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家で電波が届かない?じゃあメッシュを試してみれば? 3台の端末で通信エリアをカバーするTP-Link「Deco M5」

7/10(月) 6:00配信

Impress Watch

 いよいよ日本にもメッシュの波が到来しようとしている。TP-Linkから登場した「Deco M5」は、複数の機器(標準では3台)をメッシュ状に組み合わせることで、Wi-Fiの通信エリアを拡大する製品だ。その実力を検証してみた。

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■失望と感動

 誤解を恐れずに言うと、個人的なDeco M5の満足度は70%といったところだ。

 感動的な手軽さと通信エリアの広さは、人から無線LAN機器購入に対するアドバイスを求められたら、選択肢のひとつとして挙げるほどだが、どうにも筆者の心の中にある「マニア心」をくすぐらない。

 その理由は明快で、余計な設定がほとんどできないから。

 本体のIPアドレス(LAN側)も変更できなければ、DHCPサーバーの設定も許されない。それどころかPCからのセットアップも現時点ではサポートされない。

 無駄に設定が多いのも困りものだが、せめて上記の設定くらいはできてくれないと、プリンターとかカメラとかNASとかスイッチとか、固定IPで設定している機器が存在する筆者宅のような環境では、本番環境に投入するために無駄な労力が必要になってしまう。

 もちろん、そんな手間を気にしないほどの実力を備えていれば話は別だが、どうも日本の住宅事情ではメッシュの実力を活かせる環境が限られる可能性もある。というわけで、Amazon.co.jpで予約してまで購入してはみたものの、どうしても今使っている4ストリーム11acのメイン機と入れ替えようという気になれない。

 とは言え、そんなことは単なる筆者のわがままで、一般的に見れば、本製品は今までの無線LANとはひと味もふた味も違う画期的な製品であるは確かだ。海外では、eeroやLuma、Google Wifi、Linksys Velop、Netgear Orbiなど、「メッシュ」がひとつのトレンドとなっているが、その波が日本にも到来しそうな雰囲気を感じさせる製品となっている。

■独自のメッシュ技術で、通信エリアを広く……

 「メッシュ」というと日本ではあまり馴染みがないが、簡単に説明すると複数端末を相互に接続し、自律的なネットワークを構成することができる無線LAN機器だ。

 製品としても、すでに販売されていおり、ネットギアの「Orbi」(標準2台セットで実売4万4000円前後。詳細はこちらを参照)が、これに相当する。

 今回、TP-Linkから登場した「Deco M5」は、標準で3台の端末をセットにした本格的なメッシュWi-Fiシステムだ。

 便宜的に、3台セットの端末をそれぞれA、B、Cとすると、AがBとC、BはAとC、CはAとBというように、それぞれが相互に無線のリンクを確立することで、三角形を構成するように接続することになる。

 これにより、経路の最適化とトラブル時の対応が可能になる。例えば、ルーターの役割を持つ端末をA(MPP:Mesh Portal Point)、中継する端末(MP:Mesh Point)としたとき、AとBの中間くらいの位置にクライアントXがあったとして、Xが通信するために「X→B→A」という経路と「X→A」という経路が考えられたとする。

 この際、経路のコストを、各端末間の通信品質(電波状況やリンクしている速度)から自動的に計算し、Xが最も高速にAと通信できる経路を選択できるのがメッシュの特徴となる。

 この構成は故障時にも効果を発揮する。例えば、先の例で「X→B→A」という経路が選ばれた場合に、仮にBが故障して通信できなくなったとしても、「X→A」の直接ルートや「X→C→A」の迂回ルートを自動的に構成することも可能となっている。

 まあ、簡単に言えば、いろいろな道順を設けた上で、どれが最短かを計算したり、道路工事中に迂回できるようにするようなものだと思えばいい。

 このようなメッシュに対応したDeco M5だが、現状は、正直よく分からないことも多い。実際、Deco M5は、同社が開発した独自の新技術「ART(Adaptive Routing Tchnology)」を採用しているとのことで、具体的にどのような条件で経路を選択するのかは不明な上、他社製メッシュ製品との相互接続性なども担保されない。

 相互接続などは今後の課題と言えそうだ。

 ちなみに、メッシュに関する一般的なことやDecoの個別の特徴などを、本文で逐一説明していると長くなるので、よくありそうな疑問は別項としてまとめることにした。参考にしてほしい。

□疑問1:規格はどうなっているのか?

 メッシュネットワークの規格は、2004年以降にIEEE 802.11sタスクグループとして検討が重ねられてきたが、IEEE 802.11 Standard 2012に含まれるようになり、IEEE 802.11 Standard 2016内でも「Mesh STA role」などのように、一般的な定義の中に含まれている。

□疑問2:無線LAN中継機と何が違うのか?

 無線LAN中継機も、複数端末で通信を中継する点では同じだが、自律的なネットワークを構成できない点、柔軟性に欠ける点が最大の違いとなる。中継機では通信のコストを計算しないため、中途半端な位置にクライアントが存在したとしても、明示的に接続した親機か中継機どちらかへの接続を維持する。このため、親機に直接接続した方が速いのに、中継機に接続したままの状況などが発生することがある。親機か中継機か、明示的に接続先のSSIDを指定しなければならない機種もある。

■トリセツはアプリで接続管理もBluetoothで

 それでは実際の製品を見ていこう。本体は円形で、上部が国立代々木競技場の屋根というか、ドリルの先端というか、らせん状にカットされた複雑なデザインとなっている。

 LEDは屋根の頂点に1つあるのみで、インターフェースも背面に有線LANポートが2つとUSB Type Cの電源コネクター1つだけと、非常にシンプルな構成になっている。

 対応する無線LANの規格は、5GHzが最大867Mbps(2ストリームMIMO)のIEEE 802.11acで、2.4GHzが最大400Mbps(2ストリームMIMO+256QAM)。MU-MIMOにも対応する。

 もちろん、同梱される3台の端末はすべて共通のハードウェアで、一応、箱には「ここからスタート」と1台目を示す記載があるが、セットアップ次第で役割は自動的に変わるので、基本的にどれを使っても構わない。

 セットアップは、非常に簡単で迷うところはないが、箱を開けた瞬間にはちょっと不安になる。同梱されるのがLEDの状態を示す名刺サイズのカードのみで、セットアップガイドのようなものは見当たらないからだ。

 では、どうするのかというと、スマートフォンアプリを利用する。箱の蓋を開けると目に入る位置に記載されたAndroid/iOS用のアプリをダウンロードすると、接続方法などが簡単なアニメーションで表示されるので、画面を見ながら進めれば簡単にセットアップが完了する。

 具体的には、以下のようなイメージだ。

1.電源ケーブルを接続
2.LEDが青になったことを確認
3.スマートフォンのBluetoothをオン
4.アプリでDeco M5を認識
5.インターネット接続を設定(1台目のMPPのみ)
6.ネットワークを自動構成(2台目以降はここでメッシュ構成)
7.設置場所選択
8.完了

 思い切った割り切り方だが、実際に迷うことなく、誰でも設定ができるので、この方式は成功と言えそうだ。最近のルーターはスマートフォンが設定の主役になりつつあるが、むしろ、ここまで一本道に設定を限定してしまった方が迷わずに済むだろう。

 2台目以降も同様で、アプリを使って画面を見ながら、基本的に同じことを繰り返していけば無事に設定が完了し、最適なメッシュが自動構成される。

 ユニークなのは、有線LANポートの接続先を問わない点だ。一般的なルーターであれば、インターネット接続はWANポート、PCや自宅のスイッチはLANポートと、接続先のポートが決められている。しかし、Deco M5では、2つのポートのどちらをどちらに接続しても構わない。

 接続したケーブルがインターネット回線に接続されていればWANポートとして、LAN側ならLANポートとして自動構成される。ネットワークに詳しい人だと一瞬不安になるが、多くのユーザーには圧倒的にこちらの方が親切だ。

□疑問3:何台つながるのか?

 Deco M5は最大で10台でメッシュを構成可能。ユニットを追加購入することで、メッシュを拡張していくことができる。ただし、台数が増えれば中継が複雑になる上、帯域の使い分けも難しくなる。

□疑問4:帯域をどう使い分けるのか?

 Deco M5が利用可能な周波数帯は5GHz帯×1と2.4GHz帯×1の2系統。端末間の通信にどの帯域を使うかは、完全に機器側に任されており、ユーザーが選択することはもちろん、現在、どのような帯域を使ってどのMPとつながっているかを確認することもできない。同様に、チャンネルの選択も不可。

□疑問4:速度は半減しないのか?

 例えば、端末間のリンクに5GHz帯を利用しつつクライアントとの接続にも5GHz帯を利用したり、端末の数が増えて複数端末とのリンクに5GHz帯を利用するなどすれば、最大867Mbpsの速度が半減することもある。ただし、MU-MIMOに対応しているため、5GHz帯を433Mbps×2としても利用可能。端末間リンクにMU-MIMOを活用するなど、帯域を最大限に活かすように自動構成される。

□疑問6:有線LANが混じれるのか?

 端末間の接続には有線LANを使うことも可能だ。むしろ積極的に端末間の接続に有線LANを使えば、クライアントやほかの端末とのリンクに使える無線の帯域が増えるため有利だ。

■日本の住宅では2台で十分なのかも

 気になる実力だが、これはなかなか判断が難しい。おそらく、本製品が実力を発揮し切るには、住宅展示場並みの広々とした住宅面積や、クリアな2.4GHz帯が必要になるのではないかと想像できる。

 以下は、木造3階建ての筆者宅にて、Deco M5の速度を「iPerf」を利用して計測した結果だ。1台のみの場合(1階に設置)、3台セットをフルに設置した場合(1、2、3階それぞれに設置)、2台の場合(1階と3階踊り場に設置)で速度を計測してみた。

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz)、OS:Windows Server 2012 R2 クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz)

 結果を見ると、確かに1台のみの場合よりも、3台でメッシュを構成した方が速いのは確実だ。家中のどこへ行っても60~100Mbpsで平均的に通信できるイメージで、極端に遅くなる場所がなく、本製品のキャッチコピー通り、「自宅をWi-Fiで塗りつぶせる」。

 しかしながら、日本の典型的な狭い住宅である筆者宅では、各階の距離が短いこともあり、3台を各階に設置するよりも、Deco M5を2台のみに減らし、しかもそのうち1台を3階の階段踊り場に設置した方が高速になった。

 Deco M5はローミングに対応しているため、各階を移動しながらの計測でも、近くのDeco M5へと自動的に接続先が変更される。しかし、今回のテストでは、計測地点で一旦、Wi-Fiをオフにしてからつなぎ直し、リンク速度が最も近い端末につながっていると思われる867Mbpsになっていることを確認しながら計測している。このため、ほぼ間違いなく端末間の通信がボトルネックになっている印象だ。

 理由は、さまざまなことが考えられるが、おそらく端末同士の距離が近すぎること、そして確認できないので推測にはなるが、中継に使われていると考えられる2.4GHz帯が壊滅的に混雑して使い物にならないこと。この2点だと考えられる。

 中継機の登場当初も、設置場所によって逆に速度が低下することに悩まされたが、メッシュも、いくら中継機よりも賢いとは言え、やはり設置場所がパフォーマンスに大きく影響する場合がありそうだ。

 よって、広めの住宅であれば、3台構成のメリットがもっと活きてくる可能性がある上、2.4GHz帯を効率的に使えれば、さらにパフォーマンスが上がる可能性も期待できる。しかし、おそらく日本のほとんどの住宅では、その実力を発揮し切れないのではないかと思える。

 筆者宅は木造なので、テストのしようがないが、もしかすると広めのマンションなどでは、鉄筋コンクリートの壁をうまく回折するように複数のDeco M5を配置することで、これまで届かなかったところに電波を届けられるようになる可能性もある。

 このあたりは、実際の導入事例を待つしかないだろう。

□疑問7:どれくらいのエリアをカバーできるのか?

 Deco M5の公式情報によると、3台のユニットによって最大420㎡(バスケットコード1面と同等)をカバーできるとしている。

■セキュリティ対策としての機能にも注目

 このように、メッシュを実現できるDeco M5だが、実は通信機器としての実力も見逃せない。ASUSやエレコムなどの無線LANルーターと同じトレンドマイクロの技術を採用したセキュリティ技術、プロファイルベースのペアレンタルコントロール機能、デバイスごとのQoS設定の3つをセットにした「TP-Link HomeCare」が搭載されており、PCやスマートフォン、ネットワーク家電など、さまざまな機器を管理することが可能になっている。

 中でも注目はセキュリティ機能だろう。以下のような機能が利用可能となっており、マルウェアのネットワーク経由の感染などを防止できる。

悪意のあるサイトの閲覧をブロックIPSを利用した侵入防止マルウェアに感染した端末の自動隔離

 設定アプリでは「アンチウイルス」となっているので、一般的なウイルス対策ソフトの機能を想像するかもしれないが、基本的にはネットワークでやり取りされる通信を監視するものだ。つい最近話題になったWannaCryなどのように、特定のポートを使って外部から感染を試みるような場合に、IPSによって通信を遮断できる。また、万が一、家庭内の機器が感染した場合に、さらに外部へ感染を拡大しようとする通信を、隔離によって防止できる。

 なお、メールに添付されているマルウェアなどを除去できるものではない点には注意が必要だが、ウイルス対策ソフトを使えないゲーム機などを、ある程度保護できる機能となっている。

 この機能は3年間無料で提供され、継続する場合は更新することもできる(料金の有無などは今後発表予定)ので、セキュリティ対策として本製品の導入を検討するのも有効だ。

□疑問8:アクセスポイントモードで利用できるか?

 そもそもDeco M5自体が現状はルーターとしてしか構成できない。今後のバージョンアップでアクセスポイントモードに変更する機能が搭載されるとしているが、その際にセキュリティ機能がどのような扱いになるのかは現時点では未定だ。

■簡単だけど難しい製品

 以上、TP-Linkから登場したDeco M5を実際に試してみたが、なかなか判断が難しい製品だ。設定は簡単で、環境によってはWi-Fiの通信エリアを拡大することができるが、筆者宅のテストを考える限り、日本の住宅事情には、3台構成は若干過剰なのではないかと思える。

 セットアップ自体は簡単だが、実力を発揮させるには設置場所を試行錯誤する必要がありそうなので、環境によっては思い通りのパフォーマンスを発揮させるために苦労する可能性もある。口コミなどでは評価が分かれる結果になるかもしれない印象だ。

 とは言え、メッシュというのは、無線LANの世界では1つのトレンドとなっている。今後、特にバッファローやNECプラットフォームズなどの国内メーカーが、これに追従するのか、それともメッシュよりも日本の住宅環境に合った提案をしてくるのか、他社の動向にも注目していきたいところだ。

INTERNET Watch,清水 理史

最終更新:7/10(月) 6:00
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