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東京理科大が国際競争力向上に向け構築した「VRE」の狙い

7/12(水) 7:00配信

アスキー

東京理科大学では、教員/学内研究者向けに「Virtual Research Environment(VRE)」を構築した。SalesforceやBoxをベースに構築したこのシステムの狙いを、同大学 情報システム課の松田氏、積田氏に聞いた。
 東京理科大学では、およそ2年前に教員/学内研究者向けの新たな情報システム「Virtual Research Environment(VRE)」を構築した。同大学 学術情報システム部 情報システム課 課長の松田大氏は、「世界で認められる研究力を持ったグローバルな大学の実現」という中長期的な目標に向けて、IT環境をブラッシュアップする必要があったと語る。
 
 このVREは、「Salesforce」や「Box」などのクラウドサービスを統合したシングルサインオン(SSO)環境であり、教員の研究活動や教育活動で必要となるあらゆる情報を統合することを目的としている。今回は松田氏と、同課の積田薫氏に、その背景や狙い、実際のシステム構成などについて聞いた。
 

「世界の理科大」目指し、研究者支援や「強み」の分析に取り組む
 現在、国内の大学には、学生人口減少(少子化)への対応だけでなく、研究機関としてのグローバル競争力向上も強く求められている。そうした環境下で、東京理科大では「日本の理科大から、世界の理科大へ。」というスローガンを掲げ、IT環境の変革によるマネジメントの効率化に取り組んでいる。たとえば2013年度からは、「Microsoft Office 365」の採用、財務/会計/人事システムの更新、電子決裁システムの導入などのIT変革を行ってきた。
 
 本稿で紹介するVREも、そうした中長期ビジョンに基づく改革の一環と位置づけられる。松田氏は、情報システム部門の観点から、VRE構築においては「グローバルな研究コラボレーション環境の構築」と「(IT領域における)グローバルベストプラクティスの取り込み」という2つが大きなコンセプトだったと説明する。
 
 VREが目標としたのは、「研究業績の集約」「研究費の予実把握」「SNSによる部門/分野の枠を超えたコミュニケーション」「容量無制限のクラウド型ファイル共有」という4つの機能を備えた、教員(学内研究者)向けポータルの構築だ。松田氏は、同大学の教員が「研究に関することならばVREに行けばすべてわかる」と考えるようなものにしたかった、と語る。
 
 それまで東京理科大では、研究業績を集約してWeb公開するデータベース(「RIDAI」DB)こそあったものの、研究をサポートする仕組みとしては「ネットワーク環境だけで、ツールは特にない」(松田氏)状況だったという。そのため、研究に関する情報は各教員の手元などに散在しており、また部門を超えたコラボレーションを促すようなコミュニケーション環境でもなかった。
 
 たとえば教員自身は、自身が持つ研究予算は知っているものの、その使用状況(予算の残額)をリアルタイムに把握するすべはなかった。また、コミュニケーション環境としては、個々の研究室で独自にNASを導入したりサーバーを立てたりといった具合で、部門や領域を超えたコミュニケーションは主にメールに頼っていた。
 
 こうした貧弱なコミュニケーション/コラボレーション環境については、教員と共同研究を行う企業からも不満の声が上がっていたという。共同研究や受託研究を進めるうえでは慎重な取り扱いが必要なデータを共有することもあるが、たとえば教員からそうしたデータをCD-Rで渡されてしまい、メディア受け取りや廃棄の煩瑣な手続きが発生する、といったことも起きていたという。
 
 他方で「私立大学(私学)の経営」という視点からも課題があった。大学としてグローバル競争力を向上させていくためには、公的/民間の公募研究への応募状況や外部研究費(外部資金)の獲得状況、各研究プロジェクトの進捗状況、特許の出願状況などをリアルタイムに知り、外部へのアピールポイントとなる「強み」を把握する必要がある。しかし、従来の環境では、研究の進捗状況などは教員自身しか知らず、経営層から大学全体の研究状況を把握することが困難だった。
 
 「さまざまな研究業績は、大学の持つ知財(知的財産)であると同時に、社会に還元していくべきものでもあります。そういう意味でも、各先生の手元にバラバラに散在している状況は問題がありました。そこで、これを一元化、集約する必要があると考えたわけです」(松田氏)
 
Salesforceベースで研究進捗や外部資金の獲得状況を可視化
 こうして、各方面にわたる課題を解消するために、東京理科大では研究情報ハブとしてVREを設けることになった。
 
 前述したとおり、VREでは「研究業績の集約」「研究費の予実把握」「SNSによる部門/分野の枠を超えたコミュニケーション」「容量無制限のクラウド型ファイル共有」という4つの機能を提供する。大きく分ければ、個々の教員が行う研究ステータスの統合管理環境(前者2つ)と、学内外のコラボレーションを活性化する柔軟なコミュニケーション環境(後者2つ)となる。
 
 まず、研究ステータスの統合管理においては、Salesforceベースでダッシュボード化が図られた。これにより経営層が研究業績、たとえば各教員の公募研究への応募状況や大学全体の外部資金の獲得状況などを、グラフを通じて一目で把握できるようになった。なお、従来から運用してきた研究者業績データベースはそのまま残しているが、このデータベースに登録された情報もVREから閲覧可能になっている。
 
 「VREで、研究の進捗状況や特許の出願状況などを把握できるようにしたいと考えました。研究予算に関する情報も同様です。Salesforce(プラットフォーム)はダッシュボード化、グラフ化が得意なので、こうした目的に適しています」(松田氏)
 
 またVREでは、公募研究の情報を集約して、各教員向けに提供するページも用意されている。キーワードや公募先の種類などで検索も可能になっており、積極的な応募を促す仕組みだ。積田氏は、VREポータルに掲載された情報はダイジェストメールとして各教員に送信されるようになっており、そのメールをチェックしている教員も多いと語る。
 
 「積極的に公募研究に応募し、外部資金を獲得していただかないと研究はできません。その(積極的な応募の)実現のために、こうした機能を盛り込んであります」(積田氏)
 
 なお研究費の予実把握機能については、外部の財務管理システムの入れ替えなどがあった影響で、現在は連携をストップしているという。
 
ChatterとBoxで、学外共同研究者も含む柔軟なコラボレーション環境
 VREが提供するもうひとつの機能、学内外のコラボレーションを活性化する柔軟なコミュニケーション環境については、ビジネスチャットツールの「Salesforce Chatter」やBoxによって実現している。
 
 前述したとおり、それまでのコミュニケーション環境では「メール」が主要な位置を占めており、データのやり取りは添付ファイルによるケースが多かったという。だが、そもそも大容量データのやり取りには向いていないうえ、グループ内でやり取りしていくうちに異なるバージョンのファイルが多数出来ていく問題があった。もちろん、セキュリティ上の懸念もある。
 
 さまざまなクラウドファイル共有サービスが存在する中でBoxを選択した理由について、松田氏は「使い勝手の良さ」と「管理機能」のバランスが良かったことを挙げた。実は、すでに「Google Drive」や「Dropbox」などを“シャドーIT”として利用している研究室もあり、これらも比較検討したが、求める管理機能が十分ではなかったという。
 
 「われわれの場合は、詳細な操作ログが取得できるエンタープライズクラスの管理機能と、コンシューマーライクな操作感の両方を必要としていました。セキュリティはもちろんなのですが、先生も学生もこうしたクラウドサービスの利用には慣れており、使い勝手が悪ければ使ってもらえませんから。ここは、一般企業とは少し事情が違うかもしれません」(松田氏)
 
 また、海外の政府機関や医療機関、大学などで採用実績が多く、セキュリティ認証も得ていること、ファイルのバージョン管理に対応していること、ブラウザベースでどんなOSでも使えること(同大学ではMacやLinuxの利用も多い)なども、サービス選定においては評価のポイントになったという。
 
 「もっとも、利用者である先生方にいちばん説明しやすかったのは『容量無制限で使える』という点でしたが(笑)」(松田氏)
 
 ちなみにChatterもBoxも、学外のユーザーをコラボレーションに招待することができる。そのため、前述したVREポータルにはアクセスできない企業の共同研究者とのコミュニケーションにも柔軟に活用できる。
 
 またVREは、すでに導入されているOffice 365も含めてSAML 2.0ベースのSSO環境となっており、現在では新たなコミュニケーション手段として、VRE上の教職員名簿からワンクリックで「Skype for Business」によるWebミーティングを開始する環境も整っている。
 
研究から「教育」へ展開、Boxの利用ユーザーを全学に拡大
 Boxに関しては、2015年4月から教職員に展開を開始して利用が定着したあと、2016年9月から大学院生や卒業研究生に、また2017年4月からは学部生にも利用を展開している。実際にBox利用に慣れた教員からは、研究だけでなく教育(授業)にも早く活用したいという声が上がっていたという。
 
 授業での活用においては、オープンソース(OSS)のラーニングマネジメントシステム「Moodle」とBoxとのAPI連携を行っているという。たとえば、教員がMoodle上でレポート課題を発表すると、学生はBox上でレポートを作成し、そのままBoxで提出できる。「PCのローカルドライブを一切使わずにレポート作成できますので、学校でも自宅でも、PC環境を問わずにレポートが作成できます」(松田氏)。
 
 また、幅広いファイル形式に対応したビューワー機能も、理系大学としては重宝しているという。一般的なドキュメントファイルや画像だけでなく、動画や360度画像、さらには3D CADデータなども、環境を問わずブラウザ上で閲覧できるからだ。
 
 同大学では毎年およそ5000名が入学するため、ユーザー管理は手作業ではできない。松田氏は、ユーザー管理には丸紅ITソリューションズ製のツール「CSV Sync for Box」を採用していると紹介した。これはCSVファイルとしてユーザーリストを作成すると、差分を読み取ってBoxアカウントを新規登録してくれるツールだ。
 
* * *
 
 今後のVREの展開について尋ねたところ、松田氏は、Salesforceの「Wave Analytics」を活用して現在のダッシュボードをよりリッチなものにし、経営層がBI的な使い方をできるようにしていきたいと語った。
 
 また積田氏は、公募研究の情報と応募内容、その結果(外部資金の獲得)のひも付けについて、すでに具体的な要望が上がっていると答えた。経営側としては同大学、そして各教員がどのような公募案件に「強い」のかを知りたいと考えており、そのためにこうした情報を必要としているという。
 
 「こうしたデータが集まれば、各先生に応募を促す働きかけにも結びつけることができます。将来的にはAIが各先生の『強み』を学んで、『この案件に応募したら資金が獲得できそうです』とレコメンドする仕組みができるかもしれませんね(笑)」(積田氏)
 
 「先生にとって研究と教育以外は、要は“雑務”なのです。IT活用でそうした雑務の負担をなるべく軽減し、研究や教育に没頭していただける環境を提供していきたい」と松田氏。情報システム課が支える「世界の理科大」に向けた取り組みは、これからも続いていく。
 
 
文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

最終更新:7/13(木) 15:05
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