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「変なホテル」総支配人が語る、完全無人化が不可能な理由

7/12(水) 11:40配信

ITmedia ビジネスオンライン

 長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスが運営する「変なホテル」が開業から丸2年を迎えた。

【荷物を預かるロボットクローク】

 変なホテルは開業当初から、多言語対応のロボットが受付業務を行い、ロボットアームで荷物を預かるなど、ロボット活用による業務効率化を推進してきた。2016年11月には「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」としてギネス世界記録に認定されている。

 また、17年3月に千葉県浦安市に2号棟をオープン、同年8月には愛知県蒲郡市に3号棟をオープンするなど、全国で出店を加速。5年以内にアジア圏を中心に100棟以上の展開を目指すとしている。

 試行錯誤を繰り返しながらホテル運営の無人化を進める変なホテル。開業から2年経ったいま、どんなことが分かってきたのだろうか。「ロボットに任せられること」「人間にしかできないこと」は何なのか。変なホテルの総支配人を務める大江岳世志氏に話を聞いた。

●「掃除」と「質問対応」を自動化

――開業から丸2年が経ちました。現在の客室稼働率とロボットの数を教えてください

大江: 連休などのピーク時で9割、平日でも常に7~8割以上の推移で稼働できており、開業当初と変わらず想定以上の集客ができています。

 導入しているロボットの数も6種類・82体から26種類・219体に増えました。人件費もそれに応じて削減できており、運営スタッフは30人から5人にまで減らすことができています。

――スタッフを30人から5人に減らせた理由は何でしょうか?

大江: 開業当初から部屋の予約、部屋割り、チェックインの自動化はできていましたが、清掃スタッフがある程度必要でした。掃除ロボットを充実させたことで、だいぶスタッフ数を削減できました。特に床掃除だけでなく、窓掃除も自動化できたことが大きいです。今までは全てスタッフがやっていましたので。

 また、広い庭の芝刈りを自動化できたことも大きいです。導入した芝刈りロボットは充電がなくなりそうになると、自分で充電ポイントまで戻り、充電が完了するとまた自動で動き出しますので人間が介することなく完全に任せることができます。

 その他、削減できた要因としては、宿泊者からの質問への対応を効率化できたことが挙げられます。質問内容としてはレストラン(朝食会場)やバスの運行時間、テーマパークへの行き方に関する質問が多いのですが、こうしたよくある質問は「Q&A」のアプリにまとめて、部屋に設置してあるタブレットからその回答を見れるようにしています。

 この「Q&A」コンテンツを充実させたことで、宿泊者がフロントに電話して質問するケースがほとんどなくなりました。結果として、スタッフの大幅な削減につながっています。

――変なホテルのように「Q&A」コンテンツを充実させているホテルが少ないと感じます。その理由は何だと思いますか?

大江: 基本的に、良いホテルサービス=ホスピタリティという考え方がホテル業界にはあると思います。ですから、「フロントにスタッフがいない」「質問にはQ&Aアプリで対応する」という発想が出てきにくいのかもしれません。

 ホテル業界特有の価値観だと思いますが、人間である必要性がなくても“あえて人を配置する”というケースはかなり多いと思います。それが、ホテルサービスにおけるおもてなしと考えているからです。

 実際、開業当初は「このホテルにはおもてなしがない」といったマイナスの意見も多くありました。受付は自動化しているので、当然「お出迎え」をするスタッフもいませんし、スタッフがほとんどいないホテルに宿泊者も慣れていませんでした。

 しかし、最近ではこうしたマイナスの意見はほとんどなくなり、エンターテインメント性を評価してくれる宿泊者が増えましたね。逆に、スタッフの姿が見えてしまうとガッカリされるくらいです。「ロボットのホテルなのに、人間が働いてるところを見たくないよ」と(笑)。

●ロボットならではの「おもてなし」とは

――ロボットの導入は、ホテルサービスの質を高めたのでしょうか。

大江: もちろん、人対人の方が質の高いサービスを提供できます。しかし、デメリットもあります。それは、人間によるサービスにはムラがあることです。

 人間には感情があります。仕事とはいえ人間ですから、そのときの感情によって提供するサービスの質が良い方向に向かうこともあれば、悪い方向に向かうこともあります。

 例えば接客。ものすごく態度の悪い宿泊者と、優しくて笑顔がすてきな宿泊者とでは、どうしても対応に微妙な差が出てきますし、スタッフの体調などにも左右されます。普段は「頑張ってもてなそう」と思っていても、その通りできない状況もあるのが人間なのです。

 ベテランであれば、周囲や自身の状態に関係なくいつもと同じ対応ができるかもしれません。しかし、経験が浅い新人や、忍耐力があまりないスタッフは、なかなかそうはいきません。これはホテル業界に限らず、サービス業界全体に言えることではないでしょうか。

 その点、ロボットには感情がありませんから、どんな状況においても全ての宿泊者に対して、全く同じ対応ができます。また、多言語に対応できるロボットであれば、宿泊者の母語にも影響を受けません。

 つまり、人間ほどの質の高いサービスは提供できなくても、ロボットなら常に一定のサービスレベルを確実に提供することができるメリットがあるのです。これが、人間との大きな違いであり、ロボットならではの良さです。

●これ以上のスタッフ削減は難しい?

――現在配置している5人のスタッフはどんな仕事をしているのですか?

大江: 当然ですが、まだロボットにはできない仕事を任せています。具体的には清掃業務です。床掃除や窓掃除などのロボットを導入していますが、ロボットだけでは部屋の隅まで完璧にきれいにすることが現状では難しいのです。

 廊下であれば、ある程度きれいにできれば問題ないのですが、宿泊者が泊まる部屋は完璧な掃除が求められます。髪の毛1本でも落ちていれば大クレームを受けることになりますので。

 また、浴室やトイレの掃除、ベッドメイキングに関しては、まだ対応できるロボットがありません。当初は掃除業務の全てを自動化できると考えていましたが、この辺りは思ったよりも技術的ハードルが高く、まだ時間がかかりそうです。もちろん、ゆくゆくは自動化したいと考えています。

 ただ、水回りの掃除の場合、宿泊者がチェックアウトした後に行いますので、宿泊者が掃除ロボットを見て楽しむことはありません。ですから必ずしも、ロボットにこだわる必要はないと考えています。

 例えば、浴槽にコーティング加工などを施せば、水で洗い流すだけできれいになりますので、費用対効果を考えると、それで十分なのかもしれません。

――スタッフは今より削減できるのでしょうか?

大江: これ以上の削減は、すぐには難しいと思います。敷地が広いので、不審者が侵入するなど何かトラブルがあった場合の対応にも人手が必要になりますので。

 また、宿泊者からの細かい要望への対応もまだ自動化できません。例えば、小さいお子様がいる宿泊者の場合は、「ベビー用ベッドを部屋に置きたい」「ベッドから子どもが落ちないようにベッドカバーを付けたい」などの要望があります。

 宿泊者が手配したものをロボットが部屋まで運ぶことはできませんので、スタッフがこうした細かい要望に対応しています。

 他にも削減が難しい理由として、宿泊者からの質問への対応が挙げられます。先ほども申し上げたように、よくある質問への回答はアプリで見ることができるようにしていますが、過去に出たことのない質問が毎日あります。これにはスタッフが対応するしかありません。「Q&A」をどんなに充実させても、変則的な質問は必ずありますので完全に自動化はできません。

●「責任をとる」仕事は人間にしかできない

――変なホテルは完全無人化を目指しているのですか?

大江: 究極の理想は完全無人化です。しかしそれは、“絶対に叶わない夢”であると思っています。なぜなら、緊急時の対応を任せることができないからです。

 この2年間、変なホテルの運営に関わる中で、人間とロボットの大きな違いが見えてきました。それは、ロボットには「責任」を取ることができないことです。

 例えば宿泊者がホテルで意識不明になったとき、人間もロボットもマニュアルに従って応急処置や119番通報などの対応をするでしょう。

 しかし、マニュアル通りにできず対応にミスがあり、宿泊者を死なせてしまった場合、人間であれば対応した者が責任をとれますが、ロボットはそうはいきません。「なぜロボットに任せたのか」「人が対応していれば防げたのはないか」と、責任が全て運営側に発生するでしょう。

 「責任をとる」という仕事は、どんなにテクノロジーが進化しても人間から奪えないのです。これは、全産業に共通することです。

 また、ホテル業のサービスは宿泊者に対して「安心・安全」が担保されていることが大前提であり、そこの信頼を失ってしまうと商売が成り立ちません。こうしたことを考えると、全てをロボットには任せるリスクは大きく、やはり現場に人間を置いた方が良いということになります。

 しかし、「最終的には人が必要」という考え方では変なホテルは進化できません。完全無人化の理想を実現するためには、ロボットに任せるリスクをとる覚悟、努力が必要なのです。


(鈴木亮平)