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『神宿る島』守る漁師の信仰 古代から続く禁忌 沖ノ島、世界遺産に

7/10(月) 9:53配信

西日本新聞

 絶海の孤島に10日間、一人きり。宗像大社(福岡県宗像市)の神職は沖ノ島にある沖津宮(おきつみや)へ交代で行き、神事を営む日々を送る。民俗学者の楠本正さん(86)=宗像市=も、神職の頃は荒波を越えて何度も沖ノ島に渡った。「沖ノ島の姿が永遠に保たれること。それが古代から続けてきた信仰の証しです」。世界遺産になっても変わることはない。

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 山口県の神社から、32歳の時に宗像大社へ。最初の週、初めて渡った沖ノ島で途方に暮れた。「どうやって時間をつぶせばいいのか。一人きりで生活のリズムが分からなかった」

 やがて漁船が島に立ち寄るのに気付き、取れた魚を手に社務所を訪れる漁師と酒を酌み交わすようになった。宗像の大島や鐘崎、山口県、長崎県壱岐、対馬からも来た。狙っている魚、船の構造、信仰、海に禁忌はあるのか-。漁師の風習に興味が尽きず、神職を辞めて研究者になった。

 神職の頃、本土に戻るために乗った漁船が動かなくなったことがある。「靴に(沖ノ島の)砂がついていないか」。漁師に言われて砂を払うと、船は動きだした。一木一草たりとも持ち出してはならない。沖ノ島の禁忌を厳格に守る漁師の信心深さに驚いた。

 昭和50年代、釣りブームで遊漁船が大挙して沖ノ島周辺に現れるようになり、漁船とのいさかいや事故が起きた。「海は誰のものでもない」と主張する遊漁船に向かって、漁師が叫ぶ姿が忘れられない。「わしらは、この海に生活を懸けとるんばい」。世界遺産登録をきっかけに、観光目的の船が押し寄せはしないか、少し気掛かりだ。

 神を中心に漁師たちと交流した沖ノ島の日々。漁師たちは昔も今も、取れた魚を沖津宮に献じることを欠かさない。「敬いながら畏怖する漁師の素朴な信仰心こそが、島を永遠に守ってくれる」と信じている。

=2017/07/10付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞社

最終更新:7/10(月) 9:55
西日本新聞