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トランプの暴言を止めることができない、お手上げの理由

7/6(木) 7:14配信

ITmedia ビジネスオンライン

 6月29日に米国のドナルド・トランプ大統領が放ったツイートが全米で大変な物議になっている。トランプは、朝の情報番組でキャスターを務める女性に対して、「IQの低いクレイジーなミカ(キャスターの名前)」「顔のしわ取り手術で出血していた。ノー!と言ったよ」とポストした。さすがにこの発言には身内の共和党内部からも批判が噴出し、対立する民主党議員らも記者会見を開いてトランプを批判した。

【まだまだ暴言は続く?】

 また7月2日には、以前自身がプロレスに登場した際の動画をいじって、米テレビCNNをボコボコにする映像をツイートしたことで「暴力を推奨している」と批判されている。とにかく、あの手この手で話題作りをしている感がある。日本でもトランプのトンデモ発言はよく報じられているために、もはや驚きはないかもしれない。

 不思議なのは、これだけ失言・暴言・嘘をツイートなどで繰り返してもトランプへのダメージがほとんどないことだ。日本では稲田朋美防衛大臣が都議会選の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と発言して問題になるなど、政治家の失言は下手したら一発でもクビが飛びかねない。

 一方のトランプはどんな発言をしても痛くも痒(かゆ)くもない。実際に今も大統領として暴言を吐き続けていられるのは、結果的に、これまでの暴言が許されているからだと考えていい。

 実はよく見ていくと、トランプがこうした暴言や暴挙を続けている理由は、もともとの性格に加えて、トランプ政権の維持に巧みに利用しているためだというのが分かってくる。

●女性への発言が下品

 どう言うことなのか説明する前に、まずあまりに数多い失言のうち、女性に関するものをいくつか紹介したい。というのもトランプの暴言は、女性に対するものが特に下品で辛辣(しんらつ)だからだ。

 「ヒラリー・クリントンは旦那も満足させられないのに、米国を満足させられるわけがない」

 「(アカデミー賞女優の)メリル・ストリープはハリウッドで最も過大評価された女優で、私のことを知らないのに昨晩のゴールデングローブ賞で口撃してきた。大敗したヒラリー信者だ」

 「(ハフィントン・ポスト創設者の)アリアナ・ハフィントンは内面も外見も魅力的でない。なぜ元夫が男性とくっつくために彼女と別れたのか、よく分かるな。彼はいい選択をした」

 「(米女性コメディアンの)ロージー・オドネルの番組を俺が手がけていたら、彼女をクビにするな。あの太って醜い顔の目の前で、『お前はクビだ』と言ってやる」

 「私の『アプレンティス』(リアリティTV番組)に出演した女性はすべて、意識的にも無意識にも、私を誘惑してきた」

 「ケイト(英国のキャサリン妃)が裸で日光浴していたら誰だって写真を撮って大金を稼ごうとするよ」

 「(FOXニュースの女性キャスターに対して)彼女は目から血を流していた、いや他の場所からか」

 改めて言うが、トランプは世界一の大国である米国の大統領である。まず気になるのは、トランプがどうしてこうした常軌を逸した発言をしてしまうのか、という点だ。日本では、豊田真由子衆議院議員が秘書に対して車内で暴言(または暴行)を繰り返した音声が話題になっているが、どうすればああいう攻撃的な言葉が出てくるのか理解し難いのと同じである。

 トランプについては、いろいろ分析がなされているが、説得力があるのは、もともとの口の悪さに加えて、彼のひずんだ男尊女卑の感覚だろう。トランプは特に、世間で活躍している女性からの批判に耐えられないという指摘だ。米アトランティック誌は2017年6月、トランプの女性に対する暴言の背景は、1997年の大学教授らが調べた研究・論文で確認されていたと書いている。その研究によれば、「伝統的な女性の規範を守っている女性は“寛大な”女性差別を受け、伝統的な規範を脅かす女性は、“敵意ある”性差別を受ける」という。トランプはたいてい、それぞれの分野で活躍して発言力が強く、自分に批判的な女性に容赦ない誹謗中傷を行っており、これに当てはまるとの指摘はうなずける。

 そう考えると、2017年3月にドイツのアンゲラ・メルケル首相との共同記者会見で彼女からの握手の要請を頑として無視し続けたトランプの子どもじみた行動も理解できる。

●暴言を吐き続けることができる理由

 トランプが発するような暴言は、日本はもちろんのこと、米国以外なら一発アウトだろう。ただトランプが職を追われることなく次々暴言を吐き続けられるのにはワケがある。

 現状のように、大統領制の米国で、議会を大統領の政党が支配している場合、大統領は簡単に辞職(弾劾からの罷免)に追い込まれることはない。また米大統領は、誹謗中傷であっても発言によって名誉毀損のような訴訟を受けることが基本的にない(1982年の最高裁判決で大統領は職務にあればすべての民事訴訟から免責されるという判例がある)。それを分かっているトランプは発言を緩める必要がそもそもないのである。残念ながら、言われたほうも、メディアで反論するくらいしかなす術はない。

 しかもトランプは、こうした暴言ツイートを意図的に行なっており、巧みに利用しているとも指摘されている。彼の最近のトンデモ発言は、基本的にターゲットが米国内のメディアに絡んだ人や組織が多い。CNNを攻撃したプロレス動画もその一例だし、女性批判も基本的にメディアに関係する人たちだ。その理由は、メディア叩きこそ、トランプが支持者のサポートを確保し続ける手段のひとつになっているからだ。

 トランプは大好きなテレビ局であるFOXニュースなどを除いて、基本的に大手メディアを「フェイクニュース」と呼び続け、とにかくメディアを目の敵にしている。例えばこれまでの政権でずっと行われてきたホワイトハウスの定例記者会見もどんどん減らしており、最終的には文書のみの発表に切り替えていきたいと考えている。事実、バラク・オバマ前政権時は毎日のように行われ、ネット上でもアーカイブされて視聴できた定例記者会見だったが、トランプ政権では、例えば6月はテレビカメラによる撮影を許した記者会見はたったの5回しか実施されておらず、そのほかカメラなしの記者会見でも10回しかなかった。

 逆に、一方通行のTwitterなら自分で内容も発表のタイミングもすべて支配でき、記者から直接質問を受ける必要もない。そんなことから、トランプはさまざまな意見(と嘘や暴言)をTwitter上で発表し、国民の「知る権利」に寄与しているつもりでいる。そしてメディアは嘘ばかりを報じるとしつこく繰り返して、対立構図を作り出しているのだ。これまでホワイトハウスの報道官たちはトランプの事実と反する無責任なツイートの釈明を強いられてきたが、トランプが自ら発言について説明することはあまりない。

●まだまだ暴言や暴挙が続く

 批判されてもとにかく大手メディアをフェイク(偽物)だと叩き続けるというトランプのやり方は、不思議なことに、機能している。米NBCテレビとウォール・ストリート・ジャーナル紙の調査によれば、「メディアはトランプ政権の問題点を大げさに報じているか」との問いに、全体で53%が賛同しており、共和党支持者に至っては89%にも上っている。要するに、米国民の多くはメディア以上にトランプにより賛同していることになり、この結果はトランプがメディアを叩くことで支持固めに成功していることを意味する。怪しい主張もしつこく繰り返せば、それを信じてしまう人も多いということか。

 これは米国にとっては由々しき事態だ。こうした傾向によっていったい何が起きるのかというと、トランプ支持者を中心に、メディアの信頼性は落ち、存在価値すら脅かす事態になりかねない。またトランプや政権に記者会会見などで直接的なアプローチが日常的にできなくなるために、メディアによるチェック機能が働かなくなる恐れもある。そうなれば、結果的に国民の知る権利がないがしろにされてしまうのである。さらに言うと、前出の調査結果のように、トランプがツイートで主張し続けることを多くが信じてしまう可能性もある。

 トランプの支持率は、6月を見ると38~39%で推移しており、不支持は54~56%をウロウロしていた。就任からこれまでの最高の支持率は就任から6日後の47.8%で、おそらくトランプ大統領誕生という悪夢の景色を前にしてゆっくりと目を開いてみたら、なんとか大統領としてやってくれそうかもしれないと、過去最大数の人が感じたタイミングだったのだろう。だがその直後に、イスラム諸国からの渡航を停止する大統領令に署名したため、多くの人々が「やっぱりか」と意気消沈し、一気に支持率は急降下した。そしてその後、支持率は浮上しないままだが、一方で繰り返される暴言のたびに支持率がさらに激しく落ちるということもない。ちなみにジョージ・W・ブッシュ大統領は最低支持率が22%だった。

 トランプ政権はまだ先が長い。とにかくトランプは、メディアを標的に暴言を吐いたりして支持層にアピールし続けるしかない。そうすれば少なくとも2018年の中間選挙までは自分のペースややり方で走り続けることができるだろう。

 ただそれまで、まだまだ暴言や暴挙が続くことになる。中間選挙までどれだけの人がトランプの口撃の餌食になるのか、見ものである。

(山田敏弘)