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覇気なく初日黒星…休みたくても休めない稀勢の里の憂鬱

7/10(月) 15:34配信

日刊ゲンダイDIGITAL

 満員御礼の館内が、何度もため息に包まれた。

 9日に初日を迎えた大相撲7月場所。横綱稀勢の里(31)と新大関高安(27)を含む2横綱3大関が枕を並べて討ち死にという、波乱の幕開けとなった。

 しかし、相撲協会はウハウハだ。なにせ、近年の協会には、黙っていてもカネがウジャウジャと入ってきている。本場所は常に満員御礼、7月場所も千秋楽まで当日券以外はすべて完売している。昨年は全90日の本場所で、満員御礼が出なかったのは福岡で行われた11月場所の2日間だけ。「不人気場所」と呼ばれていた九州場所でさえこれなのだ。

 懸賞の本数も、場所ごとに増えている。3月の大阪場所では1707本と、地方場所の過去最多記録を更新。すると今回の名古屋場所は1750本と、アッサリ記録を塗り替えてしまった。

 近年は減少傾向にあった巡業も、昨年は75日間。巡業が70日を超えるのは若貴ブームに沸いた1994年以来、23年ぶりである。今年は春巡業が20日間、7月場所後の夏巡業も21日間が予定されている。さらに秋巡業と冬巡業もあり、最終的には去年と同じ程度の日数が予想されている。

「巡業は売り興行なので、1日で協会が得る契約金は700万円から900万円。申し込みが殺到し、数を絞っているのが現状です。勧進元としても、今の相撲人気なら容易にチケットを売りさばけると踏んでいる。当然、巡業が増えれば増えるほど相撲協会はもうかる。現場の力士からは『バス移動ばかりで体がもたない』と苦情が出ているほどです」(角界関係者)

 相撲協会の16年度の決算は、約6億4000万円の黒字。前年度から約3億9400万円もアップしている。10年の野球賭博問題、11年の八百長騒動と不祥事続きで赤字、赤字の連続だった当時からは考えられないV字回復だ。

■4億円増収でウハウハの相撲協会とは対照的に…

 そんな“相撲バブル”の屋台骨を背負っているのが、横綱稀勢の里だ。ファンが待ち望んだ和製横綱として、人気と期待を一身に集めている。しかし、今の稀勢の里は期待に応えられる状態ではない。3月場所中に日馬富士に負わされた左腕のケガは、いまも完治していない。その証拠がこの日の相撲だ。気鋭の御嶽海に右脇を固められると左を差せず、その時点で打つ手なし。腰高で何もできないまま、もろ差しで寄り切られた。

 相撲評論家の中澤潔氏は「負けた2横綱3大関の中で、一番悪い内容だった」と、こう続ける。

「相撲用語で、立ち合いからすぐに二本差されることを『バンザイ』と呼ぶ。今日の稀勢の里は、バンザイをしに土俵に上がったのか、という相撲だった。覇気も何も感じない。拍子抜け、ブサイクな相撲です。稀勢の里は今場所の出場にあたって、どこまで真剣に考えたのか。土俵に上がれば何とかなる、という程度の甘い気持ちがあったのではないか」

 自らの存在が相撲協会に莫大な利益を生み、角界が活況を呈していることを考えれば、稀勢の里には、「休んでいられない」という思いがある。八角理事長(元横綱北勝海)も「横綱は出場するのが務め」と話しており、角界全体にそうした雰囲気があるのは事実だ。

 その結果が、この日の惨敗。多額の懸賞金目当てに対戦相手は目の色を変えるし、平幕にすれば金星のチャンスだ。中途半端な気持ちで崩せるほど、モンゴル勢の牙城ももろくはない。ケガで万全ではない状態で「横綱の務め」を果たせるほど甘くはないのだ。仮に連敗が続けば休場は必至。2場所連続で途中休場となれば、それこそ進退問題にも発展しかねない。

 支度部屋では報道陣の問い掛けに、ほとんど言葉も出なかった稀勢の里。体より先に、心が悲鳴を上げるかもしれない。