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神戸のデジタルキューブが実践するコミュニティ、ビール、たまに仕事

7/11(火) 9:00配信

アスキー

神戸発グローバルでWordPress+AWSのビジネスを展開するデジタルキューブのメンバーに取材。コミュニティを中心に会社を作ったら、こんなクラウド会社ができた。
WordPress+AWSに最適化された「AMIMOTO AMI」で知られる神戸のデジタルキューブにお邪魔した。普段はリモートワーク主体の同社のメンバーや地元JAWS-UG神戸のメンバー、さらにはStripeの勉強会で神戸に来た小島英揮さんまで、今回は港近くのデジタルキューブオフィスに集まってもらい、AMIMOTO AMIやShifterといったプロダクトやグローバルに拡がるコミュニティ活動について語ってもらった。
 

WordPress+AWSでサイト構築からインフラ運営まで幅広くカバー
 デジタルキューブの設立は2006年。創業から10年以上、オープンソースのCMSであるWordPressを使ったWebサイトの企画・制作・コンサルティングを一貫して提供している。CMSによるWebサイトの構築・運営ということで、ジャパンタイムスや小学館のCanCamのようなメディアサイトが多いが、リクルートのエアレジのようなサービスサイト、企業のブログサイトなども手がけている。
 
 デジタルキューブの強みは、WordPressへの深い理解とプラグインなどの開発能力に加え、AWSを使ったインフラの構築・運用まであわせて行なえるという点だ。デジタルキューブ CEOの小賀浩通さんは、「メディアのハイトラフィックなサイトの運用は、普通のレンタルサーバーやホスティングでは手に負えないことも多く、お客様も困っていた。だったら、インフラの運用までやろうということで5年前くらいにAWSに舵を切った」と語る。今ではサイトのデザインやディレクションより、インフラやセキュリティを含めたサイトの運用をカバーする案件の方が多いという。
 
 マネージドサービスだけでなく、ユーザー自身によるセルフサービスも重視しており、そのために作ったのがWordPress+AWSホスティング環境を簡単に作れる「AMIMOTO AMI」だ。AWSで利用できるAMI(Amazon Machine Image)の形態で提供されるので、ユーザーはAWSアカウントさえあれば、セルフサービスですぐにWordPressを始められる。
 
 AMIMOTO AMIは単にLAMP環境にWordPressが載ってるだけではなく、同社がいろいろな案件で培ってきたノウハウを元にした設定やチューニングが施されており、高速でセキュアという特徴を持つ。また、デベロッパーフレンドリーも売りの1つ。CLIツールが同梱されていたり、Chefによってコード化されているため、CloudFormationでも利用できるようになっている。「もちろんイチから作ることも可能だけど、みんなそこに労力を使いたいわけじゃない。AMIMOTO AMIとCloudFormationを使えば、AutoScaling環境のような複雑な構成まで自動化できるので、本来自分が注力すべき作業に集中できる」と小賀さんは語る。
 
 また、OSSのAMIMOTOはGitHubから入手して、自ら手を入れて使うだけでなく、グローバルのAWSのマーケットプレイスからも利用可能だ。「うちは専門家の集まりなので、営業やマーケティング担当だけじゃなくて、経理すらいない(笑)。だから、マーケットプレイスで自分たちのプロダクトを展開できれば、開発者は開発に専念できる」(小賀さん)という発想で、当初からグローバルでのプロダクト販売にチャレンジしてきた。WordPress関係を中心に、さまざまな海外イベントに参加しているが、これも国内市場の小ささを考えれば当たり前のこと。現在、AMIMOTO AMIはグローバルでは29カ国で利用されており、海外でのアクティブユーザーも約5200アカウントにおよぶという。
 
サーバーレスとWordPressの新しい出会い「Shifter」
 さて、昨年末に提供を開始した「Shifter」もAMIMOTO AMIと同じWordPressのホスティングソリューションだ。動的なサイトで利用されることの多いAMIMOTO AMIに対し、サーバーレスの技術を用いたShifterは静的なサイト運用に向いているという。
 
 これまでWordPressはメディアのように多くのユーザーがポストし、更新も多いサイトで使われてきた。しかし、最近はWordPressを触れるユーザーも増え、コーポレートサイトやランディングページのような静的なサイトでも導入されるようになってきた。こうしたサイトの場合、立ち上げたものの、更新はほとんどないという使い方になる。
 
 これに対し、Shifterはサイトを更新するときだけWordPressをホストしたDockerコンテナが立ち上がり、静的ファイルに書き出すことができる。ユーザーはサイトジェネレーターや特別なデプロイツールを使わず、Shifterにログインし、普段のWordPressのGUIで静的なWebページを生成できるわけだ。更新を終えたら、WordPressは停止するので、外部からの攻撃に怯える必要もなくなる。CDNから配信されるため、予測不能のトラフィックにも強く、少ないコストで安心してキャンペーンサイトなどを公開できる。
 
 「Webサイト作るときは当然費用が発生するのですが、運営事業者じゃなければ、作った後のメンテナンス費用はなかなかもらえない。放置されるか、渋々やるかの二択です。でも、どっちもいやですよね」と小賀さんは指摘する。その点、Shifterを使ってWebサイトを立ち上げれば、担当者は「更新しないのにWordPressをメンテナンスし続けなければならない」という手間から解放される。全体から言えばニッチなニーズだが、確実に困っているWebサイト制作者がいるという領域。WordPressのメンテナンスに困っている案件を持ち込まれるデジタルキューブ自身の経験もあり、こうしたShifterの登場もある意味必然的だったといえる。
 
 そして、Shifterはテクノロジー的にもコンテナやサーバーレスなどをふんだんに盛り込んだ。「AWSは進化するのでまだまだ遊べるんですけど、WordPressの事業はさすがに10年やっているので、やや飽きが来ているんです(笑)。円熟しているけど、もはやセクシーではない。エンジニアには最新技術を使えるという高揚感がないと、先につながらないのですよ」ということで、後述するAlexaやStripeも含めて、新しいテクノロジーに触れるということは社内的にも意義があるという。
 
創業時からリモートワーク、コミュニティ重視だったデジタルキューブ
 デジタルキューブは、働き方も、ビジネスモデルもユニークだ。もともと「WordPressをビジネスにしたい」というコミュニティメンバーが集まって会社が生まれたこともあり、CEOの小賀さん自体もコミュニティに貢献している。プロジェクトスタイルの仕事自体もコミュニティメンバーで回しており、いわゆる会社組織というより、「コミュニティドリブンなギルド組織」という表現の方がしっくりくる。
 
 こうした組織形態であるため、デジタルキューブは創業当初からリモートワークだった。「僕が神戸に住んでいて、デザイナーとコーダーは東京、プラグインを開発していたメンバーが新潟」(小賀さん)とのことで、当初からリモートワーク前提だった。でも、コミュニティ内のやりとりはオンラインが普通で、非同期での開発効率もいいし、無駄なコストがかからないのもわかっていたため、障壁はなかったという。
 
 コミュニティへのコミットも自然の流れだった。「会社を立ち上げたのと、WordBenchがスタートしたのがほぼ同時期くらい。うちのメンバーがWordPressのドキュメント翻訳やプラグイン開発に携わっていたので、WordCampのオーガナイザーをやってた。ビジネスでは目立った事例もないしユーザーがいない、そもそもオープンソースなんて大丈夫かという時代だったので、そういう活動で市場を拡げていくしかなかった」と小賀さんは振り返る。一方、JAWS-UGに関しては、幅広い人とコラボできるプラットフォームとして重視している。「JAWS-UGはインフラの人、プログラマー、Webデザイナー、ハードの人などいろいろな人が関わっているので、あらゆるところにコネクトできるのが大きな魅力」と小賀さんは語る。
 
コミュニティで集まるデジタルキューブの愉快な仲間達
 こんなデジタルキューブだけに、集まるメンバーもコミュニティでつながった仲間だ。
 
 JAWS-UG神戸でAlexa勉強会を主催しているIto Tomoharuさんは、2013年のデブサミで玉川憲さんの話を聞いて、AWSにダイブしたくちだ。当時、Itoさんは関西のソフトハウスでエンジニアとして働いていたが、サーバー管理で心が折れていたときに、玉川さんのクラウドの話がヒットしたという。
 
 「当時、サーバー管理は社内で僕1人。よくあるやつですよね。普段は客先に出てて、インシデント発生と同時に夜戻ってきて、サーバーメンテするっていう。そんなときに、調達10分、全部リモート管理できますって聞いたら飛びつきますよ(笑)」と振り返るItoさん。クラウドで全部を自分の手の内に掌握できる感覚を得たことで、同じ境遇の人も絶対助かると思ったという。「それまでは僕も『サーバー社内で持つべき』という内向き思考だったんですけど、とにかく自分もサーバーも含め、外に出ることのメリットをアピールするようになりました。いろんな意味で、外に目を向けるようになったきっかけですね」(Itoさん)。
 
 当時は大阪、京都、神戸のJAWS-UGが共催した「JAWS-UG三都物語」や、京セラドームでの「JAWS Festa」が成功した頃。AWS HUBも始まって、関西のJAWS-UGが盛り上がりまくっていた時期に、Itoさんも小賀さんに会っている。「AWS HUBの飲み会で、神戸の組長と紹介されて、びくびくしていた」というのがItoさんの印象。一方の小賀さんは、「うちの会社もクラウドやりたいけど、全然載ってくれないみたいな話をしてた覚えがある」と振り返る。今ではJAWS-UG神戸の運営を手がけ、Alexaの企画を率先して手がける頼もしいメンバーだ。
 
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 たけしたかずとさんとはWordBenchつながり。「僕も割とハードなSIerでWindowsのアプリを作っていたのですが、もともと未経験だったので、システム開発ってこんなと思っていたんです」というたけしたさんだが、Web系の開発でPHPとWordPressを知り、WordBenchに参加。気づいたら、3年前くらい前に会社を辞め、WordBench神戸の運営を任され、AWSを使っていたという。
 
 Ando Atsushiさんは長野でギターを作っていたという異色のデザイナー。現地の景気が悪くなったことで、神戸に戻ってデザイナーとして職を転々。「大阪のパソコン修理会社でデザイナーとして雇われたのに、会社のインフラを全部やってた。そこで、サイトを作るのにCMSが必要になって、WordBenchに行ったら、怖い人に会った」というのが小賀さんとの出会いだ。「コミュニティに行くと、トラブったこととか書籍に書いてないことを学べるし、ナレッジを持っている人もいっぱい集まる。コードを書けないデザイナーとしては、聞ける人が集まっているのは重要」とのことで、コミュニティにもどっぷりだ。
 
 そして彼らのような伸びしろのあるメンバーをグローバルに向けさせたのは、小賀さんのまさに「組長力」と言える。「去年は『航空券買っといてね!』とだけ伝えて、韓国のイベントで飛び込みLTさせたり、re:Inventにも巻き込んで連れて行った。だから、彼らは海外のイベントで話すとか、外国人と話して企画作るとかは、全然抵抗ないはず」と小賀さんは笑う。そんな結果として、たけしたさんは宮古島と行ったり来たりという働き方を楽しみ、Itoさんにいたっては7月からオランダに移住してしまう。「一度壁を越えてしまうと、距離や時差というものにハードルを感じなくなった。だから、それをまさに体現しようと思っています」(Itoさん)。
 
JAWS-UG神戸はいかにしてAlexaの聖地になったのか?
 彼らが手がけるJAWS-UG神戸は、無類の新しもの好きで、ビール好き。Amazon Echo上陸前にもかかわらず、昨年からは音声認識サービスであるAlexaの勉強会を主導している。神戸のAlexa好きは筋金入りで、先日は韓国のユーザーグループまで巻き込んだ15支部と共催でAlexa Daysまで開催してしまった。「声でなんでもできちゃう楽しさをみんなに知ってもらいたいというのが根本にありますね」とはAlexa Daysの仕掛け人、Itoさんの弁だ。
 
 Aelxaにフォーカスしたのは、1年前、小賀さんからItoさん、たけしたさん、Andoさんなどの若手がJAWS-UG神戸の運営を引き継いでもらったときがきっかけ。「なにをやりたいか聞いたら、彼らはLambdaをやりたいって言ったんです。でも、Lambdaは単なるファンクションなので、使うだけだと目的がない。じゃあ、Lambdaを使えて、新しくて、ドキドキするものなんだと考えたら、Alexaがあった。じゃあ、Lambdaで『Echoもどき』を作ろうという話になった」(小賀さん)とのことで、Alexa Voice ServiceでAmazon Echoを作ってしまおうというのがもともとの動機だ。
 
 デジタルキューブのメンバーも、WordPressとAlexaというどう考えても交わらない2つの技術をどうガッチャンコするか真剣に考えた。そこから海外展示するデジタルキューブのブースの出し物として、WordPressやAMIMOTO AMIについて音声で答えてくれる「Alexa AMIMOTO Ninja」のAlexa Skillsの開発が始まった。開発の苦労話は、JAWS-UG神戸の勉強会でも書いたが、こういうノウハウがまさにデジタルキューブと神戸のコミュニティをつなぐエコシステムになっている。
 
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 こういったサービスやモノを作るという目的指向の勉強会は、最近の潮流だ。「AWSのサービスも今はサーバーから、ファンクションになっているので、EC2のハンズオンみたいなスタイルから、それらのファンクションをいかに組み合わせて、どんなものを作るのかというスタイルになっていくと思う」(小賀さん)。
 
新しい技術と人が交わる場所「神戸」のコンテンツ力
 最近始めたのが、元AWSJの小島英揮さんが撮れ高をアピールしているInstaVRとStripe。取材日には神戸で初めてのStripeの勉強会が開催され、会場となったコワーキングスペースは40人弱の参加者でいっぱいになった。小賀さんといっしょにStripeの勉強会を仕掛けた小島さんは、「いわば決済の民主化です。今までそれができなかったから、いろいろな人にどんどん中間搾取されてしまった。でも、誰でも自分のスキルをマネタイズできる時代が来ているんですよね」とアピールする。
 
 そして、今回のイベントのためにJAWS-UG神戸のメンバーが用意したのが、InstaVRなどで利用できるVR・パノラマ画像を販売できる「360images.io」だ。サイトはもちろんAMIMOTO AMIをベースに作り、決済にStripe、画像認識にAWS Rekognitionなど最新技術を盛り込んだ。今後は多対多での決済を実現するStripeのConnectのサービスを活用し、マーケットプレイスを実現するという。
 
 また、勉強会のおやつやビールの決済もQRコードを使ったStripeをまず体験してもらう。「今までコップに500円玉を入れてもらっていたんですけど、Stripeのチェックアウトの機能を使うコードを2~3行書いて、Lambda、API Gatewayを組み合わせて、1日で投げ銭システムができた。StripeのmeetupなのにチャージにStripe使わないってのはどうよ!?って。実際、楽しそうにお金落としてくれたし(笑)。こういうことを体験しながら、勉強会を楽しんでもらいたい」(小賀さん)。
 
 ハンズオンも、セッションも、即物的なモノができるまでが速い。小島さんも、「(プログラミング学習の1番最初にやる)Hello Worldの終わりですよね。もともとHello World自体が難しかったからあの課程が必要だったけど、もはやそれほど大変ではない。これからのHello Worldはサービスを作ることじゃないですかね。もう勉強は終わり。作る時代にやっとたどり着いたんじゃないですかね」とコメント。Andoさんも「クラウドサービスのような標準的なものができたので、みんな同じ環境で作れる。無料枠もあるし、従量制なのでフリーランスや小規模な事業主でもサービス作れる」と応じる。
 
 外に向いた港町の気質なのだろうか? 新しい技術を試し、いち早く試していく神戸のパワーがすごい。そんなパワーの交わる場所としてデジタルキューブがあり、彼らが作るコミュニティのコンテンツがある。「大阪ほど大きくないくらいで、人数的にちょうどいいんですよ。でも少ない人数でも、コミュニティの発信力があれば、先日のAlexa Daysのように多くの人たちを巻き込める」と小賀さんは語る。リモートワーク、グローバル、コミュニティフォーカスなど、デジタルキューブとJAWS-UG神戸の「当たり前」に日本企業が追いつくのは何年先になるのだろうか?
 
 
文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

最終更新:7/13(木) 15:36
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