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星野リゾート「リゾナーレ八ヶ岳」の成長が止まらない理由

7/3(月) 6:35配信

ITmedia ビジネスオンライン

 山梨県の北西部、長野県との県境に位置する北杜市は、八ヶ岳や甲斐駒ヶ岳といった山々に囲まれた、「水」の里として知られる風光明媚な町だ。飲料メーカー大手のサントリーがボトリング工場や蒸留所を構え、ミネラルウォーター「サントリー天然水 南アルプス」やシングルモルトウイスキー「白州」を製造する。

【希少なドメーヌ ミエ・イケノのワイン】

 また、北杜市は日照時間が年間2081時間(全国平均1934時間)と長く、ワイン作りに最適な土地ということで、近年はワイナリーも増えている。その代表例が「ドメーヌ ミエ・イケノ」だ。ワイン醸造家の池野美映さんがブドウ造りから醸造まで自らの畑と醸造施設で行うドメーヌ ミエ・イケノのワインは、ワイン愛好家から絶大な人気を誇り、新酒を発売すると瞬く間に完売してしまうほど。東京ではなかなかお目にかかることはない。

 そんな北杜市は、観光客が一時は減少したものの、近年再び増加傾向と活気付いている。その集客の原動力の1つとして売り上げを伸ばし続けているホテルがある。星野リゾートが運営する「リゾナーレ八ヶ岳」だ。

 同施設は星野リゾートが2001年に運営を開始すると、3年後の04年には黒字化。07年に売上高30億円、そして15年には40億円を突破した。現在の年間来客数は、宿泊客が約20万人、外来客が5万人で、客室の年間稼働率は8割に迫る。

 そこで歩を止めず、さらなる成長曲線を描こうとする。17年1月から約3カ月間、開業以来初めて全館を休館し、総工費15億円を投じて大規模なリニューアルを敢行。同施設がコンセプトに掲げる「ワインリゾート」の強化に向けて客室やレストランなどを刷新、機能性やデザインの充実を図ることで、一層の売り上げアップを目指しているのだ。

 当初は赤字スタートだったリゾナーレ八ヶ岳が、ここまで好業績を続けている理由とは一体何だろうか。

●ホテル運営の第1号案件に

 実はこのリゾナーレ八ヶ岳は、星野リゾートにとって大きな意味を持つ施設であることをご存じだろうか。この施設から同社はホテル・旅館の運営会社として再スタートを切ったのだ。

 元々、この施設は「リゾナーレ小淵沢」という名前で、流通・小売業のマイカルが経営していた会員制ホテルだった。世界的な建築デザイナーであるマリオ・ベリーニ氏が手掛け、1992年に開業。まだバブル景気の残り香が漂っていた時代だった。

 しかしながら、当時このエリアは観光地としてはいまひとつで、来訪者は一部の山好きや、乗馬好きなどに限られていた。ゴールデンウィークや夏の心地良い時期はそれなりににぎわうものの、夏が終わると寒さが厳しくなり、ほとんど観光客は立ち寄らないような場所だった。コテージなど小規模な宿泊施設ならまだしも、100室を超えるようなこのホテルを年間を通して安定稼働させるのは難しく、開業早々から赤字体質の経営だったという。

 さらに追い打ちをかけるように、01年にマイカルが経営破たん。これによって売りに出された同施設を買い取ったのが星野リゾートなのである。同社にとって運営の第1号案件だった。

 当時から星野リゾートに在籍していたリゾナーレ八ヶ岳の長屋晃史総支配人はこう振り返る。

 「決して小さくはない規模のホテルであり、観光に恵まれたエリアではなかったため、誰もこの施設の運営、再生に手を挙げませんでした。けれども、運営会社として舵を切った星野リゾートは、大きな成功事例を作らなければ発展しないという強い思いもあり、案件に乗り出したのです」

 リゾナーレ八ヶ岳と改称し、再生に向けて取り組みを開始した。目指すべき姿は「ファミリーリゾート」。実はそれを裏付けるデータがあった。

 日本人が旅行する目的に関して同社が調査したところ、1位は「温泉巡り」、2位が「観光地・史跡巡り」、そして3位が「家族の思い出作り」という結果が出た。さらに、温泉や観光地・史跡巡りを1位にしなかった人たちの属性を調べると、未就学の子どもを持つファミリー層が圧倒的多数で、しかも関東在住の人たちは2時間圏内を旅先に選んでいた。リゾナーレ八ヶ岳は、都内からクルマでも鉄道でも約2時間でたどり着く場所である。ファミリー層にとって魅力的な施設にすればきっと成功する――同社はこう確信した。

 ただし、単なるファミリー向けでは弱い。子どもたちが楽しめるだけでなく、その親をはじめとした大人たち、とりわけ女性が快適に過ごせるような「大人のためのファミリーリゾート」にすれば、新しい印象を世の中に与えられるのではないかと考えた。

 観光不毛の地というデメリットについては、「だったら自分たちで観光地化してしまえばいい。人々が来たくなるようなコンテンツを作ればいい」と前向きにとらえた。

●潮目を変えた「ピーマン通り」

 赤字で始まったリゾナーレ八ヶ岳だったが、既に改善の糸口は見えていた。旧施設はあまりにもムダが多かったのだ。

 「昔のホテルの運営のやり方として、いろいろな部署で人員を抱えたがる傾向があります。それを最適化して、忙しい部署により多くの人的リソースを集中できるような機動力のあるチームに編成し直しました。それによって平時は各部署が最小限の人数で回せるようになったのです」(長屋氏)

 ムダを省くと同時に、ベースとなる売り上げを確保するために、ブライダルや宿泊のプランを整備した。魅力ある商品を作るとともに、自社のチャネルを使ってなるべく安売りしないようにした。最初の3年間は筋肉質な経営を徹底したのである。

 そして事業が黒字化したタイミングで、「大人のためのファミリーリゾート」の実現に向けて一気に攻めに転じる。

 その1つが、ベーカリーや飲食店、ギフトショップなどが立ち並ぶ「ピーマン通り」の開設だ。それまで客室だった建物の1階部分をすべて店舗用テナントに変えて、地元の店などが入居できるようにした。また、夏には近隣の農家とマルシェを開いて野菜を販売するなど、季節ごとにさまざまなイベントを実施してにぎわいを作り出すようにした。「以前は顧客がいない時期になると閑散としていて、ゴーストタウンのようなエリアだったのですが、ピーマン通りができたことで、今では宿泊者だけでなく、外来客も足を運んでくれるようになりました」と長屋氏は効果を口にする。

 そして、2006年に打ち出したのが「ワインリゾート構想」だ。星野リゾートは各施設でその地域の魅力を積極的に発信している。そうした中、リゾナーレ八ヶ岳では山梨および長野のワインを顧客にアピールしようとしたのである。言うまでもなく山梨と長野は日本を代表するワイン産地。全国に230あるワイナリーのうち半数以上がこの両県にあるのだ。

 リゾナーレ八ヶ岳が目指すワインリゾートとは何か。それは、単にワインが飲めるだけではなく、地元のワイナリーを訪れて生産者と話をしたり、施設内のレストランですべての料理にワインをペアリングする特別コースメニューを作ったりと、トータルでワインを楽しめる滞在型リゾートなのだという。例えば、2012年にオープンした「八ヶ岳ワインハウス」では、山梨・長野エリアのワインを24種類常備。25ミリ(150円~)から試飲できるので、より多くのワインを楽しみながら購入を検討できると好評だ。

●大規模リニューアルの狙い

 こうした取り組みによって、「リゾナーレ八ヶ岳=ワインリゾート」という認知は着実に広がっていった。しかしながら、あくまでもワイン好きの顧客が中心であることは否めないという。例えば、レストラン「OTTO SETTE」で料理一皿一皿に異なるワインを提案していても、同レストランを利用するのは全体の2割程度。宿泊客の7割が夕食、朝食ともにビュッフェ&グリルレストラン「YYgrill」を利用するのだが、ワインを提供していなかった。

 「今回のリニューアルは、ワイン好きだけでなく、より多くの来客者にワインリゾートを体感してもらうことを目指しました」と長屋氏が話すように、施設全体でワインリゾートのコンセプトを打ち出すようにした。総客室数172室のうち101室を改装し、ボルドーカラーのカーペットやワインを楽しむテーブルウェア、コルクをモチーフにした小物を導入したほか、八ヶ岳ワインハウスや提携ワイナリーで購入したワインを施設内のレストランに無料で持ち込めるサービスを始めた。

 今後もリニューアルを含め、収益増に向けてさまざまな施策を検討していくという。

 「年間稼働率は8割近いのですが、これ以上客室を増やすという計画はありません。それよりも、顧客に付加価値を提供できるような魅力的な企画を立てることで、滞在日数を伸ばしてもらったり、何度もリピートしてもらったりする戦略をとっていきます」(長屋氏)

 特にリピーターが増えることによって、広告を出したり、安売りしたりする必要がなくなるため、結果的にマーケティングコストが下がる。そのために何度来ても飽きさせないコンテンツが不可欠なのだ。

 リニューアルに関して、既に青写真を描いている。その1つが「イルマーレ」というプールだ。施設ができてから25年間、一度も手を入れていないため、再投資してファミリー層だけでなく、大人のグループ客にとっても魅力あるプールにしたいという。例えば、夜の時間帯を大人専用の空間にするなどだ。

 もう1つがピーマン通りのテコ入れだ。現在のテナントはすべて星野リゾート以外の会社が運営しているが、今後は星野リゾートが運営するシンボリックな店を作り、独自の集客力でさらなるにぎわいを作りたいという。「宿泊客を増やさなくとも、外来客を増やせば活性化できます。その盛り上がりがこの場所を訪れる魅力につながるのです」と長屋氏は意気込む。

 日本で数少ないワインリゾートとして進化を続けるリゾナーレ八ヶ岳。さらなる観光需要を喚起できるか、今後の動向を見守りたい。

(伏見学)