ここから本文です

ハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」仕掛け人が語る日本の知的財産を世界に出す方法

7/11(火) 15:30配信

SankeiBiz

 映画配給会社のギャガを率いて「マスク」「セブン」といったヒット作を送り出し、現在はフィロソフィア社長として日本の映画や映像産業のグローバル化に取り組んでいる藤村哲哉氏(64)。4月からデジタルハリウッド大学の特任教授に就任し、30年以上に及ぶ映像ビジネスで培った経験を後進に伝えようとしている。7月5日に同大で行われた公開講座では、漫画やアニメーション、キャラクターといった日本のIP(知的財産)を世界展開する上で必要なことを、2017年春に公開された「ゴースト・イン・ザ・シェル」のケースも交えて話し、独自性のある日本のIPが世界でより大きく受け入れられる可能性を訴えた。

 「『知名度と世界観』か『ストーリーのオリジナリティ』が契約成立の要件だ」。

 東京都千代田区にあるデジタルハリウッド大学の講座に立った藤村氏は、ハリウッドをはじめとした海外に日本のIPが売れる条件を、こう指摘した。知名度で挙げたのがカプコンのゲーム「バイオハザード」で、世界的な人気を受けてアメリカでミラ・ジョヴォヴィッチ主演による映画が作られヒットした。

 ストーリーのオリジナリティでは、周防正行監督の映画「Shall we ダンス?」や桜坂洋氏のライトノベル作品「All You Need Is Kill」を例示。アメリカにはない展開やストーリーの良さが評価され、「Shall we ダンス?」はリチャード・ギア主演でリメイクされ、「All You…」はトム・クルーズ主演で実写映画化されて全世界で3億7000万ドルの興行収入を確保した。

「日本は世界有数のIP大国だ」と藤村氏。ただ、その質や量に比例した海外進出が果たされているかというと難しい。メジャーなスタジオとの接触があまりなく、契約のやり方もよく分からないといった日本側の事情があり、気になったIPがあっても、どこに買いに行けばいいのか分からないといった海外側の事情があって、マッチングがうまくいかない。

 そこで藤村氏が2006年に立ちあげたのがフィロソフィアという会社。士郎正宗氏の漫画「攻殻機動隊」を海外で映画化したいと考え企画化に乗り出した。士郎氏の漫画だけでなく、これを原作に押井守監督が長編アニメーション化した「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」も世界で人気となったコンテンツ。分類で言えば絶大な「知名度と世界観」を持っている。藤村氏は「スパイダーマン」や「X-MEN」といったマーベル映画の製作総指揮をとったアヴィ・アラッド氏をパートナーにして映画化に取り組んだ。

 もっとも、そこから完成までに「10年かかった」と藤村氏。アヴィ・アラッド氏という世界的なプロデューサーを立てながらも、原作を刊行している講談社やハリウッドのスタジオと話をして、映画化の契約を成立させるまでに3年かかった。そこから企画開発に乗り出し、脚本を仕上げて実際の製作に入るまでに、さらに5年がかかった。「ハリウッドの人たちに言わせると、100億円くらいの製作予算で作られる映画で、企画開発に5年は一般的な年数」と藤村氏。スタジオにゴーサインを意味するグリーンライトの点灯を決断させるには、8人の脚本家による600万ドルをかけての脚本執筆のように、長い時間と投資が必要だった。

 「主演がスカーレット・ヨハンソンに決まった瞬間、アヴィ・アラッドと抱き合いました」。苦労をして権利者から映画化の許諾がもらえ、スタジオに企画を買ってもらえても、起用される主演がまったくの無名であったり、脚本が良いものに仕上がっていなかったりすれば、すべての苦労も水の泡となってしまう。「日本のIPをハリウッドで製作するのは良いことばかりではない。失敗すれば世界中でIPがダメージを受ける」と藤村氏。そうならないために、双方の考え方をすりあわせる作業がIPの売買には必要となる。

 海外でストーリーやキャラクターを自由に変えられてはIPに傷が付く。だからといって最終承認権を権利者が握ったままでは話は進まない。シノプシスと脚本の間に位置するトリートメントの段階で意見を出し合い、双方の意向を反映させていく。「相手が本当に欲しいIPなら、そうしたディールでも成立するだろう」と藤村氏は指摘する。「決めたい同士が話せばどこかで落ち着く」。後は完成に向かって進むだけで良い。

 「日本文化がハリウッドの製作能力で映画化されて、グローバルな流通網によって世界中の観客に届けられる」。藤村氏がフィロソフィアでの事業を通して目指しているのは、そうした状況がもっと活発になること。それは、権利収入が入ってくるだけでなく、「日本人の俳優や製作スタッフの参画によって、日本の才能(タレント)が世界に進出する機会を創出する」ことにもつながるという。北村龍平監督のようにハリウッドから声がかかる日本の監督もいるが、IPや作品が日本からもっと世界に出て行けば、才能の方もいっしょに世界に出て行けるだろう。

 海外で映像化が進められている日本のIPでは、映画「ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ」が2019年に公開予定で、映画「ゴジラ対キングコング」も2020年の公開が予定されている。漫画やアニメの原作では「NARUTO -ナルト-」「AKIRA」「宇宙戦艦ヤマト」「TIGER & BUNNY」などが映画化の企画として浮上。映画に負けない予算規模で作られるハリウッドのドラマも、川原礫氏のライトノベル「ソードアート・オンライン」や1998年放送のテレビアニメーション「カウボーイビバップ」が企画に挙がっている。

 映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」に関しては、決して良好な興行成績とはいかなかったが、藤村氏によれば「アヴィ・アラッドは少し時間をおいて続編も作りたいと言っている」とのこと。10年がかりで企画を実現させた粘り強さで、いつか続編を見せてくれる日が来るかも知れない。

最終更新:7/12(水) 14:05
SankeiBiz