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グラウンド整備おじさんが語った「夢」 毎朝、黙々とトンボ、その経歴は…「もっと投げたかったなぁ」

7/12(水) 7:00配信

withnews

 午前7時前。大阪市内のあるグラウンドで、ランニング姿のおじさんが1人、丁寧に整備しています。土を運んできて埋め、しっかり体重をかけて固めます。そのあと、マウンドを中心に円を描くようにトンボをかけます。できあがるのは、まるでミステリーサークル。最後に水もたっぷりまきます。市の管理人さんですか? いえいえ、違います。この人は……。(朝日新聞記者・大西英正)

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「いったい、何者なんだ?」

 そのおじさんを見たのは2017年6月下旬のことでした。

 近くを歩いていると、黙々とトンボをかけている姿が目にとまりました。

 整備の技術が、素人目に見ても手慣れた高いレベルでした。

 市の職員のようには見えず、「あの『グラウンド整備おじさん』はいったい、何者なんだ?」と興味が膨らみました。

 そして、高校野球シーズンが到来した今月、取材をすることに。すると、意外な過去が明らかになりました。

「グラウンドがボコボコでね、泣いているように見えたんや」

 「グラウンド整備おじさん」は、大阪市に住む大川孝さん。66歳の元高校球児です。このグラウンドのすぐ近くに自宅があります。昨年の3月、47年勤めた会社を退職しました。

 「それまでは気にとめへんかったけど、グラウンドがボコボコでね、泣いているように見えたんや」

 7時にはグラウンドに来て、整備をするようになりました。水をまくのは当初、家から持ってきた2リットルの空のペットボトルを使っていました。

 グラウンド隅の蛇口で水を入れて、両手に持って何度も往復しました。すると、いつの間にか蛇口に長いホースがついていました。「市の職員の人が付けてくれたんかな。応援してくれてるんかな」

「ショックすぎて、何イニング投げたのか覚えてへん」

 大川さんは大阪市立泉尾工業の野球部で、エースで4番。前評判の高いチームでした。第50回の選手権大阪大会。初戦で興国と対戦しました。

 先発しましたが、「打たれまくったな。ショックすぎて、何イニング投げたのか、スコアがなんぼかも覚えてへん」。

 当時の朝日新聞をめくってみました。1968年7月24日、藤井寺球場であった第3試合。泉尾工は0-9で興国に敗れています。

 記事には「予想外だった泉尾工の大敗――。大川の得意のシュートが切れなかった」と書いてあります。記録によると、大川さんは4イニング3分の2を投げて、被安打9。相手の興国はこの年、大阪大会で優勝、そのまま全国制覇しました。

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最終更新:7/12(水) 9:59
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