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仕事を「見える化」すると健全経営に!

7/6(木) 16:22配信

ITmedia ビジネスオンライン

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 私が本書を出版しようと思ったきっかけは、飲食店を筆頭にあまりにも多くのサービス業が新規出店をしては、閉店または廃業を繰り返しているからです。潤沢な資本がある大手企業を除けば、そのほとんどのお店は経営者が莫大(ばくだい)な借金を背負って開業しているのではないでしょうか?

 東京商工リサーチの調べによると、1年以内の廃業率は34.5%で3年になると70%だそうです。10年後には90%が閉店もしくは廃業とのこと。3年くらいでは本人の借り入れは残っているだろうし、ひどい時には社員の給料は未払い、取引先の売り掛けもそのままでつぶれてしまう……。

 私自身も21年前の30歳の時に、国民金融公庫で当時の私にしては大きな額の借り入れをして起業したのが始まりでした。

 起業した当時はマーケットが拡大時代でしたので、ある程度のどんぶり勘定経営でも何とかなりましたが、現在のようなマーケット縮小時代には、「見える化経営」をしなければ利益など残すことはできないのです。

 マーケット縮小時代は「正しく決定する」よりも、「早く決定する」が求められる行動なのです。マーケット縮小=成熟していることなので、成熟社会ではあらゆることの移り変わりが早いのです。今成功したことが、半年後は成功しないかもしれません。そして、マーケットに「答えは1つ」ではないのです。

 お客さまに受け入れられ、スタッフにもプラスになればそれが「正解」なのです。

 だからこそ、「早く決定」して、「早く実行」することが重要なのです。とはいえ、早く実行したからといって全てがうまくいくわけではないですし、失敗する決定のほうが多いことでしょう。それでもなお、「早く決定」して「早く実行」するのです。

 なぜでしょうか?

 中小零細企業のオーナー社長は、多額の資金を注ぎ込んでいます。何があっても会社を存続させなければならないのです。会社も家族も社員も、全ては社長の両肩に乗っかっているのです。社長は常に全体最適の思考と行動が求められるのです。

 一方の社員は、もちろん全員ではないですが、全体最適よりも会社の中での自分の地位や、ライバルとの関係を真っ先に考えるのが普通です。ある意味、給料をもらう側は自分の居心地がよいに越したことはありませんので、偏った決定になりやすいのです。「決定」は社長が行い、「実行」は社員の役目なのです。そして失敗した場合の全責任は社長が負うのです。

 それが経営者の覚悟というものです。その覚悟を持った上で、「見える化」を実践しなければなりません。多くの見える化がありますが、ここではわが社で取り組んでいる中から3つを取り上げましょう!

 1つ目は「モノとレシピの見える化」です。まずは、見えるモノ(在庫・備品)の見える化をしなければ、見えないモノ(評価・利益)の見える化などは無理だからです。わが社では食料品はもちろん、調味料や飲料類、食器に至るまで毎月棚卸しをしています。なぜかというと、ここまで毎月棚卸しをやると不正が少なくなります。不正というのは「不正をした人」よりも「不正をさせる環境」のほうが問題だと考えています。

 人に罪を犯させない環境を作ることも経営者の重要な仕事の1つです。厳しいルールと仕組みを作ることも社員への愛情です。多くの不正は、ちょっとしたことから起きる場合が圧倒的に多いのです。小さな不正から始まり、気が付いた時には手の付けられない不正になっていた。そんなことで大事な社員を失うわけにはいきません。

 それと同時に重要なのが、適正在庫です。本来であれば資金化しているものが、無駄な在庫になっている。それは資金繰りを圧迫し利益を失わせている。逆に在庫切れは機会損失で売上ロスにもつながる。よって、棚卸しというのはとても重要であるのに多くの社長はそのことをおろそかにしているのです。同時に社員にも適正在庫の重要性を教えなければなりません。大変なのは最初だけです。習慣にさえすればいいのです。

 次にレシピを見える化します。レシピの見える化を実行することで、誰が作っても同じレベルの料理を提供することができます。「人に仕事を付けるのではなく、仕事に人を付けなければなりません」。

 それともう1点、重要ことがあります。正確な原材料の仕入れ値が分かっていないとできないことがあります。それは原価率の計算です。原価率が分からなければ、粗利益率が出てきません。売上から原価を引けは粗利益です。売上から粗利益を引けば原価です(細かく言うと、棚卸し原価率と理論原価率の誤差はありますが)。形は同じですが、原価を下げるという考え方と、粗利益を上げるという考え方は全く違います。

 原価を下げるというのは仕入れや作り方、そして廃棄などの問題です。原価を下げたいからといって、原材料の質を落とすと顧客離れが始まります。例えば、品質は今までの材料とほんの少し程度しか下がりませんが、仕入れ値は1割下がったとします。それに甘んじているお店は、また次に同じような提案が来ると飛びつくことでしょう。気が付くと、最初の品質から大きく味を落とすことになります。実際にこういう店舗はかなりあります。経営者が調理に関わっていない場合は、気付かないうちに起きていることが多くあります。

 一方、粗利益を上げるという考え方は、原価率が低くてもお客さまに喜ばれている「粗利を稼いでいる商品」を特化してもっと売るという考え方です。もう1つは、価値を高めて売価を上げるということです。原価を下げるという考え方と、粗利を増やすという考え方は全く別物です。その「粗利を稼いでいる商品」を見極めるためにも、レシピの見える化は重要なことです。

 よくあるパターンでは「このメニューは常連客がついてるから外せないんです」という言葉を聞きます。しかし、実際にレシピ分析をしてみると、その商品が利益を圧迫させていることがよくあります。勘や経験だけに頼って営業をしていると、いつまでたっても利益を増やすことはできません。メニューは勘を頼りにするのではなく、客観的な数字をもとに理論的に作るものです。経営をしていく上で一番大切なのは「利益」です。極端な話、売上が下がっても「利益」が上がれば問題はありません。利益を出すためには、売上を上げるか経費を下げるしかありません。だからこそレシピの見える化が必要なのです。

 売上は他社との競争です。しかし、利益率は企業の体質なのです! このように大切なことを行わないで、経営者が「原価が高い!」と声高に叫んでも、社員は先に挙げたような行動に移すしか手がないのです。彼らに悪気はないのです。やり方を教えない無能な社長が悪いのです。

 2つ目は「評価の見える化」です。働く人が意欲を持つための人事評価を見える化する必要があります。評価の仕方は会社での立場によって変わります。一般社員・若手社員は自己評価と上司評価の2つで表します。本来であれば、社会人の仕事の評価は他者評価で決まります。自己評価とはただの自己満足でしかありませんが、若いうちは総じて自己評価が高くなりがちなので、自己評価と上司評価を重ねることによって、本人感覚と上司の求めているレベルとの乖離(かいり)を減らすことができます。

 ほぼどんな会社でも、社長の熱意というのは管理職に半分くらいしか伝わっていないのです。また、管理職の熱意は一般社員には半分くらいしか伝わっていないものです。そうすると社長と一般社員とでは、おおむね4倍くらいの差が出てきます。ですから、わが社では一般社員の評価は管理職に任せています。任せるといっても全てではなく「査定」において任せているという意味です。管理職も任されることによって責任が生まれます。管理職の評価に自己評価は一切ありません。同僚や部下による他者評価と生産性の達成率が査定の対象です。

 アルバイトスタッフにおいては、2カ月に一度、自己申告制をもとに査定を行います。本人が申告した内容に社員の70%が賛同した場合は、昇給が認められます。評価結果は誰でも閲覧できるので、自分に足りないものは何なのか、どんな行動が評価されるのか、といった詳細を知り、改善に向けて努力することができます。

 3つ目は「サービスの見える化」です。私は、店のスタッフに安易な感動やスター性を求めてはいません。求めるのは、誰に対しても等しく、安心できるサービスを提供することです。そのために現在、お客さまの属性や来店頻度や嗜好(しこう)を一元化して共有するシステムを構築中です。定量的なお客さまデータだけではなく、どんな方なのか、いつ、どんな目的で来店し、何を注文し、どんな要望があるのか。そうしたコミュニケーションそのもの、温度感までも全社員が参照し、共有できるシステムです。

 家族だけでほそぼそと続けるなら、「おいしいものを提供する」ことだけを考えればよいでしょう。しかし、これからの時代に生き残っていくためにはマーケティングが必要です。商売で培った知恵をシステム化し、お客さまへの提供価値を高めていく。そして、私がこれまで築いてきたノウハウや経営理念を社員一人一人に伝え、思いを1つにする。飲食店の経営は、今後ますます厳しくなります。最近では、私のビジョンを社会に還元するために、セミナーやコンサルティングにも力を注いでいます。日本中の飲食店とともに成長していくこと。それが現在の私が描く未来図です。

(河邉幸夫)

(ITmedia エグゼクティブ)