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遺伝子に注目で成果 手術不可の進行・再発肺がんに新兵器

7/11(火) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

 肺がん治療に新たな選択肢がまたひとつ加わった。かつては考えられないほどの成果をもたらしている。

 新たな選択肢とは、先日承認された分子標的薬「クリゾチニブ(商品名ザーコリ)」だ。分子標的薬は、特異的な性質を持つがん細胞を標的にし、効率よく作用する。そこが、がん細胞も正常な細胞も攻撃する従来の抗がん剤と違う点だ。

 今回承認されたのは、肺がんの中でも「ROS1(ロスワン)融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に対してだ。

 ROS1融合遺伝子陽性とはどういう意味か? これまで肺がんは、「小細胞がん」「非小細胞がん」、さらに非小細胞がんは「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」に分類され、治療が考えられてきた。これらは組織型の分類だ。

 ところが最近は、治療戦略の立て方が変わってきた。日本肺癌学会理事長で、近畿大学医学部呼吸器外科部門主任教授の光冨徹哉医師が「肺がんは遺伝子の病気」と指摘するように肺がんの増殖や生存に遺伝子変異が関係していることが研究で明らかになっている。その遺伝子変異を特定し、効果が証明された分子標的薬を用いて治療が行われるようになったのだ。

「日本で承認されている肺がんの遺伝子変異を標的とした分子標的治療薬は、EGFR(上皮成長因子受容体)をはじめ、たくさんあります。臨床試験でも、遺伝子変異を選んで分子標的治療薬を用いると、生存期間は延び、治療成績に大きな差が出ます」(光冨医師)

■今は4年半元気な患者も

 ROS1融合遺伝子とは、がん細胞の成長を促進する遺伝子変異のひとつで、非小細胞肺がんの1%程度といわれている。クリゾチニブは、ROS1融合遺伝子陽性小細胞肺がんに対する、初めての治療薬となる。

「1%というと少ないように思いますが、肺がんの年間患者数13万8000人から見ると、肺がんのほとんどが非小細胞肺がんであることから、ROS1融合遺伝子陽性の肺がん患者数は1000人をはるかに超えます」(国立がん研究センター東病院呼吸器内科長の後藤功一医師)

 つまり、今回の薬がかなりの人数の患者を救うことになるのだ。

■奏効率は70%

 この遺伝子変異の進行がん患者127人(うち日本人26人)にクリゾチニブを1日2回投与した国際共同第2相試験における奏効率は、69・3%。ほとんどの患者に腫瘍の縮小効果が得られた。さらに薬を投与後、腫瘍が進行せずに患者が生存した期間を示す無増悪生存期間の中央値は、13.4カ月だった。

「2007年の進行肺がんの4種類の化学療法の無作為比較試験では、4種類ともほとんど差が出ず、奏効率30%、無増悪生存期間は5~6カ月でした」(光冨医師)

 10年前の結果と現在を比べると、治療成績が大きく進歩したことがわかる。

 48歳で肺がんから肝臓へ転移していた患者は、クリゾチニブで肺がんが縮小し、肝臓転移がわからなくなった。また、後藤医師が海外で出会った患者は、ROS1融合遺伝子陽性で、クリゾチニブ投与で4年半経った今も元気だ。

 なお、今回の薬は、5年前に承認された「ALK(アルク)融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に続き、追加承認された形だ。

 ALK融合遺伝子も、ROS1融合遺伝子と同様にがん細胞の生成・増殖に関係する遺伝子変異で、非小細胞肺がんの3~5%を占める。