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「営業」の仕事はAIでどう変わるのか

7/10(月) 11:40配信

ITmedia ビジネスオンライン

 AI(人工知能)時代に、企業から必要とされるセールスパーソンとは?――。

 AIによって人の仕事が奪われるという話を、一度や二度は耳にしている人も多いだろう。AIがカバーする領域は広く、当然のことながら営業職も大きく変わることになる。

【AIのアドバイスを受け入れるよう実際に指導するのは人間の役割】

 詳しくは後述するが、AIの普及は業務のコアな部分、本質的な部分をより先鋭化する作用がある。AIによる影響を知るためには、営業の本質がいったいどのようなものなのか、理解するのが早道である。

●「営業」は業務のパターン化が比較的容易

 最近ではかなり減ってはきたものの、営業は「根性でやるもの」というイメージを持っている人が多い。口八丁、手八丁で相手を口説き落とし、商品をゴリ押しするタイプのセールスパーソンが一定数いるのは事実だが、本当に高い業績を上げるのはこうしたタイプではない。

 営業は数ある職種の中でも、業務のパターン化が比較的容易な部類に入り、科学的分析との親和性が高い。逆にいえば、成績を上げるためにしっかりとした手法を身に付ければ、誰でも一定の成果を上げることが可能となる。

 例えば、初回訪問から成約に至るまでの回数と成約率に密接な関係があることはよく知られている。また成績のよいセールスパーソンが稼ぐ利益のうち何%がリピートによってもたらされているのかも、かなりの部分まで定量化されている。一連のデータをうまく駆使すれば、営業成績を向上させることはそれほど難しいことではないのだ。

 優秀なセールスパーソンというのは、こうした情報分析を自然に行い、自身の営業活動を常に最適化している。重要なタイミングでしっかりと商品を提案できるので、無駄な動きが少なくなり、結果的に高い営業成績につながってくる。営業現場にAIが導入されると、AIが前述したような分析をするようになり、多くのセールスパーソンはAIのアドバイスに従って行動するようになる。

●AI導入の第一段階は全員にメリットがある

 営業現場へのAIの普及は、おそらく2つの段階を経て進むことになると考えられる。まず第1段階では、AIが営業チームの動きを学習し、営業チームの底上げを行う。

 AI技術の本質は深層学習(ディープラーニング)。例えば囲碁や将棋でプロを負かすAIは、誰かに勝ち方を教えられたわけではない。数多くの対局を見てAIが学習し、自ら勝つ方法を編み出している。これは営業の分野でも同じ結果になる可能性が高い。

 営業支援システムの中にAIが入った場合、AIは社内のセールスパーソンたちの活動をつぶさに学習するだろう。どのような頻度で顧客を訪問しているのか、どのような文面のメールを送っているのかといったところまで学習するようになるはずだ。

 学習を通じてAIは、セールスパーソンがどう行動すれば高い成績を上げられるのか体系化していき、それぞれのセールスパーソンにアドバイスするようになる。

 例えば、成績の振るわないセールスパーソンに対しては「この顧客は成約確率が低い。にも関わらず訪問回数が多すぎます。訪問頻度を減らし、その分、新規開拓を行った方がよいでしょう」「このメールの文面は不適切なので、書き直しが必要です」などのアドバイスが与えられることになる。

 一般論として、成績のよいセールスパーソンは放っておいてもよい成績を上げるのであまり手間をかける必要はない。平均レベルのセールスパーソンの成績をどう向上させるのかでチームの営業成績は決まってくる。AIはこの部分を底上げできるので、企業としてはコストをかけても積極的に導入するメリットが存在するわけだ。

 AIが導入された営業チームは、できるセールスパーソンの行動をAIが学習・分析することによって、セールスパーソンごとの能力差が縮小していく可能性が高い。

●できるセールスパーソンの定義が変わる

 第1段階で問題となってくるのが、セールスパーソンの業績評価である。これまでは単純に営業成績のみで評価が決まっていたが、AIが導入されると結果的にセールスパーソンごとの差が縮まってくる。AI時代には、営業成績そのものに加え、AIの学習に対してどれだけ貢献できたのか(どれだけAIに有効な学習データを提供できたか)が重要な評価指標となってくるだろう。

 その意味では、セールスパーソンの定義についても少々見直しが必要かもしれない。これまでは、生まれ持った才能によって高い営業成績を出していた人も、論理的に工夫を重ねることで成績を向上させた人も同じ評価であった。しかし、今後はこのあたりにも変化の波が押し寄せる可能性が高い。

 AI時代には、感覚で数字を稼ぐ天才肌のセールスパーソンよりも、自身の成績について論理的に理解し、かつ、それを人に説明できるセールスパーソンの方が評価が高くなるだろう。なぜなら、AIの学習結果をもとにAIがセールスパーソンを指導するといっても、機械にはやはり限界があるからである。

 成績が振るわないセールスパーソンに対し、モチベーションを高めさせながらAIのアドバイスを受け入れるよう実際に指導するのは人間の役割になる。こうした仕事ができる人でなければ、AI時代において高い評価を得るのは難しくなるはずだ。

 第1段階までは全員にメリットがあるので、AIの普及は良いことずくめかもしれない。だが、AIの普及が第2段階に入ると、状況は大きく転換する可能性が高い。いよいよ人員削減という話が本格化し始めるからである。

●営業に関連する事務作業が自動化されると……

 AIのレベルが高度化してくると、AIの仕事はチームの状況分析にとどまらず、営業メールや提案資料、見積書の作成といった、営業に関連する事務作業の一部をAIが直接代替するようになってくる。

 これは営業に限った話ではないが、ビジネスにおける業務は、その業務になくてはならないコア業務と、事務作業の2種類で構成されている。全体の中で事務作業の占める割合は高く、場合によっては7割以上を占めることになる。営業の場合のコアな業務は、顧客ニーズをうまく探り出し、適切なタイミングで商品の提案を行うことだ。

 実際は、コア業務と事務作業は互いに関連しているので、完全に分離することは難しい。コア業務で高い成績を上げられる人は、事務作業のレベルも高いことが多く、コア業務がずさんな人は、事務作業もやはりずさんである。だが営業の本質は、事務ではなく、あくまで顧客ニーズの把握や提案力にあることは言うまでもない。

 一方、営業業務を一定のボリュームで成り立たせるためには、優秀なセールスパーソンばかりではとても数が足りない。そのためこれまでの職場では、セールスパーソンとしてはそれほど優秀ではなくても、ある程度事務作業ができる人であれば採用してきた。AI普及の第2段階では、「提案資料作成が得意」「ビジネスメールの作成が早い」といった事務的スキルは今後ますます陳腐化していくため、この前提条件が崩れてしまうことになる。

 営業に付随する多くの事務作業をAIが代替するようになると、営業に関するコアな部分で高い能力を発揮する少数のセールスパーソンと、彼らをサポートするアシスタントがいれば営業チームは回ってしまう。能力に差のある5人のセールスパーソンを抱えるよりも、有能な2人のセールスパーソンがAIを駆使して営業を行い、これを1人のアシスタントが事務作業をサポートする方が、圧倒的に高い営業成績を残せるはずだ。

 しばしば「AIの導入によって仕事の50%が失われる」といった話を耳にするが、仕事そのものが消滅してしまうわけではない。現実には、特定の人に業務が集中し、当該業務に従事する人数が半分になってしまうと考えた方がよいだろう。要するにできる人にだけ仕事が集中するのだ。セールスパーソンとしての企業内競争は厳しくならざるを得ないだろう。

 では、こうした本格的なAI時代の到来を前にセールスパーソンはどのように対処すればよいだろうか。

●セールスパーソンに残された道

 このような状況において、今後もセールスパーソンとして仕事を続けていくためには、2つの選択肢しかないと筆者は考えている。1つは、前述したように成績トップクラスの優秀なセールスパーソンとしてチームに残ること。もう1つは、新しい顧客の開拓ができるセールスパーソンになることだ。

 AIの導入で営業チームの生産性が向上すれば、少ない人数で同じ売上高を確保することが可能となる。だが企業は、余剰となった人員をすぐに放出するのかというと、そうではない。

 企業は常に利益成長を求められており、10人の仕事が5人でこなせるようになれば、余剰人員のうち3人くらいは新規開拓に回す可能性が高いからだ。

 新規開拓にはさまざまなパターンがある。同じ商材を異なる市場で販売する市場開拓、同じ顧客層に異なる商品を販売する商品開発、さらには全く新規の顧客層に、新規の商材を売り込む多角化だ。

 こうした業務については、当面、AI化の対象にはならないので、多くのマンパワーを必要とする。新規開拓を得意とするセールスパーソンであれば、引き続き、組織から必要とされる人材であり続けるだろう。


(加谷珪一)