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ソラコムは、あなたの気が付かないうちに、少しずつ「次」へ進んでいる

7/7(金) 8:25配信

@IT

 2017年7月3日にNTTコミュニケーションズが発表した「100円SIM」(IoTデバイス当たりの通信量が1MB以内なら月額料金100円というモバイル通信サービス)について、ソラコム社長の玉川憲氏に聞くと、「市場が広がるのでありがたい。協業できる可能性もある」と答えた。これが象徴しているように、ソラコムのビジネスは、少しずつ次の段階に入ろうとしている。

トランスポート技術への非依存を目指す

 ソラコムは2015年9月にデビューしたとき、「IoTのための格安SIM」を前面に押し出して注目を集めた。その流れでいえば、100円SIMを同社と完全に競合する存在として捉える人がいてもおかしくない。だが、2つの点で100円SIMはソラコムの脅威とはならない。

 まず、料金については、同社は2017年5月にグローバル向けSIMで、月額基本料金0.4ドル、データ通信料金0.5 ドル/MBの、「Low Data Volume」という新料金プランを提供開始している。新料金プランの月額料金は1MBの通信であれば0.9ドルの計算になり、ほぼ100円SIMと同レベルだ。

 また、ソラコムは単なるIoT向けのMVNOではない。IoTシステムを構築する際のインフラ面での課題をクリアするためのサービスを次々に出してきており、これらがユーザーを引きつける原動力となっている。

 すなわち、Amazon Web Services(AWS)などのパブリッククラウドサービスと同様に、当初は価格でインパクトを与え、その後も基本サービスの価格は低く抑えながら、周辺サービスを充実させていくという戦略で成功を収めてきた。

 そのソラコムは、次の段階に向けた動きを強めている。

●「通信方式に依存しない」の意味

 ソラコムはまず、NTTドコモのMVNOとしてスタートしたが、その後auとも提携。マルチキャリアでIoT通信サービスを提供できるようになった。

 モバイル通信に続いて取り組んだのは、LPWA(省電力広域通信)技術の一種であるLoRaWANだ。LPWA技術はどれも歴史が浅いが、同社はLoRaWANを有力技術として選び、技術実証実験を経て、この技術をIoT接続の選択肢の1つとして推進し始めた。

 「所有モデル」と「共有サービスモデル」という、ユニークなスキームで、検証済みのLoRaWAN対応IoTゲートウェイおよびIoTデバイスを同社サービスとバンドルする形で販売開始している。

 これでもまだ、ソラコムをモバイル通信および、LPWAでは「LoRaWAN陣営」のIoT関連企業としてカテゴライズすることが可能だった。だが、2017年7月5日の発表で、このようなステレオタイプ化ができなくなった。

 ソラコムはまず、スカパーJSATとの実証実験を開始したと発表した。これはセルラーの電波が届きにくい場所で、LoRaWAN対応IoTゲートウェイのアップリンクを衛星通信により代替する取り組み。LoRaWANを補完し、適用範囲を広げるものと表現できる。

 もう1つの発表はソニーの独自LPWA技術の技術的検証を、2017年7月に開始するというもの。ソニーの技術は通信距離、高速移動通信への対応に優れているといい、こうした特徴を生かしたIoTへの活用を進めようとしている。

 さらにインパクトが大きいと考えられるのは、LPWAにおいてLoRaWANのライバルとも言われてきたSigfoxへの対応だ。フランス企業の技術で、標準化されているわけではないが、世界各国でサービス事業者をリクルートし、接続サービスを展開している。日本では京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が独占サービス事業者として基地局を展開中。2020年中には全国をカバーするとしている。

 ソラコムは2017年7月5日、Sigfoxデバイスに対し、セルラーやLoRaWANの場合と同様なサービスを提供開始したと発表した。また、「レファレンス端末」として、「Sens’it」(マルチセンサー端末)、「ドライコンタクトコンバーター」(接点監視端末)を、Sigfoxおよび同社のサービス1年分込みの価格で販売開始したという。

 こうしてソラコムは、IoTデバイスのラストワンマイル(?)接続で、互いに競合する部分もある複数の技術に対応。「Transport Agnostic(トランスポート技術に依存しない)」なサービスになってきたと玉川氏は話している。

 これまでセルラー通信では同社が発行するSIMを使い、LoRaWANではIoTゲートウェイおよびデバイスをサービスバンドルして、同社が販売してきた。LoRaWANの場合、普及初期の技術であることから、通信端末をサービスと併せて提供することには意味がある。だが、Sigfoxでは同様のモデルは作りにくい。

 Sigfoxは同名企業がコントロールしている。端末の認定もSigfoxがやっている。従ってハードウェアとサービスを結び付けたビジネスモデルは作りにくい。遅かれ早かれ、「持ち込み」機器を認めざるを得なくなるのではないか。これについて玉川氏に聞くと、「LoRaWANでは機器のオープン化を進めてきた。同様にSigfoxでも、持ち込みが実現するようにしていきたい」と答えている。

●サービスでは「SORACOM Inventory」に注目

 ソラコムが2017年7月5日に発表した2つの新サービスのうち、ここで取り上げたいのは「SORACOM Inventory」だ。

 これは端末のライフサイクル管理を行うためのツールとして使えるサービス。端末にインストールするエージェントを通じて、各種のデバイス構成情報および状態情報を取得、これをSORACOM管理コンソールで確認し、一部についてはコンソール側からアクションができる。アクションとしては、ファームウェア更新、再起動、工場出荷状態への復帰などがある。ソラコムでは、C、Java、Androidのクライアントコードのサンプルを提供している。

 「Inventory」のベースとなっているのは、「Open Mobile Alliance(OMA)」という、主要携帯電話事業者などが参加する組織が策定した「LightweightM2M(LwM2M)」。OMAではIoT端末から取得する情報項目やプロトコルを定義、開発者向けのツールキットも提供している。

 「ソラコムのサービスは、これを利用するためのフレームワークとして機能する」(ソラコム プリンシパルソフトウェアエンジニアの片山暁雄氏)。ユーザー組織は、OMAが定義した100を超える情報項目から自由に取捨選択して、IoT端末から情報を送信、SORACOM管理コンソールではこれをパースして該当端末の詳細情報として表示する。操作が可能な項目については、操作ボタンを表示する。Inventoryでは、当然ながらIoTゲートウェイ配下にあるIoT端末を含めて、構成や状態を管理できる。

 筆者がこの機能に注目する理由はシンプルだ。IoTを構築したら、「Day 2」以降の運用作業が待ち構えている。センサーなどの生死を確認したいだけであれば、pingすればいいだろうが、より大きなIoTデバイスでは役割も機能も異なり、遠隔的な再起動やファームウェア・ソフトウェアの更新、その他のアクションが必要となる場面が増えてくる。バッテリー残量などの、電源状態を確認したい場合もあるだろう。こうした作業を容易にしてくれる機能を、IoTインフラ構築・運用サービスの一部として使えるのであれば、便利だと考えるユーザー組織は多いはずだ。

●ソラコムはアプリケーションレイヤーに手を伸ばすか

 多くの人にとっては意外かもしれないが、VMwareは特に欧州で、IoTビジネスを伸ばしている。同社のモバイルデバイス管理製品「VMware AirWatch」が決め手になっているとされる。AirWatchではファームウェア更新や新ソフトウェアの投入、コンテンツの送り込みなどが、機動的に行える。IoTで継続的デリバリーへの取り組みが進むとすれば、こうしたライフサイクル管理の仕組みが必須になることは容易に想像できる。

 ソラコムは現在のところ、インフラサービスの範囲で、IoTの展開を進めるにつれて課題となってくることに、次々に対応していこうとしている。では、アプリケーションレイヤーのサービスについてはどうだろうか。当面、力を入れることはないだろう。アプリケーションレイヤーではAWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformといったメガクラウドベンダーをはじめ、多くの企業が覇権を争っている。ソラコムは既に、これらのベンダーとパートナーシップを結び、IoTデータの分析をはじめとする高位レイヤーの制御を任せている。

 メガクラウドベンダーのIoTプラットフォームやアプリケーションレベルのIoT関連サービスを売りたいどんな人にとっても、インフラレベルの構築・運用を避けて通ることはできない。ソラコムがこの分野でユニークな価値を発揮できている限り、同社は拙速にアプリケーションレイヤーへ踏み込む必要はない。IoTプラットフォームを売りたいクラウドベンダーやそのパートナーが、ソリューションの一部としてSORACOMサービスを売ってくれる可能性が高いからだ。

最終更新:7/7(金) 8:25
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