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がん患者を惑わす「甘い言葉」とは? インチキ医療で命を落とす前にできること

7/7(金) 15:09配信

BuzzFeed Japan

「がん」による著名人の訃報が続く中、科学的根拠のない悪質な「インチキ医療」の危険性が取りざたされている。大きな病に直面しても、納得のいく選択をするために、私たちにできることとは--。自身もがんサバイバーで報道記者の鈴木美穂さんと、腫瘍内科医の勝俣範之さん、医療政策学者の津川友介さんらの鼎談から考える。【BuzzFeed Japan / 朽木誠一郎】

患者の心の隙につけ込む誘惑。しかし、医療にだって「うまい話」は存在しない。

鈴木:私は9年前、2008年に乳がんになりました。こう言うと「がんになって9年経ってそんなに元気で、何か特別な治療をしたんですか?」と聞かれることがあります。でも、私は特別なことはしていません。ガイドラインに沿ったもの、「標準治療」と呼ばれるものを受けただけで。

いろいろな人と話して思うのは、有名だったり、お金があったりすればするほど、標準じゃないものを選んでしまいがちなのではないか、ということです。標準じゃなくて、特別なことができると思うからでしょうか。私自身、標準治療を受ける過程で、さまざまな誘惑がありました。

勝俣:誘惑とは、どのようなものですか?

鈴木:例えば、突然あまりよく知らない人から連絡が来たり、イベントに行ったときに話しかけられたりして。

「あなたがやっている抗がん剤治療は毒だから、一刻も早くやめた方がいい」とか「それは標準なんだけど、お金さえあればもっと簡単に治療できるんだよ」とか、そんなことを言われました。

勝俣:標準治療という言葉の意味が、まだ定着していない印象があります。もともと英語では「スタンダートセラピー」ですが、日本だと「標準=並みの」という聞こえになってしまう。しかし、これは「最善の治療」という意味なんですよ。

鈴木:その通りですね。「私は記者で、納得がいくまで調べて精査した上で、この治療を選んだ」とわかっていても、そのときは心が揺れました。やっぱり当時、抗がん剤治療は辛くて、これをやらないで済むのであれば、やってみたいと思ったことは何度もあります。結局はやらなかったのですが。

津川:やらなかった理由というのは、どのような?

鈴木:私の場合は、積極的に医師の意見を聞きに行き、知識を収集したからだと思います。自分の病気について、主治医以外の他の医師に意見を聞くことを「セカンドオピニオン」といいますが、私は2回ではなく7回、つまり「セブンスオピニオン」まで聞きに行ったんです。

何人もの医師に相談して、病気についての知識を身に着けていく間に、少しずつ自分にとって何を選ぶのがベストなのかが見えてきました。今振り返ってみると、選ばなかった治療には、「こっちを選んでいたら、今、私はここにいないだろうな」と思うものもあります。

勝俣:医師の中にも、例えば、未だに「抗がん剤は悪だ」というような、不勉強な方がいますからね。

鈴木:がん患者さんの相談に乗っていると、少なからず起きるのが、標準治療ではない治療を受けた方が、「私は間違った治療を選んでしまった」と納得できないまま亡くなること。それは本当に悲しいと思っていて。

生きていれば人はいつか必ず死んでしまいます。でも、たとえがんになっても、自分の選択に納得して最後まで自分らしく生きて亡くなるのと、「失敗した」と後悔しながら亡くなるのとでは、心の穏やかさがまったく違います。残されるご家族もそうです。

津川:人の命を扱う以上、「絶対」というものがない医療の中で、それなりに質がコントロールされているのが標準治療です。誤解を恐れずに言えば、うまい話はない。勉強や運動などもそうだと思いますが、「特別なことをやれば他の人より何倍もいい結果が得られる」なんてことは、医療に限らずあり得ません。

真実とは、地道な努力をコツコツと積み重ねた先にあるものなんです。医療についていえば、それが標準治療ということになります。だから「あまりうまい話を探そうとしない」というのは、心がけてほしいですね。そうしないと、そこにつけ込まれて、治るべき人が治らない、命が短くなってしまうことがあるので。

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最終更新:7/7(金) 15:09
BuzzFeed Japan