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オバマもゴアもM-KOPAの強力サポーター

7/11(火) 12:50配信

ニュースソクラ

【資本主義X民主主義4.0】第二部 供給は自らの需要を生み出すか(3)

[英イングランド南部ウィンチェスター発]大手の日系企業がM-KOPAのようなビジネスをアフリカで展開できない理由について、M-KOPA共同創業者の1人、ニック・ヒューズ(50)は、ホワイトボード代わりの壁に概念図を描きながら分かりやすく解説してくれた。

 「日本のような巨大企業が従来のやり方でアフリカ市場を開拓しようとすれば高くつきすぎる。国土が広くて、人口が分散している。販売網もなければ、各世帯に電力を供給できる中央集権的な電力会社もない」

 「アフリカは現金決済が主流だし、まさにゼロから構築することになる。従来のモデルでアフリカの人口の半分に到達しようと思ったら80年かかると予測する国際コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの報告書もある。そんなやり方を踏襲して、アフリカでビジネス展開するのは馬鹿げている」

 ニックがホワイトボードに走り書きした三層構造の概念図の下層に「携帯電話インフラ、2000年前後、3G、4G」、中層に「支払方法と個人識別情報、M-PESA、2007年」、上層に「M-KOPAや他のサービス、2010年(正式なスタートは11年)」とあった。

 アフリカの人口は11億人。M-KOPAは現在50万人の利用者を来年末までに100万人に倍増させる計画だ。

 ニックは「携帯電話が生み出す商取引は80年かかっていたはずの期間を4分の1の20年に短縮してくれる。今、中国製なら、わずか40ドルでスマートフォン(多機能携帯電話)が製造できる時代なんだ」と表情を崩した。

 父親がケニア出身のアメリカ前大統領バラク・オバマもM-KOPAの強力サポーターの1人。15年の「グローバル起業サミット」に合わせてナイロビを訪れたオバマは、M-KOPA顧客担当責任者の女性と握手した。

 携帯電話を使った決済システムの仕組みを尋ねられた女性は「大統領の携帯電話の番号を教えてください。すぐに送金しますから」と答えた。慌てたSPが「大統領、教えてはダメ」と割って入る場面があったとニックは愉快そうに笑った。

 サポーターはオバマだけではない。地球温暖化対策を訴えた映画『不都合な真実』(06年公開)に主演したアメリカの元副大統領アル・ゴアらが起こしたファンド「ジェネレーション・インベストメント・マネージメント」、英ヴァージン・グループ創設者リチャード・ブランソン、AOL共同創業者の1人スティーブ・ケースらがM-KOPAに計1900万ドル(約21億円)を投資している。

 アメリカの大統領ドナルド・トランプが炭鉱夫の仕事を守ろうと、温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」離脱を表明したことについてどう思うかニックに質問した。

 「政治に立ち入るつもりはないが、トランプの決定は理解できない。地球温暖化の科学は明白で、私たちは温暖化対策を進めなければならない。これまでとは違うエネルギー消費のモデルが求められている」

 先のエントリーで報告したようにイギリスでは南ウェールズ地方の炭鉱夫たちは1980年代のサッチャー革命で仕事を失い、塗炭の苦しみを味わった。その後、ソニーなどの日系企業がウェールズに進出したが、国際競争の激化や東欧やバルト三国を加えた2004年の欧州連合(EU)拡大もあって次々と撤退や移転を余儀なくされた。

 フランスでは、正規労働者の権利が守られ過ぎているため、生産性の低い産業から高い産業への労働者の移行が進んでいない。ナチスを彷彿させる国家社会主義政策を唱える右翼ナショナリスト政党「国民戦線」党首マリーヌ・ルペンが大統領選の決選投票に進み、得票率は34%に達した。

 供給サイドの改革を進めれば自ずと新たな需要が生み出されてくるという「セイの法則」は08年の世界金融危機を境に大きな壁にぶつかっている。

 「僕の家族はウェールズ出身だ。みんな産業革命を牽引した炭鉱に誇りを持っている。しかし時代によって商品の価値やテクノロジーは変わっていく。変化は常に起きるし、止まることはない。生産性はどんどん向上していく」

 「伝統的なインフラにこだわっていたら、取り残されていくだけさ。デジタル・テクノロジーを活用し、ビッグデータに基づいて効率的なエネルギー配分や環境保護を実現していく。目の前で蛙飛びの変化が起きているんだ。すごいチャンスがごろごろ転がっている。興奮しない方がおかしいよ」

 蛙飛びの成長を可能にした鍵はモバイル・マネー「M-PESA」の成功にあるとニックは振り返った。(文中敬称略、つづく)

【用語解説】セイの法則
あらゆる経済活動は物々交換で、需要と供給が一致しないときは値段が上がったり下がったりする。供給が増えると価格が下がって需要が増える。需要を増やすには供給を増やせばよいとする考え方。供給サイドの構造改革が経済成長をもたらすと主張する人たちの理論的な根拠となっている。

■木村 正人(在英・国際ジャーナリスト)
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

最終更新:7/11(火) 12:50
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