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40歳を超えても、イチローと上原がメジャーで活躍できるワケ

7/8(土) 9:31配信

ITmedia ビジネスオンライン

 この2人の日本人メジャーリーガーには心の底から最敬礼したい。マイアミ・マーリンズのイチロー外野手とシカゴ・カブスの上原浩治投手に対してだ。

【上原投手はセットアッパーとして活躍】

 イチローは2017年10月で44歳を迎え、上原も今年4月の開幕時に42歳となった。40歳を超えても、なお一流メジャーリーガーとしてプレーできる2人の精神的な強さはどこにあるのだろうか。

 まずイチローだ。6日(現地時間)のセントルイス・カージナルス戦で先発出場し、マルチ安打をマーク。この日でメジャー通算3054安打とし、歴代24位のロッド・カルー氏の記録を抜いた。それまで米国出身以外の選手としてメジャー史上1位の通算安打数記録も持っていたパナマ出身のカルー氏を抜き、ついに日本が誇るレジェンドが単独で史上1位に躍り出た。またメジャーリーグの球史にその名を刻むことになったのだ。

 ただ今季はそれまでなかなか波に乗れず、打率も2割台に乗せるのがやっとの状態が続いていた。代打や守備固めなどで途中出場する機会が多く、その少ない打席数で結果を出すことはイチローのような天才プレーヤーとて容易ではないだろう。それでもドン・マッティングリー監督はイチローをこう評している。

 「ベンチにいても、すべてが素晴らしい。いつどんな時に出場機会が訪れてもいいように最善の準備を整えている。そして出場すれば抜群の身体能力を発揮して全力でプレーする。とても40歳を過ぎているとは思えない。若い選手にとっても手本となる彼の存在そのものが、チーム全体の大きな財産になる」

 今年で44歳を迎えるイチローにかつての全盛期のようなレベルのプレーを見せることは残念ながら難しい。迫り来る身体的な衰えに、向かい合っていかなければいけない。しかしすさまじい努力によって衰えを食い止め、これまで築き上げて蓄積してきた経験値によってカバーすることは可能かもしれない。イチローは今、そういう難しい状況に置かれながらもグラウンドで結果を出そうと毎日懸命に奮闘し続けている。

●我々はイチローを必要としている

 2年前のことだ。マーリンズに移籍後、初めてのスプリングトレーニング(春季キャンプ)では中盤に入ってから巨大な専用コンテナを球団側の許可を得て敷地内に設置。鳥取市のトレーニング研究施設「ワールドウィング」の代表を務める小山裕史氏が開発した初動負荷トレーニングマシンをコンテナの中に置き、そこを専用トレーニングルームに。キャンプのメニューを終えた後は、そこで1人黙々と汗を流していた。その当時のイチローは41歳。もちろんこの時でもチーム最年長だ。

 ベテラン選手ならば特権を生かして、通常メニューどころか自分のペースで練習を切り上げ、宿舎に引き上げても不思議ではない。しかしイチローは違った。新天地でも飽くなき努力を貫き、人一倍に体を研ぎ澄ませようとするレジェンドにマーリンズの若い選手たちが驚きながらも尊敬の眼差しを向けていたことが思い起こされる。

 今季でメジャー17年目。日本のオリックス・ブルーウェーブ在籍時代から通算すれば実に26年目だ。なぜ、まだイチローはグラウンドに立ち続けているのか。かつて同時期にメジャーでプレーしていた1つ年下の松井秀喜氏は5年前に引退した。一方のイチローは衰えが見られても、まだ随所で健在ぶりを見せ付けながらメジャーリーガーとして活躍している。マッティングリー監督は「これは個人的な見解だが」と前置きし、こう続けた。

 「イチローが年齢を重ねても現役生活を続けているのは、おそらく非常にシンプルな理由だろう。我々がイチローを必要としているからだ。そして、その要求に彼はしっかりと全力で応えようとしてくれる。それを今も可能にしてしまう彼こそ真のプロフェッショナルプレーヤーだ。この図式がある限り、イチローは今後も現役を続けていくと思う」

 必要とされているチームのために、そこで全力を尽くす。確かに至って単純なことかもしれないが、それを加齢にも屈することなくこなそうとするところがイチローのすごさなのだろう。

 加えて言うならば、これだけ数々の大偉業を成し遂げながら今もなおモチベーションを保ち続け“燃え尽き症候群”にならない点も常人とは違うところだ。

 そんなイチローに「晩節を汚さないためにも辞めたほうがいい」と提言する記事をネット上で目にした。いろいろな意見があるのは当然だと思うが、この論調には個人的に共感できない。マッティングリー監督は決してリップサービスではなくイチローのプレーを今も高く評価しているし、クリスチャン・イエリッチ外野手やディー・ゴードン内野手らレギュラークラスの若いチームメートたちも「レジェンド=イチロー」として常にその背中を追い続けている。

 もしかするとイチローは自分のプレースタイルや姿勢から若い選手たちに何かを感じ取ってもらい、教えを請いたいと希望するプレーヤーに対しては自らの遺伝子を植え付けようとしているのかもしれない。それを現在も現役を続ける上でのモチベーションとしているならば、とても素晴らしいことだと思う。

●上原を取材するメディアは少ない

 そして上原だ。今季でメジャー9年目。巨人時代を含めれば現役生活19年目になる。今季からプレーするカブスは自身にとってメジャー4球団目となった。

 上原は言うまでもなく元巨人の大エースだが、今となってはかつてYGユニホームを着ていたことが信じられないくらいにメジャーリーガーとしての印象のほうが明らかに強くなった。ボストン・レッドソックスでは2013年にクローザーとしてチームをワールドシリーズ制覇へ導き、栄光のチャンピオンリングも手にしている。

 あれから4年後の今。42歳を迎えても上原は前年世界一のカブスから年俸600万ドル(約6億8000万円)のオファーを受け、セットアッパーとして活躍を続けている。

 160キロ台を普通に投げる速球派投手が主流のメジャーにおいて上原は130キロ台後半のフォーシーム(直球)でも面白いように打者を手玉に取る。捕手の構えたミットに寸分の狂いもなく投げ込む抜群の制球力を誇ることに加え、対戦した多くの打者が球の出どころを判別し辛いと嘆く独特なフォームが生命線だ。

 これらの武器をしっかりと維持し続け、マウンドでは終盤の厳しい場面に直面しても表情ひとつ変えずにメジャーの強打者たちを精密機械のごとくキッチリと抑える姿には本当に敬服する。

 人の見えないところで今も自分を追い込み、コンディションをしっかりと整え続けているのだろう。そうでなければあのような素晴らしい活躍はできない。

 そして何より、上原を賞賛したいのはここまでの輝かしい経歴もさることながら40歳を過ぎても異国の地でスポットライトが浴びにくいながら黙々と結果を出し続けている点だ。カブスは間違いなくメジャーリーグの中でもトップクラスのチームだが、ここに在籍していても上原を取材する日本人メディアの数は決して多くはない。

●イチローと上原が教えてくれること

 なぜ上原を取材する日本のメディアは少ないのか。ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手やテキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手、ロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手、現在は故障離脱中のシアトル・マリナーズの岩隈久志ら先発投手と違って、日々投げる可能性があるリリーフの上原にはどうしてもピンポイント取材が難しい事情があるからだ。日本のメディア各社も昨今の経費削減の煽(あお)りを受け、米国にわざわざ人を派遣して専属でチーム同行取材をさせることが困難になっている理由もある。

 そして多くの日本メディアには残念ながらまだまだ「中継ぎ」よりも「先発」のほうが注目されるという古い考え方も残っているようだ。

 いずれにせよ、そういう日本メディアがなかなか取材に訪れないような状況下においても上原は自分を見失うことなく、黙々と仕事をこなしている。注目されないのであれば、他の日本人先発投手以上にがんばって活躍して見返してやるのみ――。きっと上原の心中はそんな感じであろう。巨人時代からずっとポリシーとしている「雑草魂」は42歳の現在も心中に抱き続けているからだ。

 上原が基本的に他の日本人メジャーリーガーの「ついで」として取材に来られることを極端に嫌うのは、そんな雑草魂に基く負けず嫌いの気持ちがあるからに違いない。オッサンになったって、どんなヤツにも負ける気はしない。もしこれだけがんばっても注目されないのならば、さらにがんばってそういうヤツらをギャフンと言わせてやる――。

 42歳のすご過ぎるオジサンのプレーを見ていると、彼の内面からそんな心の叫びが伝わってくるような気がしてならない。そして巨人時代に「雑草魂」をベースにしながら不屈のエースとして君臨していた若いころのようにこれだけ年齢を重ねても、いい意味で変わらずギラギラしていることに気付かされる。いやはや、うらやましい限りだ。

 今年で44歳を迎えるイチロー、そして42歳の上原。2人の「OVER40」がグラウンドで奮闘している姿から我々も教えられることはさまざまな観点で多いのではないだろうか。

(臼北信行)