ここから本文です

【ライターコラムfrom松本】いぶし銀の正GK鈴木智幸、不遇の時期に支えとなった大先輩・土肥洋一からの言葉

7/6(木) 18:34配信

SOCCER KING

 「いぶし銀」という言葉が実にしっくり来る。

 鈴木智幸。加入3年目、31歳のGKだ。昨季までは公式戦の出場機会を勝ち取れず、ホームゲームの際にはスタンドから静かにピッチを見守っていた。

 だが今季は事情が違う。開幕戦で先発に抜擢されると、故障から復帰して第18節以降も再びスタメンに名を連ねている。派手なプレーを繰り出すタイプではないものの、クロス処理やシュートストップ、キャッチングなど1つ1つのプレーが着実。レノファ山口FCに2-1と競り勝った前節も1失点こそ喫したが、終了間際に好セーブを見せて影の立役者となった。

 加入してからの2年間、不遇の時期をどのように過ごしてきたのだろうか。率直にその疑問をぶつけると、東京ヴェルディ時代のエピソードを明かしてくれた。国士舘大から加入して2年目のある日、大先輩に当たる土肥洋一さんからかけてもらった言葉が今も強く焼き付いているのだという。

「お前、まだ全力でやってないよ」

 正面切ってガツンと言われたわけではなく、「本当にボソッと言う感じだった」というその一言。だがプロのキャリアがまだ浅かった鈴木の胸には、十分すぎるほど突き刺さった。「全力のつもりではいたけど、その時は練習をこなしているだけで周りからはそう見えていたんだと思い知らされた。あの一言で考え方を変えるスイッチが入ったし、それがなければダラダラやっていただけかもしれない」と振り返る。

 以降は「継続」を信念に据えてきた。「良いときも悪いときもあるけど、目先のことだけに一喜一憂せず1日1日を大切に積み上げていくだけ。今は若いときに蓄えた引き出しを(ピッチで)出している状態だと思う」。そしてGK陣4人の中で最年長となった現在は、年下の選手に背中で範を示している。「一番上が一番やらないといけないし、自分がみんなと同じ練習メニューをこなせないとダメ。そこはしっかり見せていきたい」。語り口こそ冷静沈着そのものだが、言葉には自然と重みがにじみ出る。

 だがさまざまな経験を積んできた鈴木にも未体験の、しかも非常に重要なことが1つある。ホーム・アルウィンでの勝利だ。それを実現する格好のチャンスとなるのが次節で、松本は開幕戦で苦杯をなめた横浜FCを迎え撃つ。そもそも第10節カマタマーレ讃岐戦を境にホームでの白星から遠ざかっており、「2カ月以上アルウィンで勝っていないのに足を運んでくれるサポーターに申し訳ない。勝ち点3にこだわってみんなで喜びを分かち合いたい」と鈴木。「このチームは本当に相手のシュートチャンスが本当に少ない。1本か2本を守り切れれば(失点)ゼロでいけるから、最後まで集中したい」と力を込める。

 松本が勝ったときはゴール裏のサポーターと向かい合って肩を組み、「アルプス一万尺」を踊るのが恒例。その際に任意の選手が列から出てダンスのパフォーマンスを披露するのも通例となっている。求められたら出て行くのか--と問うと、苦笑交じりに「そういうキャラじゃないので、誰かしらがやってくれると思います」と返ってきた。控えめな部分もまた、いぶし銀のように味わい深い。

文=大枝令

SOCCER KING

最終更新:7/6(木) 18:34
SOCCER KING