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「いいかげんにしてくれ」校舎に迫る濁流 小学校孤立、恐怖の一夜 福岡県朝倉市・記者ルポ

7/7(金) 7:08配信

西日本新聞

 暗闇の中、校舎に迫る濁流の音が不気味に響いた-。5日からの記録的な豪雨で周囲の川が氾濫し、翌朝まで孤立状態になった福岡県朝倉市杷木星丸の松末(ますえ)小。記者は子どもやお年寄りを含む約50人の住民とともに校舎の3階に避難し、一夜を過ごした。一帯は停電し、食料はほとんどない。互いに励まし合いながら、じっと救助を待った。

【動画】もの凄い勢いで濁流が道路に流れ込む様子(JA田川彦山出張所付近)

 「杷木の赤谷川が一部氾濫したようだ」。5日午後2時前、到着した市防災交通課でそう告げられた。車に乗り込み、川の近くにある自治組織「松末地域コミュニティ協議会」の事務所に向かう。事務所では伊藤睦人会長ら職員が、携帯電話で集落の住民に「大丈夫か」と連絡していた。車が立ち往生しているという赤谷川近くへ向かったが、朝倉署員が「これ以上は危ない」と通行止めに。事務所に戻ると、いつしか一帯は停電していた。

 その後、バケツをひっくり返したような雨が降り、署員が「ここも危ない。近くの松末小に避難しましょう」と提案。高齢者を署員が背負いながら先導する。その写真を撮っていると、膝下まで濁った水が流れ込み、やっとの思いで児童や住民らが避難している松末小に着いた。

校舎に迫る濁流や「ゴゴー」と近くの山が崩れる音が響く

 校舎3階から運動場を眺めると、赤谷川と近くの乙石川が氾濫。30分もしないうちに、記者が歩いてきた道は跡形もなくなった。気付けば校舎の周囲に濁流が流れ込み、完全に孤立。食べ物はほとんどない。午後8時半ごろ、懐中電灯で照らした黒板に、現状把握のため、教諭が避難者の名前を書き出した。4人の署員を合わせて約50人。「この50人は仲間。助けが来るまで頑張ろう」。署員の声に励まされた。

 夜が更けるにつれ、子どもや高齢者は横になったが、多くの大人は窓の外を眺め、雨がやむのを祈った。暗闇の中、猛烈な雨は降り続き、校舎に迫る濁流や「ゴゴー」と近くの山が崩れる音が響く。「いいかげんにしてくれ」。男性の叫びを聞きながら、学校が倒壊するのではないかと本気で思った。

 午後9時半ごろ、雨が弱くなると、あちこちから「助かった」の声。午前0時には、ほとんどの人が横になったが、全く眠れない。隣の教室からは「怖い」と園児の泣き声が響いた。

 一夜明けた6日。小学校近くの山崩れや濁流に呑み込まれた民家に絶句した。「自衛隊が救助に向かっているが、土砂が道をふさぎ、小学校まで着かない」。市災害対策本部からの連絡に、みな声を失った。

 最終的には伊藤会長らの判断で、約50人は、安全な杷木中に向かうバスが待つ場所まで歩いた。

 原稿を確認するため住民らと別れ、数時間後、伊藤会長に電話した。「全員元気だけど、まだ不明者がいる。今後、大変だけど、お互いに頑張ろう」。疲れ切った声だが決意を感じた。

=2017/07/07付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞社

最終更新:7/7(金) 9:45
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