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いつもと違う浦和戦後の言葉…広島・森保一監督の退任劇に至るチーム不振の背景とは

7/7(金) 17:10配信

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■昨季終盤から始まっていた大失速

一度は2点差をひっくり返した。だが残り5分に達した時、半分の選手が足をつり、走ることが難しい――。失点。さらに失点。アウェイでの浦和レッズ戦、サンフレッチェ広島は3-4で敗戦を喫した。

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試合後、森保一監督に「次節(横浜F・マリノス戦)もこのメンバー、このやり方で闘うのか」と尋ねた。その時、森保監督は「今はちょっと分からない」と明言を避けた。いつもなら「相手を分析して考えます」と言うはずなのに――。深層心理は分からないが、どこか嫌な予感がした。その2日後、その予感は退任という形で現実となった。

この試合、森保監督は大きなチャレンジを仕掛けていた。GK、ボランチ、シャドーで3人の選手を入れ替え。守備も従来のリトリートするスタイルを捨て、マッチアップして一対一を仕掛けるというリスクを伴う戦いに敢えて挑戦した。そこには広島が慢性的に抱える大きな問題点を打破したいという、指揮官がずっと抱えていた思いが集約されていたと言っていい。

昨年の明治安田生命J1リーグ2ndステージの戦績を見てみよう。第8節までは4勝2分け3敗で16得点11失点、第9節以降の9試合で4勝5敗、10得点11失点。ただ4-1で勝利を収めた第16節・アビスパ福岡戦は、相手がJ2降格決定後の試合で、広島側には功労者・森崎浩司の引退試合という意気込みがあった。

最終節は、対戦相手・アルビレックス新潟が大敗しなければ得失点差でJ1残留できる状況となり、広島にリードを許しても自陣で守るだけ。1-0で試合終了のホイッスルを聞いた。そんな特別な事情の2試合を除外すれば、7試合で2勝5敗、5得点10失点。1試合平均の数字を見ても、下記の通り、大失速である。

第8節までの平均→後半7試合の平均
勝点 1.75→0.86
得点 2.00→0.71
失点 1.38→1.42

昨季の1stステージはピーター・ウタカ(現FC東京)が17試合で13得点を奪い、全得点の40.6パーセントを1人で叩きだす暴れっぷりを見せた。だが、シーズン終盤の9試合ではわずか2得点。コンビネーションは研究し尽くされ、ウタカも封じられては中央から崩すのは難しい。シュート本数がリーグトップなのに得点が増えないのは、決定的に崩す前に打っているためで、その傾向は今季も同様である。

■機能不全を起こしていたコンビネーション

実はミハイロ・ペトロヴィッチ監督時代の2009年をピークとして、広島のコンビネーションは研究を重ねられ、すでに機能不全を起こしていた。2009年に平均得点1.56という数字をマークしながら、2010年は1.30。2011年は1.53とやや持ち直したものの、それは李忠成(現浦和レッズ)とムジリによる個人での打開が大きかった。

2012年に就任した森保監督は、李やムジリなど、多数の主力が移籍したチームを再整備。2011年に11得点だった佐藤寿人(現名古屋グランパス)を絶対的エースとして信頼することで、22得点という爆発を呼び起こした。さらに高萩洋次郎(現FC東京)や石原直樹(現ベガルタ仙台)、森崎浩司(現広島アンバサダー)といったシャドーの創造性も光って少ないチャンスをモノにし、就任初年度に63ゴール(1試合平均1.88得点)を奪うなどしてリーグ連覇を達成。

2015シーズンにはドウグラス(現アル・アインFC/UAE)、浅野拓磨(現シュトゥットガルト/ドイツ)のようなコンビネーションに頼らない選手の存在で打開し、73ゴール(同2.15得点)を記録して3度目の頂点に立った。だが、それも根本の解決にはつながらない。相手の分析はさらに徹底され、チームは個人による打開だけではどうにもならない状況に差し掛かっていた。

だからこそ、森保監督は今シーズンのキャンプ前に危機感を募らせた。

「昨シーズンはシュート数がリーグトップだったのに得点できていない。もっと決定的なチャンスを作るため、攻守が切り替わった瞬間にアクションを起こしたい」

今オフ、ウタカが強い海外志向を示して契約が難航したことは事実である。残念ながらチームは前年度のリーグ得点王を失うことになったが、もし彼がいたとしても、昨季のままであれば後半戦と同様に、成功確率は低かったことが想定される。だからこそ、指揮官は前線からの守備で相手を追い込み、切り替わった瞬間にアタックを仕掛けて相手の陣形が整わないうちにショートカウンターを発動させようとした。

実際、プレシーズンでは攻撃陣が爆発していた。鹿島アントラーズがAFCチャンピオンズリーグで苦杯をなめた、タイ王者のムアントン・ユナイテッドに敵地で3-1と完勝するなど手応えは十分。塩谷司(現アル・アインFC)も「得点は取れる。あとは守備」と言うほどの自信で開幕を迎えた。

だが、思惑は外れた。

■失われたパスサッカーへの自信

相手が主体的に攻めてくることが少ないため、ボールを奪っても、その先のスペースは消されてしまい、磨き上げてきたショートカウンターは不発。開幕前に好調だった新加入の工藤壮人やフェリペ・シウバも、あまりにスペースがない状況に戸惑い、調子を崩した。運動量の少ないウタカではこのやり方は難しいと思われていたが、もし工藤と2トップを組むなどウタカに対してサポートする形を作れば、前年度リーグ得点王の破壊力は活かされたかもしれない。ただ、それはあくまで結果論である。

新しい守備スタイルはカウンターのリスクも内包しており、我慢が利かない。第4節で北海道コンサドーレ札幌に敗れた後、森保監督は低い位置でブロックを作る守備に修正。選手たちも望んでいた戦い方だったが、それでも結果が出ない。続出する主力のケガも、修正に待ったを掛けた。

低い位置でブロックを作ってもボールをつなぐサッカーが昨季に崩れなかったのは、パス成功率95パーセント台を誇る森崎和幸という手練れの存在ありき。さらに同90パーセントを超える千葉和彦がいたからこそ、相手の圧力を受けても安易なクリアをすることなく打開できた。だが、森崎和が慢性疲労症候群で長期離脱したことにより中盤のミスが増え、パートナー不在に千葉のパスもブレる。昨季の後半、足に不安を抱えた森崎和をベンチに置いた試合で起きた現象と同じだった。

第8節・仙台戦は2-0とリードしながらボールロストを繰り返し、8分間で3失点を喫した。選手たちは一気に自信を失った。この試合で広島のパスサッカーを支えてきた「つなげる自信」という土台が崩れてしまう。

第15節で川崎フロンターレに敗れた後、森保監督と一対一で話せる機会があった。

「(森崎)カズ以外の選手たちは、強い広島しか知らない」

もちろん危機感は全員が持っていた。しかし、2度も降格を経験した森崎和とは質が違う。強い広島しか知らない選手たちは、現実と「自分たちはやれる」という深層心理とのギャップに驚き、惑い、そして本当に自信を失った。そのギャップを埋めるため、現役時代に仙台でJ2降格を経験した指揮官は努力を重ねた。

仙台に敗れた後、第10節・ヴィッセル神戸戦で森崎和が復帰。彼もまた積極的にコミュニケーションを取ってチーム全体のメンタル改善に手を尽くしたが、第14節・鹿島戦から4連敗。しかも4得点11失点と攻守に結果が出ない状況が続く。

■“敗軍の将”で終わらせないために

「森保監督だけに責任があるわけではない」

指揮官の退任が発表された7月4日、この言葉が織田秀和社長、横浜FM戦と天皇杯のFC岐阜戦で暫定的に指揮を執る横内昭展監督、そして千葉和彦選手会長からも発せられた。その通りである。チームとして闘うのがサッカーである以上、勝利も敗戦もチームだ。ただ、結果責任を問われるのは、どんな時も監督である。それは、2012年の指揮官就任から、森保監督自身が常に口にしていた言葉でもある。

就任から3度のリーグ優勝。クラブに初めてのタイトルをもたらしたことは、何ものにも変えがたい財産だ。難航する新スタジアム問題にも積極的に発言し、理解を求める仕事も請け負った。クラブ創設時から広島を支えたレジェンドを、このまま“敗軍の将”にしておくわけにはいかない。織田社長の言う通り、「死に物狂いで勝点を稼ぐことで、森保監督に恩返しするしかない」のである。

「選手が出した結果の責任を監督が背負ってしまった」(千葉)からこそ、「リバウンドメンタリティを持って結果を残すことが、責任を取った森保監督のためでもある」(森崎浩司アンバサダー)

新監督について織田社長は「中断明けとなるYBCルヴァンカップ・プレーオフステージ第2戦のFC東京戦から指揮が執れるよう、間に合わせたい」と言う。森島司を始めとする若手が成長し、ガンバ大阪からパトリックと丹羽大輝を獲得して選手層に厚みを増した。あとは結果である。

「埼玉スタジアムで0-2から3点を取った。力を持っていると自信を持ってほしい。前向きにゴールに向かうことを忘れず、チャレンジを続けてほしい」

いつもなら「チャレンジしたい」と言うところを「続けてほしい」と浦和戦を締めくくった。その言葉に指揮官の思いが秘められていたのかもしれない。愛するクラブのために5年半、全身全霊を懸けて休みなく闘った森保一のメッセージを、クラブに携わる全員が重く受け止め、前に進むしかない。それがサンフレッチェ広島に求められる唯一の道なのである。

文=中野和也(紫熊倶楽部)

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最終更新:7/7(金) 17:10
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