科学においては「ニセ科学」と同義です。

政治的な判断をするのは構いませんが、真実を歪めることは許されないと思います。

黒川:極論ですが、受動喫煙が減るとみんなが長生きになり、医療費が上がる(から受動喫煙対策を推進しない)という反論はあり得るということですよね。みんな自分の主観のために、屁理屈を言うわけですから。

津川:はい、議論としては。しかし、一方で、経済的合理性だけではなく、公衆衛生学的な観点からいえば、国には本来、「国民の健康を守る」という義務がある。だって、日本国憲法は基本的人権で生存権を認めているわけですよね。であれば、国は受動喫煙対策を推進しなければならない、とも言えます。

黒川:憲法に則って考えるというのは、本来的でおもしろい。まあ、そもそも、安倍総理は所信表明演説で受動喫煙対策の徹底を明言しているわけですが、未だに受動喫煙と健康被害の関係に疑問を投げかけている政治家がいる。

津川:国の最高決定機関である国会の準備ですらこんな状態で、エビデンスそのものを疑おうとしている。そして、誰も責任を持って意思決定をしようとしない。私はこのような現状に、違和感があるというか、危惧すべき状態だと思っています。

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最終更新:6/30(金) 18:00
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