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金融リテラシーは向上しているか-優先すべきは消費者視点に基づくチャネルの位置づけの再考

7/6(木) 19:40配信

ZUU online

■はじめに

金融庁金融研究センターに設置された「金融経済教育研究会」が2013年4月に取りまとめ、公表した「金融経済教育研究会報告書」を踏まえて同年6月に金融広報中央委員会が「金融経済教育推進会議(以下、推進会議)」を設置し、国民の金融リテラシー向上に向けて様々な取り組みを開始してから4年が経過しようとしている。同推進会議および推進会議を構成する諸団体では、2015年度までにも、様々な取り組みを進めてきている。

一方で2014年から開始したNISA(少額投資非課税制度)は、口座数、NISA口座での買付額ともに順調に伸ばしている(*1)ように、多くの家計資産が株式や投資信託といった金融商品(以下リスク商品)に振向けられていることは、消費者の金融リテラシー向上の証左とみることもできよう。

この2年の間にも次々と施策が打ち出され、実行されてきたところであるが、こうした推進会議における諸取組やNISA等を利用したリスク商品への投資経験を経て、消費者の金融リテラシーは向上しているのだろうか。本稿では、消費者の金融リテラシーに焦点をあて、2013年以降の変化を確認するとともに、消費者の金融に関する情報との接点を明らかにすることで、今後の更なるリテラシー向上にむけた取組みに求められる視点について考察することを目的としている。以降の分析には、日経リサーチ社が実施している「金融総合定点調査 金融RADAR(以下金融RADAR)」(2013年、2015年の2回分(*2))の個票データを用いる。

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(*1)金融庁が定期的に公表している「NISA口座の利用状況に関する調査結果」によれば、2015年12月末現在のNISA口座数は987.6万口座、購入額は6兆4,445億円と、前年同月比では口座数で19.6%、購入額では116.5%の増加となっている。なお、2016年12月末現在では1,069万口座(前年同月比8.2%増)、9兆4,756万円(47.0%増、いずれも速報値)とやや伸びは鈍化したものの引き続き増加傾向が続いている。
(*2)両調査の調査概要は以下のとおりである。
調査対象:首都圏40km圏在住の20~74歳男女個人〔2013年:2680人/2015年:2655人〕
調査手法:質問紙法(留置法、郵送法の併用)
調査時期:各年10月~11月
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■消費者の金融リテラシーと近年の変化

◆金融リテラシーの測定

金融RADARでは、金融機関や貯蓄・投資商品に対する考え方として下表にあげる22項目について定点観測している。山下(2011)(*3)では、2007年、2008年の2時点分の金融RADAR(*4)における同項目を用いた因子分析により、金融商品への関与や判断力、情報収集意向の高さを表す「金融リテラシー」、コンサルタントやFPなどの専門家の持つ知識を利用したり頼りにしたい意向の高さを表す「コンサルティング/情報希求」、外資系や新規参入の金融機関の利用への抵抗感の薄さを表す「機会主義的行動」の3因子を抽出した上で、「金融リテラシー」、「コンサルティング/情報希求」の2つの因子の強度に基づくセグメンテーションを通じて、リーマンショック後の金融資産選択行動について分析・考察を行っている。

本稿では、2013年以降の金融リテラシーの変化を確認することを目的の一つとしていることから、山下(2011)に従い、2013年、2015年の2時点分の調査データをストックした上で、因子分析(最尤法、直交解)を行った。分析の結果、山下(2011)と同じ3因子に加え、預入(投資)金額により優待・優遇を求める意向の強さを表す「優先的取扱希求」と命名した第4因子までの4因子を抽出した(付表参照)。これらのうち、第3因子と第4因子は、いずれも特定の状況に依存した少数の項目からなっており、本稿の目的とする金融リテラシーとの直接的な関連はないように思われる。そのため、以降の分析では、主として第1因子として析出した「金融リテラシー」に焦点をあてるとともに、比較対象として「コンサルティング/情報希求」の状況についても確認していく。

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(*3)山下貴子(2011)「金融行動のダイナミクス-少子高齢化と流通革命-」千倉書房
(*4)山下(2011)が分析に用いた2007~2008年時点の調査は、厳密には「日経NEEDS-RADAR金融行動調査」と称する別調査である。本稿において分析に用いる「金融総合定点調査 金融RADAR」は「日経NEEDS-RADAR金融行動調査」の後継として2012年より開始されたものである。
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◆金融リテラシーの変化

ここでは、消費者の金融リテラシーの変化について明らかにするため、前節において抽出した「金融リテラシー」および「コンサルティング/情報希求」の因子得点を用いて、2013年、2015年の2時点間における変化について確認していく。

(1)属性別にみた金融リテラシーの変化

はじめに、両因子の2時点間の差異についてみると、全体では2時点間に統計的な有意差は確認できず、この間、消費者の金融リテラシーは向上していないようである。これを性別にみると、男性で女性に比べ「金融リテラシー」が高く、女性で男性に比べ「コンサルティング/情報希求」が高くなっているものの、2013年と2015年の2時点間では、いずれの因子についても男女とも有意差はみられない。

年齢階層別にみても、「金融リテラシー」、「コンサルティング/情報希求」ともにほとんどの年代で差異は確認できないものの、40代の「金融リテラシー」では2013年に比べ2015年の方が有意に低くなっている。

このように、基本属性でみると、性別では2時点間の差異はみられず、年齢階層別ではむしろ40代において「金融リテラシー」の低下が確認される結果となっている。40代における「金融リテラシー」の低下は、実際の投資や勤務先等を通じて受ける投資教育の経験(*5)が、自身の貯蓄・投資に関する知識不足を実感する機会となっている可能性も考えられよう。

(2)金融商品の保有状況別にみた金融リテラシーの変化

次に、株式や投資信託などのリスク商品の保有状況との関係についてみると、株式投資の経験者(*6)では「金融リテラシー」、「コンサルティング/情報希求」ともに両時点間での有意差は確認できないものの、「金融リテラシー」については、投信の保有者および株式・投信とも保有者では5%水準で、株式または投信保有者では10%水準で、それぞれ有意に2013年に比べ2015年の方が高くなっている。株式・投信とも保有者では金融リテラシーの向上が確認できているにもかかわらず、株式投資経験者の金融リテラシーでは2時点間で差異が確認できず、投信保有者に比べ金融リテラシーの水準も低くなっていたことは、株式投資経験者の中に従業員持株会を通した保有者や相続等により保有者となった者など、そもそも金融商品や投資に対する関与が低い者が含まれていることが平均値を引き下げているためと考えられる(*7)。

これらの結果は、2013年以降の金融リテラシーの変化は、主として投資信託の保有者においてのみ生じており、非保有者に波及するなどの効果はみられていないことを意味している。

では、現在の高リテラシー層はどのような情報源を利用しているのだろうか。次章では、最新の2015年調査の結果に限定し、高リテラシー層が金融取引に際してどのような情報源を利用しているのかを明らかにすることで、今後のリテラシー向上に向けた顧客接点のあり方について検討する材料を探ることとする。

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(*5)企業型の確定拠出年金制度では、制度を導入する企業に対して、従業員に投資教育の機会を提供することを義務づけている。40代では2013年時点でも確定拠出年金の加入者が2割を超えていることから、他の年代に比べ比較的早い段階から確定拠出年金制度を通じた投資や、勤務先企業が実施する投資教育を受けている者が多いものと考えられる。
(*6)ここでは調査時点では株式を保有していないものの過去に株式を保有したことがある者を含んでいる。
(*7)分析に用いたデータでは厳密な検証はできないものの、実際に投資信託の保有者を除く株式投資の経験者では両時点とも投資信託のみの保有者よりも金融リテラシーの水準が低くなっていることは、その証左であるものと思われる。
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■金融リテラシーと情報源

◆金融商品の情報収集に利用している情報源

先にみた金融リテラシー、コンサルティング/情報希求の両因子得点について、全体平均を境に二分し、金融リテラシー、コンサルティング/情報希求の高低の別に金融商品の情報収集に利用している情報源をみると、全体では「金融機関の窓口」(29%)が最も多く、「新聞記事」(29%)、「金融機関のDM」「金融機関の印刷物」(いずれも23%)の順につづき、「特にない」も3割弱となっているのに対し、金融リテラシーが高い層では、「新聞記事」(42%)が最も多く、「金融機関の窓口」(33%)、「金融機関のDM」「金融機関の印刷物」「取引金融機関のサイト」(いずれも31%)までが3割を超えて続き、「特にない」は1割台に留まっている。全体に比べ多くの項目で高くなっており、特に「新聞記事」や「マネー誌の記事」では10%ポイント以上の差、「取引金融機関のサイト」では9%ポイントの差と、差が大きい。一方、コンサルティング/情報希求の高低別では、全体に比べ高い層で「金融機関の窓口」(33%)がやや高く、低い層で「特にない」(36%)が約7%ポイント高くなっている以外は、総じて差が小さくなっている。

これらの結果は、金融リテラシーが高い層では積極的に情報を求めて様々な情報源に接しており、その結果さらにリテラシーが高まっていくという好循環が起こっているのに対し、コンサルティング/情報希求が高い層では専門家への相談ニーズはあるものの、金融機関の窓口や外交員を利用しようとする層を除けば、その多くは具体的な相談を持ちかけるには至らず、結果的に金融取引の都度、不十分な知識・情報のもとに金融商品の購入・売却を行っている可能性を示唆している。

◆直近の金融商品の購入・申込時の参考情報源

さらに、直近の金融取引におけるこれらの情報源への接触による金融リテラシー向上への寄与度を明らかにするため、直近の金融商品の購入・申込時に参考とした情報源を説明変数、金融リテラシー、コンサルティング/情報希求を目的変数とする回帰分析を行った。分析結果を図表 6に示す。

まず、金融リテラシーを目的変数とした分析結果をみると、金融機関の外交員、金融機関のDM、新聞記事、マネー誌の記事、取引金融機関のサイト、金融関連の情報サイトで有意に正、一般誌の広告、テレビCM、取引のない金融機関のサイト、家族で有意に負の結果となっている。有意に正となった情報源について、影響度の大きさをみると、取引金融機関のサイトが最も大きく、新聞記事、マネー誌の記事、金融関連の情報サイトの順に続く。総じて活字媒体の影響が大きい反面、一般誌の広告、取引のない金融機関のサイトや家族、テレビCMの順に負に有意となっている。このことは、新聞、雑誌等の記事情報といったある程度正確性が担保された情報源の利用者がこれらの情報を通じて自身の金融リテラシー向上を図っているのに対して、リテラシーが低い層ほど広告・CMを通して得られる情緒的な側面や、正誤綯交ぜの可能性がある家族間の口コミに頼った金融取引を行う傾向にあるとも考えられよう。

一方、コンサルティング/情報希求を目的変数とした分析結果では、金融機関の窓口、マネー誌の記事で有意に正、メールマガジンで有意に負の結果となっている。金融機関の窓口の寄与度が最も大きく、金融機関の外交員や投資顧問・FPといった他の人的チャネルが有意になっていないことは、消費者にとって、金融関連の相談先として認知される存在が、ほぼ金融機関の窓口に限られていることを表しているとも考えられる。

■金融リテラシー向上に向けて

これまでみたように、推進会議および推進会議を構成する諸団体において様々な取り組みがなされてきているものの、これまでのところ、消費者の金融リテラシーの向上は投資信託の保有者において確認されるのみのようである。金融リテラシーの高い層については、日頃の金融商品に関する情報収集や金融取引に際して、金融機関の窓口のほか、新聞やマネー誌の記事、DMや金融機関の印刷物などの活字媒体を中心に幅広い情報源を活用しており、その結果として、さらにリテラシーが高まるという、好循環が起こっている可能性が示唆された。一方で、コンサルティング/情報希求が高い層では、専門家への相談ニーズを有しており、金融機関の窓口や外交員を情報源として活用する傾向にはあるものの、金融リテラシーが高い層に比べ活字媒体など、理解を深めるために自分で読解する必要がある情報源までは活用しておらず、金融取引における情報源では、コンサルティング/情報希求に対して有効性が認められるチャネルは金融機関の窓口に限られているなど、金融関連の相談を希望する消費者にとって、相談先の選択肢が乏しい現状も明らかにされた。このことは、多くの消費者が、金融取引の都度、不十分な知識・情報のもとに意思決定を重ねている可能性があり、従来から喧伝されている以上に消費者の金融リテラシーの向上が急務であるとともに、消費者利便性が高く金融商品の活用や資産形成について安心して相談できる、推進会議の構成諸団体などが提供する相談窓口のような相談先の選択肢を拡充することが求められていることを示唆している。

本稿の分析からも明らかなように、活字媒体を活用することはリテラシー向上への寄与が大きいものの、こうしたプル型の媒体では消費者が関心を持って探索し辿り着く必要があり、短期間に広範な効果を求めることは難しい。多種多様な金融商品が存在する中では、消費者の金融リテラシーの向上は一朝一夕に実現できるものではなく、息の長い取組みが求められよう。一方で、消費者の金融関連の相談ニーズの受け皿としては、前述の推進会議の構成諸団体における相談窓口が用意されているものの場所や時間には限りがあるなど消費者がストレスなく利用できる状況とはいえず、現状ではほぼ売り手である金融機関の窓口に限られているように思われる。このように消費者利便性が高い相談先の代替案に乏しいことは、消費者が家計の資産形成上の不安や悩みを解決する術がなく、結果的にリスク商品を含めた多様な金融商品の活用を阻害する要因となっている可能性も危惧されよう。

今後、社会保障制度の縮小が確実視されるなど、家計における資産形成の重要性が高まっているなかでは、消費者の金融リテラシーの向上や、家計における多様な金融商品の活用促進に向けて金融機関が担うべき役割は大きい。金融リテラシーの向上に関連諸団体を含めた息の長い取り組みが求められる(*8)ことはいうまでもないが、多様な金融商品の活用を促していくためには、既存のチャネルについても消費者の相談ニーズの受け皿となるべく、消費者利便性の向上や相談先としての信頼性獲得に向けた取り組みなど、消費者視点に基づいてチャネルの位置づけを再考する必要があるのではないだろうか。

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(*8)実際に、第8回の金融経済教育推進会議(2016年12月6日開催)の資料によれば、本稿を執筆した2016年4月以降も各所で様々な取組みが進められており、今後も継続的な取組みが進められることになっているようである。
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井上智紀(いのうえともき)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 シニアマーケティングリサーチャー

最終更新:7/6(木) 19:40
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