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市場低迷なのに……お豆のフジッコのゼリーはなぜ売れる?

7/11(火) 7:17配信

ITmedia ビジネスオンライン

 今年も暑い夏がやってきた。アイスクリームとともに、この季節に食べたくなる冷たいデザートと言えばゼリーではないだろうか。

【シャンパンにフルーツセラピーをかけると……】

 実際、ゼリーは5~7月に売り上げが一気に伸びるという。お中元でゼリーの詰め合わせを贈る人もいるはず。まさに今が書き入れ時なのだ。

 そんなゼリーではあるが、市場自体は冷え込んでいる。リサーチ会社のマクロミルの調査データによると、2012~16年の過去5年間で販売額は8%減少。主な原因は消費者の選択肢が増えたことにあるという。

 かつて日常的なデザートはゼリーやプリンくらいしかなかったが、今ではケーキ、シュークリームといった洋生菓子や和菓子などのスイーツがコンビニで手軽に買えるようになった。また、健康志向を追い風にヨーグルトも大きく成長している。その結果、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの商品棚の占有率がほかのデザートに奪われて、ゼリーはどんどん端っこに追いやられているのである。

 このように市場が低迷する中において、気を吐くのがフジッコだ。同社のゼリー商品「フルーツセラピー」シリーズは好調で、12年から16年にかけて売上高は128%伸長した。17年3月期決算を見ても、このゼリー商品がメインのデザート事業は31億7700万円(前期比5.9%増)となっている。

 「え、フジッコ?」と驚いた人もいるだろう。「フジッコのお豆さん」というCMのフレーズに代表されるように、同社は豆と昆布を主力製品とする会社として名が通っているからだ。そもそもゼリーを製造していることを知らない人も多いだろう。

 フジッコは従前のビジネス課題を解決しようとゼリー市場に新規参入した。15年前のことである。なぜ同社はゼリーを作るようになったのか? そして、苦戦する競合を尻目に売れている理由とは?

●唯一のナタデココ国産メーカー

 そもそもの発端はナタデココだった。

 若い読者はご存じないかもしれないが、ナタデココはティラミスやパンナ・コッタなどとともに、90年代に大ヒットしたデザートである。グミのような独特の歯ごたえとヘルシーさなどが話題を呼び、飛ぶように売れたのだ。実はフジッコは1993年にナタデココの生産を開始し、今なお唯一の国産メーカーなのである。

 なぜフジッコがナタデココなのか? ナタデココはココナッツミルクにナタ菌を加え、発酵させて作るもので、同社がそれまで漬物や納豆の製造などで培った発酵技術を応用できたのだ。

 新たに専用工場を建てて万全の生産体制を備えた同社は、ナタデココブームに乗って売り上げを大きく伸ばした。しかし、ブームが去ると一転、厳しい状況に陥ったが、工場を造ってしまった以上、事業を止めるわけにはいかず、新たな可能性を探りつつ製造を継続した。

 そうした最中、社内で新ジャンルの商品開発に乗り出すべきだという議論が活発になった。フジッコの豆製品や昆布製品は夏場にどうしても苦戦する傾向があり、この時期の売り上げ確保が長年のビジネス課題だったのだ。そこで出たアイデアが、ナタデココを使ったゼリー商品の開発、販売だった。

 ただし、既にゼリー業界には大手のたらみやブルボンを筆頭に競合がひしめき合う。後発として参入する中で、彼らと同じものを作っても仕方ない。ブランドコンセプトに加えて、商品の違いをどう打ち出すかがキーポイントだった。

 そこでたどり着いた解が、まるで果物を食べているような食感やフレッシュさを持ったチルド商品、そして癒しというコンセプトだった。それまでのゼリー商品は常温保存できるように高温殺菌するため、どうしても果物の風味や鮮度が失われてしまう。食感に関しても、果実を缶詰のシロップで漬けてゼラチンで固めたようなものだった。

 それに対してフジッコは品質や洗練性にこだわった。同社が開発したのは、フレッシュな冷凍原料を低温殺菌し、10度以下で管理しなければならないようなチルドゼリーだ。「品質重視で他社商品との差別化を図りました。今でこそナタデココ入りだったり、フルフルした食感だったりするゼリーを他社も開発してきていますが、当時はほかにありませんでした」と、同社マーケティング部 デイリー商品グループの紀井孝之ブランドマネジャーは振り返る。

 こうして完成した新商品がフルーツセラピーで、02年に販売を開始した。

●売り場や消費者を常に刺激

 当時、他社商品よりも高い価格設定(約160~170円)だが、差別化戦略は効を奏して発売当初から売り上げは伸びていった。消費者に一度食べてもらえれば、必ず気に入ってもらえるという自信があったため、店頭での試食など顧客接点を増やしていった。

 しかし、何年か経つと徐々に成長が鈍化していき、売り上げは横ばいが続いたという。ちょうどそのころにブランドマネジャーとなった紀井氏は、商品の改廃がほとんどなかったことが原因だと見ていた。フルーツセラピーは「グレープフルーツ」や「バレンシアオレンジ」といった定番商品に加えて、春夏や秋冬で季節限定メニューを出していたものの、ラインアップはほぼ固定化されていて毎年のように同じフレーバーだった。さらに春夏については「ゴールデンパイナップル」と「ベリー&アップル」の2種類を用意していたが、後者は夏場をイメージしにくいものだった。

 「私は営業出身で、20年以上現場を見てきました。ある程度のサイクルで新しい商品を出して売り場に刺激を与えないと、バイヤーも『また同じ提案か』と思うし、消費者も飽きてしまいます」(紀井氏)

 そこで3年前から商品の改廃を実施。2014年に冬の新商品として大人向けゼリーの「サングリアスタイル」を発売した。アルコールは1%未満で、クリスマスなど年末のパーティーシーンを想定して商品開発した。

 2015年には春夏商品だったベリー&アップルを「スイートピンクグァバ」に刷新。秋冬についても「林檎(りんご)」と「洋梨」を発売してから数年経っていたので、当時ドリンク飲料などでも流行っていたすりおろし食感に着目して「すりおろし果実 林檎/洋梨」にアレンジした。

 「期間限定商品をどんどん出していくことで、結果的にレギュラー商品も売り場で一緒に並べてもらい、全体の販売アップにつながります。また、売れないものがあれば新商品に差し替えます。嗜好(しこう)品なので消費者の興味のサイクルは早いです。飽きさせないことが大切なのです」(紀井氏)

●「ゼリーがけ」を提案

 もう1つの施策が、「ゼリーをかける」という提案だ。

 それまでゼリーはスプーンで食べるものだという“常識”を変え、ゼリーをクラッシュして、カットフルーツやドリンクなどにかけて食べる発想をアピールした。「他社のゼリーはゼラチンで固まっているため崩すのが難しいのですが、フルーツセラピーはなめらかで、かつカップの中に空間を設けてあるので、十数回振ってもらうと簡単に崩れてかけられるようになります」と紀井氏は説明する。

 カクテルや炭酸飲料などにゼリーをフロートするというレシピ情報を発信したところ、SNSなどでじわじわと火が付き、若い女性を中心に広まっていった。また、そうしたゼリーをかける仕掛けが、スーパーのバイヤーからも面白いと興味ともたれて、商品に対する引き合いが大きくなったという。

 「ほかのメーカーは、価格でいかにゼリーを買ってもらうかという考え方ですが、我々は価格勝負ではなく、おいしさなど商品の付加価値だったり、新しい提案であったりを重視して消費者を刺激しているのです」(紀井氏)

 こうした取り組みの結果、再び売り上げは伸長。ついにはフルーツゼリーのブランド別売り上げで競合商品を押さえてトップに立った(インテージ SRI フルーツゼリー市場の販売金額ベース)。

 ゼリー市場への参入は後発、さらに市場も低迷しているという不利な状況の中で、成長するフジッコのフルーツセラピーは、他の業界においてもビジネスの大きなヒントになることだろう。

(伏見学)