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アフリカで広がる太陽光発電M-KOPA

7/7(金) 12:01配信

ニュースソクラ

【資本主義X民主主義4.0】第二部 供給は自らの需要を生み出すか(2)「三方よし」のビジネスモデルはどうして生まれたか

 [英イングランド南部ウィンチェスター発]イギリスでは1950年代まで石炭火力発電が発電量の90%以上、80年代まで70%以上(いずれも石油換算)を賄っていた。サッチャー政権下の炭鉱ストライキ(84~85年、下のグラフの急激な谷間)を経て、石炭の割合は現在30%を下回った。アメリカの大統領ドナルド・トランプが自分の支持層のご機嫌取りのため炭鉱夫を守ると叫んだところで時代の流れは変わらない。

 イギリスの旧植民地ケニアでは石炭や石油を使った火力発電の割合は2011年時点で全体の31%余。そのケニアをはじめタンザニア、ウガンダで「M-KOPA」と呼ばれる家庭用太陽光発電システムが急速に普及し、合計50万世帯に達した。仕掛け人の1人がロンドンから電車で1時間余の英イングランド南部ウィンチェスターにいると聞いて、事務所を訪ねた。

 入り口のインターホンに「M-KOPA」という小さな名札があるだけで、とても10億ドル(約1110億円)ビジネスを目指す会社の事務所には見えない。「M-KOPA」のMは「Mobile(携帯電話)」の頭文字、KOPAはスワヒリ語で「お金を借りる」という意味だ。同社は起業からわずか6年でケニアを中心に東アフリカで1000人のフルタイム従業員を雇用し、1500人の販売代理店を展開するまでに成長した。

 共同創業者の1人で製品開発責任者ニック・ヒューズ(50)はもともとイギリスに本社を置く携帯電話事業会社ボーダフォンで途上国での製品・サービス開発を任されていた。ボーダフォンの仕事として2007年に携帯電話マネー「M-PESA」を立ち上げたあと、独立して11年に他の2人と一緒に「M-KOPA」を正式にスタートさせた。ニックは目を輝かせながら、途上ビジネスのツボをテンポよく説明してくれた。

 「これが20ワットのソーラー(太陽光発電)パネル。LED電球3個とLED懐中電灯1個、5ポートUSB携帯電話充電器、ラジオ、充電バッテリー入りのコントロールボックスの基本セットで200ドル(約2万2200円)」

 「ケニアは地域によって天候が大きく異なるが、太陽が雲に隠れてもバッテリーに充電されているので5時間は大丈夫だよ。16インチのLEDデジタルTVがつくと150ドル(約1万6650円)高くなる。今、50リットル入る小型冷蔵庫も試験中なんだ。将来は牛乳や食料を冷蔵庫で保存できるようになる」

 基本セットなら30ドル(3330円)を保証金として前納し、1日50セント(約56円)を400日間払い続ける仕組み。代金は携帯電話の通話料残高から自動的に引き落とされる。もし途中で残高がなくなったらバッテリーが停止して太陽光発電された電気を使用できなくなるが、セットを送り返せば保証金は返している。TV付きセットは2年間の保証付きで、バッテリーの耐用年数は4~5年だ。

 事務所の一室にテレビのモニターや電気コード、プリント基板がガラクタのように積み上げられている。ニックは冷蔵庫に使う小型のコンプレッサーを無造作につかみ上げた。まるで技術家庭科の工作室だ。第2世代移動通信システム(2G)のGSMから発電量や電気の使用量などのデータがナイロビの本社に送信されてくる。入金が途絶えると電気を止めるシグナルもGSMを通じてやり取りされる。

 しかし高額なセットを貧しいアフリカの人々にローンで売りつけて、あこぎな金儲けをしているという辛辣な批判も聞こえてくる。

 「利用者が途中で嫌になれば、いつでも打ち切れるし、この仕組みでは利用者も得をするんだ。M-KOPAの顧客の80%は1日2ドル未満(世界銀行の国際貧困ラインは1日1.9ドル)で暮らしている。我々のターゲットは1日10ドル以上で暮らしている世帯だが、大体、1世帯で働いている人が5人いて10ドル以上になる」

 「M-KOPAのない世帯は1年の間に、電灯代わりのケロシン(灯油)に164ドル、携帯電話をショップで充電するのに36ドル、バッテリーに72ドルの計272ドル(約3万円)を消費している。テレビ付きセットを入手するのに350ドル使っても4年間で700ドル(約7万7700円)以上の節約になる。そればかりか顧客の30%は自分の家で太陽光発電した電気を近所の人たちに売っているんだ。携帯電話の充電用にね」

 アフリカの低所得者たちもお金を節約できれば、M-KOPAも儲かる。売り上げはまだ目標の10億ドルに届かないが、これまで総額1億750万ドル(約120億円)。10億ドルというのは実はケニアの人々が年間に消費するケロシンの金額と同じだ。

 ケロシンの煙は目を焦がし、ノドを痛める。天井や壁は煤で真っ黒になる。ケロシンの代わりに太陽光発電がアフリカに普及すれば地球温暖化対策も進む。M-KOPAは売り手良し、買い手良し、環境(世間)に良しという「三方良し」のビジネスだ。

 「商業的に持続可能なモデルだよ。3人の勝者がいるこんなモデルを見つけることはなかなかできない」

 ソニーやパナソニックのような日本の電機メーカーならM-KOPAのキットぐらい、いとも簡単につくれるだろう。しかし同じようなスピードとスケールでビジネス展開する姿を想像するのは難しい。なぜなのか、ニックに疑問をぶつけてみた。(敬称略、つづく)

■木村 正人(在英・国際ジャーナリスト)
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

最終更新:7/7(金) 12:01
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