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鳥取編:大学進学率は東京の半分、その切ない理由~UIターンの理想と現実

7/7(金) 6:10配信

@IT

 こんにちは、「ミノハラ製作所」の蓑原です。

 「U&Iターンの理想と現実:鳥取編」、前回は私の生活をベースに、鳥取県の暮らしについてお話ししました。今回は、鳥取県の企業風土や鳥取県人の働き方を取り上げます。

【鳥取県が子育てに最適な4つの理由】

●良くも悪くも「アットホーム」な鳥取県の企業

 日本で一番人口が少ない鳥取県は、県内総生産額も日本全国ワーストワンです(参考:平成26年度県民経済計算について 内閣府)。

 かつて、鳥取県には「鳥取三洋電機」という大企業がありましたが、4年前にPanasonicに再編されて「三洋テクノソリューションズ鳥取」などに分割されてしまいました。

 鳥取県に本社がある株式上場企業は、現在わずか4社(出典:上場企業サーチ 鳥取県に本店登記のある上場企業一覧)。鳥取の企業の多くは、県外に本社のある企業の支社、支店、工場か、その下請けに位置する地元の小さな企業です。

 製造業でしたら、「バリューチェーン(商品企画や開発~設計~調達~製造~物流~販売)」の初めから終わりまでを1社内で担う企業はほとんどありません。金属加工や樹脂成形などの一部分を専門的に行う中小企業が大方です。

 団塊世代の創業社長と経理の奥さん、息子世代が専務、といった家族経営スタイルの企業が多く、社員は「会社」というよりも「家庭」に入る、「就職」というよりも「奉公」するイメージです。

 都会の方には「アットホーム」と見えるかもしれません。

 社長は社員の面倒をとことん見ます。会社と社員を守るべく奮闘する社長の姿は、まさにお父さんです。

 私は鳥取出身の経営者なので、「鳥取の従業員の方」とは視点に違いがあるかもしれません。そこで、UIターンをして鳥取県で働いている方々にもお話を伺いました。大手メーカーから、小さな製造業へIターン(結婚して移住)したAさんと、鳥取県の支店にIターンしたBさんです。

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(鳥取の会社は)全体的に時の流れがゆっくりとして、会話のテンポもゆったりとしているように感じます。見渡せば社員全員を確認できるような規模の会社なので、お互いのことをいろいろ分かっており、落ち着きがあります。新卒者の定期採用がなく、転勤や異動などの配置換えも少ないので、社員は皆長年の付き合いになり、緊張感はあまりありません。(Aさん)
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●鳥取県人は「奥ゆかしい」

 次に、同僚の性格について聞いてみました。

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同僚は皆、とにかく真面目で、連続する単調作業でも長時間集中して確実に生産してくれます。本店より生産性はいいかもしれません。「言われたことをキッチリやる、さらにそれを粛々と継続して実行できる」のが、鳥取県人の特徴だと思います。都会の人とは人種が違うのかと思うほど、真面目で素直な人たちです。(Bさん)
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都会の会社では、自己主張しないと仕事についていけないものでしたが、鳥取の会社ではその自己主張を感じることがありません。(Aさん)
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 鳥取県人は「奥ゆかしい人」が多めです。自分から発言、発信、行動を起こす人は、あまりいません。

 しかし仕事をお願いをすると、素直に粛々と実行してくれます。「これ、面倒くさくない?」と思うようなこともやってくれます。本当は嫌なのに「やらないといけないから」と我慢していることも多々あります。

 お願いした時点で気になることを言ってくれればいいのですが、「質問する=逆らう」と思っているのかもしれません。特にお父さん役の社長には言いにくのでしょう。

 波風を立てないように、もめ事にならないように気を使っているのか、「言っても変わらない」と諦めているのか、疑問を持っても黙って自分の中で消化してしまう人が多いようです。

 しかし、中には自分の気持ちや情報を「発信」してくれる人もいます。私見では、女性の方が比率が高いように思います。いろいろ気が付いて動いてくれるのも女性の方が多い。私の会社に限ったことかもしれませんが、鳥取は女性の方がしっかりしているかもしれません。

●鳥取県人の「ワークライフバランス」

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同僚の皆さんは兼業農家が多いので、仕事よりも家業(農業)優先かもしれません。農作業の時期になれば、朝ひと仕事してから出社する方、そのために有休を取る方もいます。休日はゆっくり過ごしているのかと思ったら、一日農作業で潰れることもあるようなので、はたから見ていると大変そうです。都会で働く人よりも、地域や家族を大切にする雰囲気が伝わってきます。しかし仕事は後回しということではありません。皆さん真面目なので、どちらもちゃんと両立しています。(Aさん)
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 子育て環境は、どうでしょうか。

 ここまでに書いてきた通り、鳥取の企業は社員が家族同然で、地域や家族のつながりがあるので、子どもの用事で早退したり休日を取ったりすることに関して比較的寛容です。

 また、前回の記事で書いたように鳥取県の会社員の通勤手段は車が多く、渋滞はそれほどありません。通勤圏は片道30分以内なので、終業後に小さな子どもを迎えに行きやすいのです。

 鳥取県倉吉市のWebサイトによると、倉吉市には24カ所の保育園と3カ所の幼稚園があり、延長保育や障がい児保育、休日保育など、保育体制が充実しています。都会で問題になっている「待機児童問題」は全くありません。

 育児休暇を終えた弊社社員に聞いたところ、1歳児クラスの生徒は1人だけ。先生と子どもとのマンツーマン環境に、親も子どもも安心しているそうです。

 医療費は「18歳までは通院1回530円。5回目以降は無料。薬代は最初から無料」です(参考:特別医療費の助成内容 鳥取県倉吉市役所)。

 鳥取県は共働きの割合が高いので、子育て環境が充実しているのはとてもありがたいことです(出典:鳥取県の夫婦共働き世帯割合は何%ですか 鳥取県地域振興部)。

 東洋経済新聞社が発表した「住みよさランキング2017」によると、福祉の充実度などを示す「安心度」で、鳥取県倉吉市4年連続全国1位になりました。「全47都道府県幸福度ランキング2016年版」でも、鳥取県は全都道府県中8位です。

●鳥取県の大学進学率が低い、切ない理由

 教育環境はどうでしょうか。

 前回倉吉市の高校が、情報科の募集を停止したことを書きました。今回は鳥取県全体について調べてみました。

 鳥取県には、公立高校が24校、私立高校が8校あります(出典:県内高等学校一覧 鳥取県教育委員会)。鳥取県の人口は57万人なので、「枠」で考えれば十分足りると思われるかもしれませんが、「行きたい学校を選ぶ」ことがあまりできません。

 大学進学率の高い高校は、全32校の一部です。

 そのうちの1校、倉吉市の「倉吉西高校(普通)」の2017年の入試倍率は1.50倍でした。受験者3人に1人が落ちる計算です。

 同じ倍率でも、都会では併願校を受験できます。しかし選択肢がない鳥取県では、志望校に落ちると、その後の人生設計まで狂いかねません。

 「2016年度学校基本調査(総務省統計局)」によると、鳥取県の大学進学率は39.3%で、全国36位。東京の72.7%の約半分です。

 鳥取県には大学は5校あります(出典:県内大学等一覧 鳥取県教育委員会)。しかし学べる学科に限りがあるため、学びたい分野によっては、選択肢は県外の大学しかありません。

 しかし県外の大学に進学すれば、学費に加え、家賃などの生活費がかかります。鳥取県の年収平均は、東京の約65%、実家のご両親への負担は相当なものになります。

 そのため、家族のことを思って、初めから大学進学を選ばない若者がたくさんいます。

 「諦め」のようなものを持ったまま就職する若者も多くいます。私はこれが鳥取の人口減少の原因の一つではないかと思います。若者が希望を持てなくなる環境になってしまっているのではないかと。

 またこれは、大学進学で県外に流出した若者が、帰ってきてくれない理由でもあると思います。

 私は、鳥取県民はこのマイナスを理解する必要があり、プラスに転換する義務もあると思います。私は学校を設立することはできませんが、「働き甲斐のある職場」を作りたいのです。そのためには、補助金ばらまき型の行政には頼っていられません。

 県内のいろいろな場所で、頑張っている人たちはたくさんいます。しかし、同じ特性を持った鳥取県民だけで絞る知恵には限界があります。東京のようないろいろな県から集まった人から生まれる多様性のある知恵にこそ可能性を感じます。だから、さまざまな人の協力をいただきたいのです。

 「U&Iターンの理想と現実:鳥取編」、次回は田舎の経営者の視点から、「田舎がITエンジニアに求めているモノ」についてお話しします。

●筆者プロフィール
ミノハラ製作所 蓑原康弘
地方の町工場の2代目社長。異業種から製造業に入り、さまざまなギャップに困惑しながらも、プログラミングを習得し、山積みの経営課題をIoT導入で解決しています。


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最終更新:7/7(金) 6:10
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