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「Azure NVシリーズ ローンチイベント」に見るGPUクラウド時代の到来

7/6(木) 11:08配信

ITmedia エンタープライズ

 仮想マシン上でGPUを利用するシナリオは決して新しいものではない。オフィスなどで利用する仮想環境でも、仮想マシンからホストマシンのGPUへアクセスするGPUパススルーは以前から利活用されてきた。技術的アプローチに違いはあるものの、クラウド上の仮想マシンからGPUにアクセスするのも基本的には同じである。

【画像】NVIDIA GPUの主な立ち位置。例えばKepra世代は計算が速いのでHPC向け、Maxwell世代は深層学習向けといった特性がある

 本来は画像処理に特化したプロセッサであるGPUが注目されるのは、CPUと比べて大量のデータを複数のプロセッサで同時に並列処理できるからだ。

 一般的にはGPGPU(GPUによる汎用計算)と呼ばれ、2000年代以降はコンピュータの性能指標であるFLOPSから見てもCPUを上回っている。そのため、GPUベンダーも、NVIDIAのCUDA(Compute Unified Device Architecture)やAMD Stream/APP(Accelerated Parallel Processing)などの技術を確立させてきた。

 現在は、AI(人工知能)ベースの機械学習や、そのトレーニング材料となるビッグデータの時代である。特に深層学習では、コンピュータの性能が演算結果を大きく左右するため、GPUが現在の深層学習環境を大きく支えていると述べても過言ではない。

 しかし、専用のコンピュータをゼロから組み上げるのは開発者にとって大きな負担となる。そのため、アジャイル開発におけるシステムテストレベルであれば、クラウド上のGPU対応仮想マシンを使った方が、手間もコスト的にもメリットが大きい。

 例えばAWS(Amazon Web Services)のP2最安値モデルにあたる「p2.xlarge」インスタンスは、1.542ドル/時(オンデマンドインスタンス)。同様に、「Microsoft Azure NVシリーズ」の最安値モデル「NV6」インスタンスも162.18円/時と百数十円程度だ。

 GPUに対応した仮想マシンの可能性は多岐にわたる。前述した深層学習などトレーニングに加えて、金融工学、耐震解析といった演算処理、3Dアプリケーションのレンダリング、GPU性能を必要とするアプリケーションのVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)など、その幅は広い。そのため、日本マイクロソフトも「Nシリーズ」をアピールし、今回のようにNVシリーズのローンチを祝うユーザーイベントを共同開催したのだろう。

●AzureとNVIDIA GPUのタッグでGPUクラウド技術を強化

 6月2日に開催された「Japan Azure NV シリーズ ローンチイベント」では、日本マイクロソフトとエヌビディアが主催者に名を連ねていた。日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 クラウドプラットフォーム製品マーケティング部 部長の斉藤泰行氏によれば、日本おけるNシリーズの需要は世界的にみると「圧倒的な第2位」だという。もちろん第1位は米国だ。「日本ではNVIDIA GPUの期待が高いため、『Tesla P100』を採用した『NCv2シリーズ』も日本の顧客に提供したい」と述べていた。

 Microsoft AzureとNVIDIA GPUに関する詳細な説明を行ったのは、日本マイクロソフト パートナーセールス統括本部 インテリジェンスクラウドテクノロジー本部 テクノロジーソリューションプロフェッショナルの高添修氏。現在、GPUに対応する仮想マシンとしてはNC/NV/ND/NCv2シリーズを発表し、東西の日本リージョンで利用できるのは、執筆時点でNVシリーズのみ。RDMA(リモートダイレクトメモリアクセス)ベースでネットワーク処理を加速化させた「NC24r」を含む「NCシリーズ」は、日本はもちろん、アジア太平洋地域には未展開である。

 そして、GPUとして「Tesla M60」を採用したNVシリーズは現在、東日本リージョンで利用可能。後に行われた他国リージョンと東日本リージョンの遅延差を示すデモンストレーションでは、目に見える違いがあった。高添氏は「GPUを2枚差ししたワークステーションを手元で動かしている世界」と同シリーズを称している。

 NC/NVシリーズは、「Windows Server 2016 Hyper-V」で導入したPCIeデバイスをパススルーするDDA(Discrete Device Assignment)を用いて、ベアメタルサーバに匹敵するパフォーマンスを引き出している。高添氏によれば、構造はストレージパススルーと同じだが、DDA経由の方がより速い結果を得られるという。

 同氏は「NVシリーズは3D CADに限定せず、3Dデザイナーやデスクトップシミュレーター、ゲーマーなど多様なシナリオを想定している」と述べつつ、実際にPCゲームをプレイするデモンストレーションを披露。コンピュータの在り方に依存しない使い方が広まれば、医療など、新しいソリューションにも通用できそうだ。

 GPUに関しては、エヌビディア マーケティング本部 エンタープライズマーケティングマネージャーの佐々木邦暢氏が解説した。例えばNVシリーズはTesla M60、NCシリーズは「Tesla K80」を搭載し、今後利用可能になるであろうNCv2シリーズはTesla P100、NDシリーズはTesla P40を採用している。NVIDIA製GPUは世代ごとに特性を持ち、現行のPascal世代もHPC(高性能計算)や深層学習に強く、描画機能はそれほどでもないという。

 「Pascal世代の中でも、P100はHPC、P40は深層学習に特化している。NVシリーズが採用するTesla M60は倍精度浮動小数点演算に苦手なため、HPCではなくGRID(GPU仮想化)向けだが深層学習にも使える。Tesla K80は倍精度演算に強いHPC向けとなる。目的に合わせて選ぶ」(佐々木氏)のが、仮想マシン選択時のポイントだと述べつつ、深層学習トレーニングシステムである「NVIDIA DIGITS」を紹介した。

●「XenDesktop Essentials」との活用やBIMへの展開も

 NVシリーズを利用したソリューションとして、シトリックス・システムズ・ジャパンの竹内裕治氏が「XenApp Essentials」「XenDesktop Essentials」などを取り上げた。

 MicrosoftとCitrixは長年の協業関係にあり、2016年5月からは戦略的提携関係の拡大と強化を発表済みだが、「Azure RemoteApp」の後継機能であるXenApp Essentialsについては、「アプリケーションを仮想化し、ナレッジワーカーなど効率性を重視した使い方にフィットする。VDI的に利用するXenDesktop Essentialsは、Windows 10を想定し、フォーカスした業務アプリケーションに利用する」(竹内氏)と、それぞれの特徴を紹介した。

 特にWindows 10 VDI on Azureを実現するサービスとなるXenDesktop Essentialsは、今後多くの注目を集めるはずだ。

 大塚商会では、NVシリーズの具体的な展開として、BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)に特化したソリューションを紹介した。大塚商会 PLMソリューション営業部 プロジェクトPLM課 長井尚史氏は、「建物を全てデータ化し、必要に応じて情報を切り出すBIMは、ゼネコンや設計事務所、政府などが推進し、施工分野ではフルBIMを実現する企業も増加している。だが、代表的なBIMツールはハイスペックPCが必要になるため、NVシリーズのような『仮想ワークステーション』環境は魅力的」だという。

 さらに会場では、NV6上で「Autodesk Revit」を実行するデモンストレーションを披露。GPU未サポートの仮想マシンと実行結果を見比べると、シェーディング処理が一瞬で完了し、その違いを見せつけた。

 「高機能ワークステーションの機能を『使いたいときに使いたいだけ使い、使った分だけ費用発生』するのは大きなメリット」(長井氏)

 BIMツールの利用には、仮想マシン上での実行が許諾範囲に含まれるかなど、幾つかの課題が残るものが、特に大きな問題の1つに、シャットダウンミスによる課金発生が多いという。そこで大塚商会では、利用者向けに「Azureランチャー」、管理者向けに「Azure管理コンソール」を含む「NVシリーズワンストップサポートサービス(仮称)」の提供を予定する。

 今回のローンチイベントに参加して強く感じたのは、「特別な理由がなければ、ローカルPCをワークステーションレベルまで強化するメリットは薄れてきたのではないか」という点だ。

 仮想マシンは従量課金制のため、継続的な利用を踏まえると購入した方が安い場合もあるだろう。だが、プロジェクトごとに用途が異なり、「前回のプロジェクトは演算処理、今回のプロジェクトはGPU機能」と、目的が変わるようであれば、GPUをサポートする仮想マシンの存在感はますます高まっていくといえるだろう。