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「無名」「ローエンド」だからと見下すな、中国チップセットベンダーの実力

7/7(金) 11:18配信

EE Times Japan

■実は採用が多い、“メジャーどころ”以外のチップセット

 LTEモデムとAndroid OSに対応したプロセッサを搭載するスマートフォンやタブレットは無数に販売されている。その多くはQualcommないしMediaTekのチップセットが活用されている。しかし、一部では専用チップセット/プラットフォームを用いる端末も存在する。

【『図2:中国Spreadtrum Communicationsのチップセット活用 』などその他の画像】

 Samsung Electronicsのスマートフォンには、Samsung自らが開発した専用プロセッサ「Exynos」を使用している。同様にHuaweiは上位機種にHuawei傘下の半導体メーカーHiSiliconのチップセット「Kirin」を用いている。これ以外にも、Appleの「iPhone」のように、アプリケーション・プロセッサだけ自社製とし、LTEなどの通信用モデムをQualcommやIntelから調達するという組み合わせも存在する。

 スマートフォンの成熟が語られる現在、多くのスマートフォン/タブレットのチップセットは上記メーカーによって「完全に支配されてしまった」と一般には認識されている。

 しかし実際には、上記以外のメーカーが作るチップセットを活用する製品も多々存在しているのだ。

 図1は、Huaweiが世界各地で販売する7型タブレット「MediaPad LTE」の外観および分解の様子である。

 MediaPadはOSにAndroidを用い、LTE通信のCat.4(カテゴリー4)機能を有する廉価版タブレットだ。高度なグラフィック能力こそ備えていないものの、Web閲覧やメールなどで使う分には十分な性能を持っている。販売価格は日本でも1万円台と、かなり安価だ。7型ディスプレイのスマートフォンよりも一回り大きなサイズであることから、使い勝手は良い。

 筐体の大きさを生かして4100mAhという大容量の電池を搭載し、Huaweiでは48時間の連続使用(動画の場合は連続12時間)が可能だとアナウンスしている。長時間利用を可能にするために、Huawei独自の省エネルギー技術が使われているという。

 図2は、MediaPad LTEを分解し、基板上の主要チップをピックアップした様子である(なおMediaPadには「MediaPad Pro」などさまざまなモデルが存在し、別モデルではQualcommのチップセットが使われる製品もある)

 図2の通り、Spreadtrum Communications(以下、Spreadtrum)のチップセットが使われている。あまりなじみのないメーカーのチップだと思われるかもしれないが、中国や東南アジア(インドネシアやタイ、ベトナムなど)では多くのスマートフォンなどに採用されている。

■“スーパーローエンド”を実現するSpreadtrum

 Spreadtrumは2010年に世界初の40nmプロセス技術を用いた3Gモデムを発売したことで、一躍業界で有名になったメーカーである。本社は中国上海にあり、ミドル仕様からスーパーローエンドまで、スマートフォン仕様の裾野の広がりを作るにはふさわしいチップを提供するメーカーだ。

 2014年にはFirefoxのOSを用いた25米ドルのスマートフォンがMozillaから発表され話題になった。その際に採用されたプラットフォームもSpreadtrumのエントリー向けチップセットだった。この時は、他が追従できない低価格チップセットプレーヤーとして大いに話題になり、注目を集めた。このようにSpreadtrumは“スーパーローエンド”を実現できるメーカーなのだ。

 Spreadrumのチップセットは、通信を行うRFトランシーバー、デジタルチップとしては、モデム機能のベースバンドと、AndroidなどのOSを動かしてアプリケーションを実行するプロセッサを一体化させている。また、プロセッサの電力を最適化し、電池寿命を最大化するための電源ICの他、Wi-Fi/Bluetooth/GNSS(全地球航法衛星システム)を1チップ化したコンボチップで構成されている。この点では他メーカーのチップセットとほぼ同等の構成になっている。

 図3は、Huawei MediaPad LTEで使われるSpreadtrumのチップ開封の様子である。実際には配線層があって中身が見えないので、配線層を剥いでいる。

 具体的な数字は掲載しないが、Spreadtrumのチップはどれをとっても競合チップよりも、二回りほど小さい。半導体チップの「一回り」は、各辺1mmほど小さいと捉えていただきたい。二回りとは、他のチップセットが8mm角であればSpreadtrumのチップは6mm角ということになる。

 つまり、8×8=64、6×6=36。おおよそ半分の面積だ。同じ価格のウエハーを使えば、ほぼ2倍の良品が採れることになる。ちなみにSpreadtrumの電源ICのチップサイズは7mm2にも満たない。同世代のQualcomm「Snapdragon 617」用の電源ICは21mm2を超えているので、Spreadtrumの電源ICの面積は、実に3分の1ということになる。

 機能の差は確かにあるだろう。しかしローエンド~ミドル市場向けとして、不要な機能を徹底的に取り払うと、同じ世代の、同様市場向けでも、チップ面積には上記のような差が生まれる。これが、ほぼそのままコストにつながっているわけだ。

■アナログ技術も世界トップクラス

 中国はARMなどの汎用IP(Intellectual Property)を使うことで「デジタルでは日米欧に追いついた」と、言われて久しい。しかしデジタルだけではなく、アナログも世界トップクラスの実力を持っている。RFトランシーバーや電源ICなど、チップのほぼ8割の領域がアナログ回路で構成されるチップも、中国では続々とチップセットの一部として開発され、販売されている。その出来栄えは、通信に支障を来すようなこともなく、電源制御も正常に行われていて、全く問題ない(筆者が代表を務めるテカナリエでは、今回報告したMediaPadを通常業務の一部に使っているが、現在までヘビーユースも含めて問題に遭遇していない!)。

 中国はデジタルだけでなくアナログも十分に開発し、スマートフォン市場を形成できるトップクラスだと判断して良いのではなかろうか。

 中国には、Spreadtrumのような、デジタル/アナログ混載のチップセットを供給できるプレーヤーが他にも数社ある。Huawei傘下のHiSilicon、Leadcoreなどだ。

■中国製チップだけで、チップセットを構成

 1社でチップセットを構成していないものの、中国チップだけでチップセットを構築する例もある。例えば、Allwinner(デジタル)+X-Powers(電源IC)+RDA(トランシーバー)といった具合だ。必ずしも1社だけでチップセットを構築する必要はなく、最適な組み合わせで、システムが作れることが重要だ。その点で、中国にはデジタルもアナログも多くのメーカーが存在するので、今後新たな「黄金の組み合わせ」も生まれてくるだろう。

 表1はSpreadtrumの過去製品の変遷である。日米欧は2G向け⇒3G向け⇒4G向けチップと、20年の歳月をかけて開発してきた。しかし、Spreadtrumは半分以下の時間で、トップに並んでいる。追う者の時間は短く、そして速い。機能、品質、製造、どれを取っても難しい仕事であるにもかかわらず、だ。

 しかし追う者は、機能で追い付くことによりスマホ市場での成功を遂げた。品質と製造は、機能よりも難しいという人がいる。果たして本当にそうなのだろうか。

 品質や製造が日本よりも劣るといわれる米国(筆者は全くそう思わない!!)が、半導体で日本を大きく引き離し始めている。中国は、品質や製造で劣るから、まだまだ大丈夫だという人もいる。本当にそうだろうか。

 機能こそが、半導体では最も重要なのではないだろうか。多少出来の悪いチップは、実装技術やソフトウェア技術でカバーできることもある。むしろそうした事例は多い。しかし機能の劣るチップは、その機能を果たせないのだから、使い物にならない。

 Spreadtrumは、各世代の製品で、最小機能をきちんと定義でき、その上で極限ともいえるローコストを実現してきた。ここに今の中国の本当の強さ、今後の脅威があるのではないだろうか。

 なお、Spreadtrumは2017年、ARMコアではなくIntelの「Atom」コアを使った新チップ「SC9861G」を発表している――。

最終更新:7/7(金) 11:18
EE Times Japan