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今オフ、大谷翔平はメジャーに移籍できるのか

7/6(木) 12:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 北海道日本ハムファイターズの「二刀流」、大谷翔平投手が戦列復帰を果たした。7月3日の埼玉西武ライオンズ戦では左大腿二頭筋肉離れから5番・DHとして86日ぶりにスタメン復帰。まだ走塁面に不安を残していることから万全とは言い切れないものの、それでもこの試合ではフェンス直撃の痛烈な二塁打を放つなど打撃に関しては本来の力を発揮しつつある。1日にはイースタン・リーグの西武戦でマウンドにも立っており、1回1失点ながら最速157キロをマーク。二刀流の完全復活も近そうだ。

【日本ハムが直面する難題】

 さて、そんな大谷に関して最大の気がかりは今オフのメジャーリーグ移籍が果たして本当に実現するのか否かであろう。昨オフの契約更改時に大谷は球団側に近い将来、メジャー挑戦の意向があることを申し入れている。これを受け、球団側も大谷が希望した場合は今オフにもメジャー移籍を基本的に容認する方向性を示している。

 その流れを象徴するように球団側はここまで一括管理していた大谷のマネジメント業務を他社が行うことを許可。2016年12月末に大谷はホリプロとマネジメント契約を結び、日本ハムから巣立つ形でメジャー移籍が近いことをうかがわせた。

 日本の各マスコミはもちろんのこと、海の向こうの米主要メディアも“オオタニ”の情報を頻繁に流しており、二刀流・大谷の今オフのメジャー移籍は完全な規定路線になりつつある。17年は例年以上にメジャー各球団の有力スカウトや上層部たちが獲得への本気度を示すように、こぞって大谷を視察するため続々と来日していることもそれを裏付けていると言っていい。

 しかし、果たしてこのまま本決まりなのだろうか。取材を進めていると、どうも「?」が漂う要素が多々漏れ伝わり始めている。ここ最近、日本ハムの中からも「もしかすると翔平は今オフ、メジャー挑戦を申し入れないのではないか」との声が聞こえて来ているほどだ。

●最大の理由は大谷自身の問題

 その最大の理由は大谷自身の問題にある。今季開幕前に右足首を痛め、第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)への出場を辞退。メジャーリーガーも数多く出場するこの国際大会が自身のメジャー移籍のための“見本市”となるはずだったが、まさかのケガによるドタキャンによって、その好機を逸してしまった。そして今季公式戦で患部をかばいながら騙し騙しで強行出場を続けた結果、左太腿の肉離れを引き起こして長期離脱を強いられるはめになったのである。

 それでもメジャー各球団の大谷に対する高い評価は現在も色あせてはいない。逆にこのケガによる長期離脱によって、それまで大谷のメジャー移籍に一定の理解を示していたはずのファイターズファンの間では「これだけ休んでおきながら、あっさりとメジャーへ行ってしまうのか」と冷淡な視線を向ける人が急速に増えてきている。

 それも無理はない。5日現在、日本ハムは借金15でリーグ5位。優勝が絶望的どころか、3位と10.5差でクライマックスシリーズ(CS)出場権が得られるAクラス入りも危険水域だ。昨季日本一達成で連覇を目指したが、やはり大谷離脱の影響はとてつもないほど大きく、チームは低迷にあえいでいる。

 このままV逸、さらにBクラスが確定すれば、大谷が戦犯扱いされることは避けられそうもない。確かに日本一の栄冠をつかんだ昨季は投打に渡ってMVP級の活躍を残して賞賛を送られたとはいえ、今季終了後は一転して批判の矢面に立たされる可能性が十分にあるだろう。

 そうなれば今オフはメジャー移籍どころではなくなってしまうかもしれない。もし周囲の空気を読まずに大谷が球団側にメジャー移籍を直訴するとなると、ファンから猛反発を食らってしまうことはある程度ながら予見できる。球団内で「翔平はファイターズファンの気持ちに反してまで海を渡ろうとはしないと思うので、メジャー移籍は先送りにするのでは」と見ている関係者は少なくない。

●日本ハム側が直面する難題

 2つめの問題は、送り出す日本ハム側が直面する難題だ。海外FA権取得前の大谷が今オフ、メジャーへ移籍するためにはポスティングシステムを使うしかない。だが、13年12月に発効された現行の同システムは17年10月31日をもって失効する。

 本来ならば現行の同システムは1年ごとに内容の見直しを図ると取り決められていたものの、16年5月に1年間の延長が決められていた。しかしながらすでに同システムについてメジャーリーグ機構(MLB)から改正へ向けた協議の申し入れがあったことが先日行われた実行委員会の場で日本野球機構(NPB)によって明らかにされ、早くも周囲では交渉の難航が懸念され始めている。

 現行の同システムでは移籍対象選手を獲得するためにメジャーの球団が支払う譲渡金の上限は2000万ドルと定められているが、選手獲得費用の高騰を何としてでも防ぎたいMLB側は協議の席上でさらなる減額を求めてくることは必至。そうなればNPB、そして取り分の減るセ・パ両リーグの12球団が猛反発することは無論、新しい形態の同システム施行によって海外FA権取得前のメジャー移籍が選手にとって足かせになると判断すれば選手会もクレームをつける流れは想像がつく。

 日本ハム側も貴重な戦力の大谷を出血覚悟で放出するのだから、それなりの対価を得る権利がある。それならば減額によって新ポスティングシステムの譲渡額が以前と比較してとんでもない激安価格となってしまったら、いくら大谷が「行きたい」と言っても、さすがにすんなりとOKは出しにくくなってしまうのではないか。

 何より、その日本ハム側を含めてNPB所属の各球団がMLB側の譲渡金減額要求を突っぱね続けて新ポスティングシステムの交渉がなかなかまとまらずに長期化してしまったら、大谷の今オフのメジャー移籍自体が時間切れによって消滅してしまうこともあり得ない話ではない。

 一方でMLBは16年12月、海外選手との総契約金を最大575万ドルに規定し、適用年齢をこれまでの23歳未満から25歳未満に引き上げている。移籍資金などの高騰を抑制する狙いで行った新規定により、17年23歳を迎えた大谷は来年からメジャーでプレーする場合、1年目は当初予想されていた超大型契約よりも大幅に抑えられた年俸しか手にできないことになった。

 ただし、これは入団に際しての規定で1年目のみ適用される内容であることから、2年目以降に超大型契約を用意するなど事実上の“抜け道”も駆使できそうな見込み。新規定の適用が決まった当初は「大谷が今オフの移籍を決意してもマイナー契約の待遇しか得られない」との見方もあったが、どうやらその心配はそこまでしなくてもよさそうだ。

●母校の存在

 最後にもう1つ、補足しておきたい。大谷が今オフのメジャー移籍を思いとどまる可能性がある理由として「母校の先輩」の存在がある。今オフにもポスティングシステムを使ってメジャー挑戦がうわさされている西武のエース・菊池雄星投手だ。大谷と同じ花巻東高校OBで3学年先輩。結局断念はしたものの高校卒業と同時に日本のプロ野球球団には入らず、米メジャー球団と直接契約を結ぼうとした経緯がある点も大谷と共通している。

 菊池は16年、英語堪能な元フリーキャスターの女性と結婚。メジャー移籍に向けて着々と準備を進め、球団側とも水面下で話し合いを重ねていると言われている。昨季は自身初の2ケタとなる12勝をマークし、2年連続で開幕投手を務めた今季も順調でこのままいい数字を残せば「いよいよゴーサインが出されるのでは」ともっぱらだ。本格派の左腕だけにメジャーの複数球団から現時点でも熱い視線が向けられている。

 そうなると今オフは雄星と大谷が日本球界からメジャーへダブル移籍を果たす可能性が出てくる。ただ、それでは花巻東の先輩後輩が同じメジャーの移籍市場に出てくるわけだから「ウチはオオタニが獲れたからキクチは不要」「いや、オオタニよりも左のキクチのほうが魅力的」などというケースが生まれ、お互いにパイを奪い合うような“共食い”になってしまうこともあり得る。

 「我々が考えている以上に花巻東野球部出身のOBたちは卒業後も監督の佐々木洋さんに心酔し続けています。監督の夢は『花巻東の野球部からメジャーにはばたき、世界を目指す選手が出てほしい』こと。そういうこともあって雄星君も翔平君もメジャーでのプレーを目標にしているのです。

 おそらく2人は、どこかのタイミングで佐々木監督に今オフの去就について相談するでしょう。そして翔平君のほうが今年置かれた自分の立場がよくないと考え、とりあえず今オフに関しては先輩との競合も避ける形で自身の移籍を見送り、雄星さんに先にメジャーへ行ってもらうという結論を出す。そういうシナリオも考えられると思います」(花巻東に近い事情通)

 18年、大谷はどのチームのユニホームを着ているのだろうか。メジャーでも「二刀流」を続けるつもりなのかも含め、日米が今オフの決断の行方に注目している。

(臼北信行)