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テスラの死亡事故、ドライバーに何度も警告

7/3(月) 16:41配信

EE Times Japan

500ページに上る報告書

 米国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)は2017年6月19日(現地時間)、Tesla Motors(以下、Tesla)の「Model S」が2016年5月に、高速道路を自動運転中に大型トレーラーとの間で起こした死亡事故について、500ページにわたる報告書を発表した。事故発生から1年以上にわたり、調査を行ってきたという。

 Model Sの事故は大きな問題となったため、自動運転車の開発に躍起になっている自動車業界にとって、今回のNTSBの調査報告書は、データの宝庫といえるだろう。しかし、この事故で死亡したドライバーに対する責任がどこにあるのかを判断するまでには至っていないようだ。

 NTSBの報告書には、高速道路の設計や、自動車の性能、人間の能力、自動車運送業者など、さまざまな要素が記載されている。また、衝突再現に関するレポートには、破壊シーケンスに関する説明の他、インタビュー記録や概要、写真など、調査に関する詳細が記されているという。

 NTSBは、「今回の報告書は、NTSBの捜査当局が収集した事実情報を記したものであり、分析を行ったわけではない。このため、事故の発生原因に関する結論はまだ出ていない」と強調する。NTSBは後日、事故の推定原因について、独自の分析、調査結果や、提言、判断などを発表する予定だとしている。

 報告書によると、Tesla車からダウンロードしたシステム性能データを調査したところ、同車がトラクタートレーラーと衝突する直前の速度が、時速74マイル(時速119km)だったことが明らかになったという。また、Tesla車のドライバーが当時、自動運転制御システムとして、「TACC(Traffic-Aware Cruise Control)」と自動ハンドルレーンキープシステムを作動させて走行していたことも分かった。

先進運転支援システム

 読者にとって今回の報告書の中でも特に興味深い項目は、「先進運転支援システム」ではないだろうか。

 報告書では、Teslaの運転支援システムがどのように機能するのかを、徹底的に調査している。同システムは、Boschのレーダーシステムと、Mobileyeの画像処理システム、超音波センサーシステム、ゲートウェイECU(電子制御ユニット)によって構成されている。文字通り、Model Sの運転支援システムを分解するような形で調査が行われた。

 Teslaが収集したデータをどこでどのように記録され、どこを経由して自動車内部に保存されていたのかということや、これらのデータを、Wi-Fiで構築したVPN接続や自動車の3G(第3世代)セルラーデータ機能を使用して、どのように同社サーバに送信していたのかといったことなど、驚くべき事実が幾つか明らかにされている。

 報告書によると、TeslaのModel Sは、ゲートウェイECUに搭載されたリムーバブルSDカードを使用して、車載用不揮発性メモリに非位置情報データを保存するという。

 SDカードがいったいどのように使われ、どのような役割を担っているというのだろうか。

EDRは搭載せず

 米国の市場調査会社であるThe Linley Groupでシニアアナリストを務めるMike Demler氏は、今回の報告書を読み終えた後、EE Timesのインタビューに応じ、「Teslaの制御およびデータ記録システムに関する一部の記述が、非常に興味深かった。特に、『SDカードは、自動車が製品寿命に至るまでの全ての保存データを完全に記録できるだけの、十分な容量を備えている』とする記述が、実に興味深い。自動車の製品寿命が尽きるまでに生成される全データ量を、どのように判断したのだろうか」と疑問を提示している。

 残念ながらNTSBの報告書には、この質問の答えは記されていない。

 しかし、1つだけ明らかなのは、NTSBがこのリムーバブルSDカードを、イベントデータレコーダー(EDR:Event Data Recorder)の代替であると認識しているという点だ。NTSBとしては、現行仕様においてEDRを不要(完全に任意)としているため、Teslaの対応は十分だったと結論付けたようだ。

 Vision Systems Intelligence(VSI)のディレクタ兼パートナーであるDanny Kim氏は、EE Timesの取材に応じ、「事故を起こしたModel Sは、規制による義務付けがないためにEDRを搭載していなかった。たとえEDRを搭載していたとしても、規制によって義務付けられている既存のEDRは、かなり旧式のため、自動運転車の性能に対応することはできないだろう」と述べている。

 しかしKim氏は、「米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2016年秋に提案していたように、遅かれ早かれ、EDR搭載の義務化をはじめとする新しい規則が策定されることになるだろう」と述べる。

 また同氏は、「Teslaが、NHTSAから送付された広範にわたる質問リストに対し、既存のEDRで対応可能な範囲を超える情報を提供することができたという点については、評価することができる。最も注目すべきは、Teslaのオートパイロット機能搭載自動車に関するあらゆる詳細情報として、車体番号や型式、年式の他、自動ハンドルONの状態での全走行距離や、自動ハンドルを手で握るよう警告した回数の記録などが明らかにされたという点だ」と述べている。

警告音は6回、発せられていた

 もちろん現時点で、2016年に発生した死亡事故について最も論争を呼ぶ問題となっているのが、ドライバーが自動運転モードでの走行中に、ハンドルを手で握っていたのかどうかという点だ。

 NTSBは今回、復旧データを調査した結果、ドライバーがハンドルを握る必要があった37分間の走行中に、わずか25秒しか握っていなかったと判断した。

 報告書によると、ドライバーは走行中のほぼ全ての時間、オートパイロット機能を作動させていたという。ドライバーに対し、ハンドルを握っている状態が検出できないとする視覚的な警告が、7回にわたり発せられたという。

 また、「ハンドルを握ってください」という警告メッセージに合わせて、警告音が6回鳴っている。

 VSIの設立者であるPhil Magney氏は、EE Timesに対し、「Teslaのオートパイロット機能は、ドライバーがハンドルを握っている状況を継続的に監視する。オートパイロットモードがアクティブの時に、ドライバーの手がハンドルに置かれていない場合、Teslaはチャイムとフラッシュライトを発し、ドライバーの注意を喚起しようとする。そのような警告が繰り返された後でも、ドライバーがハンドルを握るのを拒否した場合、システムは運転サイクルの継続を自ら停止する」と語った。

 Magney氏は、「問題は、Teslaのドライバーが手をハンドルの上に何気なく置くだけで、システムを簡単に“欺く”ことができる点ある」と指摘した。

ドライバーの顔認識を導入したGM

 Magney氏は「Teslaのオートパイロットシステム(AP 1およびAP 2)では主に、ハンドルに取り付けられたセンサーを通じて、ドライバーの関与を測定する。そのような方法は、ドライバーの注意力を測る方法として適切ではないとわれわれは考えている。GM(General Motors)も、この点を踏まえた上で、半自動運転機能『Super Cruise』に、カメラでドライバーの顔を認識する技術の採用を決めた。これによって、ドライバーの意識がはっきりしているか、十分な注意力があるかなどを、顔の表情から判断できる」と続けた。

 Magney氏は、GMのシステムでは「ハンドルに手を置くこと」が要求されていない点を強調する。GMがこのシステムを、「世界初の“ハンズフリー”自動化ソリューションである」と主張するのはそのためである。Magney氏は「GMのシステムは、ドライバーがどの程度運転に関わっているかを測定する技術として、より優れている」との考えを示した。

 Strategy AnalyticsのアナリストであるとAngelos Lakrintis氏は、NTSBのレポートを読んだ後、EE Timesに対し「オートパイロット機能が衝突を避けることに失敗したと考えて間違いないだろう。正常に機能する自動運転技術を実現してから、『オートパイロット機能』として導入してほしい」と語った。

 Linley GroupのDemler氏は「いずれにせよ、今回のレポートによって、レベル3(Teslaのオートパイロット機能はレベル2と説明されているが)のADAS(先進運転支援システム)は、人間のドライバーへのハンドオーバーに頼っていることから、危険をはらんでいるという考えが強まった」と結論づけた。

 Teslaは2016年秋、オートパイロット機能の改良を発表した。具体的には、人間がハンドルを握っていない状態での運転に対して新たな制限を加えた他、あのような衝突死亡事故を防げたであろう機能を追加した。最新バージョンのシステムは、ドライバーが音響警告に反応せず、ハンドル制御を取り戻さなかった場合、一時的にシステムを利用させないようにするという。だが、ハンドルに取り付けられたセンサーによって、ドライバーが道路に注意を向けているかを判断するという点は変わっていないようだ。

最終更新:7/3(月) 16:41
EE Times Japan