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大手は成功していないのに、なぜ「カーブス」は大きくなったのか

7/12(水) 8:22配信

ITmedia ビジネスオンライン

 女性専用のフィットネスクラブが爆発的に増えていることをご存じだろうか。その名は「Curves(カーブス)」。2017年6月末現在で、店舗数は1801店、会員数は80万人ほど。紫色の看板を掲げているので、ちょっと探せば「こんなところにもあったのか」といった感じで、見つかるかもしれない。

【カーブスの店舗数・会員数の推移】

 とはいえ「男子禁制」なので、どんなところなのかよく知らない人も多いと思うので、簡単にご紹介しよう。会員は60代が最も多く、次いで50代、70代――。一般的なフィットネスクラブと違って、高齢者が多い。施設の中に入ると、コンビニの広さくらいのところに、円を描くように12種類のフィットネスマシンが並んでいる。そのマシンを使って筋力トレーニングを30秒、次に足踏みなどの有酸素運動を30秒、合計1分のセットを12種類、順番に続けるだけ。1周で約12分、これを2周。最後に、ストレッチをしておしまい。1回のトレーニングは約30分で終了するのだ。

 施設の中をよーく見ると、いくつか気になったことがある。一般的なフィットネスクラブには鏡があるのに、カーブスには1枚もない。運動をしたあとに汗を流したい人がいるはずなのに、シャワーもない。簡素な設備にもかかわらず、なぜ急速な勢いで成長しているのか。

 もう1つ疑問がある。「カーブスの店が増えている」「会員数も増えている」「儲(もう)かっているみたいだ」といった情報を聞くと「ウチも似たようなことをやってみるか」と山っ気のある人がうじゃうじゃ登場してもおかしくないのに、同じような業態は少ない。あっても、店舗数は100店を超えていない。なぜカーブスだけが大きくなって、他社は大きくなれないのか。その秘密を知るために、カーブスジャパンの坂本眞樹社長兼COOに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●女子会のような感じ

土肥: カーブスは米国で1992年に誕生して、いまでは世界80カ国以上で展開しています。米本社からマスターライセンス契約を受けて、日本では2005年に事業を始めたんですよね。どういった経緯で女性専用のフィットネスクラブを始めようと思ったのでしょうか?

坂本: 以前、私は経営コンサルティング会社で働いていまして、そこでフランチャイズの仕事に携わっていました。フィットネスクラブの仕事はよく分からなかったのですが、「米国で女性専用のフィットネスクラブが成功している」という話を聞き、気になったので現地に足を運びました。

 現場を見て、衝撃を受けました。会員さんは若い人ではなくて、40~50代の女性が多かったんですよね。運動をしながら隣の人とおしゃべりをして、多くの人が楽しそうにしていました。

土肥: まるで女子会のような感じ?

坂本: ですね。私たちはフィットネスクラブを運営した経験がありませんので、どのようにすれば米国のカーブスを日本に導入できるのかよく分かりませんでした。これまでにない形のフィットネスクラブは受け入れられるのか。施設はどうすればいいのか。さまざまなことを考えました。ただ、当時は団塊世代の多くが定年を迎えていましたので、そうした層をターゲットにすれば、ビジネスが成立するのではないかと考えたんですよね。

土肥: そこはコンサル的な発想ですね。

坂本: 米国のカーブスは店によって広さが違ったり、会費が違ったり、マシーンの台数が違ったりしていました。こうした状況をそのまま導入しても、日本で成功させるのは難しいなあと感じました。なぜか。例えば、ハンバーガーの価格をみると、米国は地域によって違いますよね。都市部は高くて、地方は安い。でも、日本では東京でも北海道でも沖縄でも、同じ価格のところが多いですよね。同じ価格ということは、同じサービスを提供しなければいけません。ということで、広さもほぼ同じにして、会費も同じにして、マシーンの台数も同じにしました(会費:月6700円、1年契約の場合:月5700円【いずれも税別】)。

 あと、営業時間も変えました。米国では店舗によって違っていましたが、日本では平日が午前10時から午後7時まで(午後1時から午後3時までは休み)。土・日・祝日は米国と同じで、土曜日は午前10時から午後1時まで、日曜・祝日は休み。

土肥: ちょっと営業時間が短くないですか。午後7時で終わりって。一般的なフィットネスクラブだと、その時間帯から利用する人が多いような。

●鏡、シャワーを設置しない理由

坂本: なぜ平日の営業時間が短いのか。また、なぜ日曜・祝日は休みなのか。働いていない女性をターゲットにしたからなんですよね。「働いている女性にも……」と考えると、営業時間を長くしなければいけません。そうすると、既存のフィットネスクラブとの戦いになってしまう。

土肥: コンサル的に言うと、レッドオーシャン(競争の激しい既存市場のこと)の世界にざぶーんと飛び込むようなことはしたくないと?

坂本: はい。出店場所も多くの人が集まる繁華街ではなく、ターゲットにしている人たちが通いやすい場所にしました。例えば、家の近所であったり、スーパーの近くであったり。私たちは営業時間を短くすることで、ターゲットを絞り込みました。一方で、「いい人材を採用したい」という狙いがありました。

土肥: どういう意味でしょうか?

坂本: 私たちはインストラクターに、さまざまなことを求めることにしました。会員さんとのコミュニケーションをうまくとってほしい、地域との交流を図ってほしいなど。それを実行してもらうために、正社員を採用することにしました。しかし、「夜遅くまで働かなければいけない」「日曜日も祝日も休めない」という条件では、優秀な人材を採用することが難しいかもしれない。このように考え、過酷な労働条件にしないことによって、たくさんの人と一緒に働くことができました。

土肥: なるほど。話は変わりますが、一般的なフィットネスクラブには鏡があって、シャワーがあるのに、カーブスにはないですよね。

坂本: 他のフィットネスクラブに通った経験がある人は、不満を感じるかもしれません。ただ、「鏡がある」「シャワーがある」ことは“フィットネスクラブに行かない理由”でもあるんですよね。

土肥: 行かない理由? どういう意味でしょうか?

坂本: 「運動をして痩せたい」と思っている人って、自分の姿をあまり見たくないですよね。あと、運動したあとに、シャワーを浴びると、化粧をしなければいけませんよね。そうすると、半日仕事になってしまうので、行かない理由になってしまう。ということで、鏡をなくして、シャワーもなくしました。

 一般的なフィットネスクラブって、サウナがあったり、プールがあったり、ジャグジーがあったりしますよね。そうすると、出店費用がものすごくかかってしまうんです。数億円。一方のカーブスは、部屋の中にマシンを置いたら「カーブス」になるんですよね。費用は2000万円ほどなので、出店もしやすいのかなあと。

●だから、大手は参入しない

土肥: 2005年に創業して、店舗数はどんどん増えていきました。また、会員数も伸びています。施設をオープンしたら、会員はすぐに増えたのでしょうか?

坂本: いえ、ダメでした。出店したとき、新聞の折り込みチラシやポスティングなどを行ったのですが、ほとんど効果がありませんでした。なぜ効果がなかったのか。認知度が低いこともあったのですが、若い人にとっては“自分ごと”に感じることができなかったんですよね。営業時間に行けないので、チラシを見てもゴミ箱に。

 では、ターゲットにしている人はどうだったのかというと、同じように“自分ごと”ではなかったんですよ。そもそも運動するつもりがないので、チラシを見ても「自分には関係ない」と思っていたようです。

 先ほども申し上げましたが、私はコンサル経験があるので、創業前は「なんとかなるかなあ」と楽観的に考えていました。もちろん、適当な話をしているのではなくて、「販売促進費をこのくらい使えば、このくらいの効果があって」といった数字上の予測を立てていました。コンサル時代はそれでうまく回っていたのですが、いざ自分が会社を運営してみると、全く通用しないことが分かってきました。そのとき、気付いたんです。だから、大手企業は女性専用のフィットネスクラブを運営しないのかと。

土肥: き、気付くのが、遅すぎませんか。

坂本: かもしれません。ただ、多くの人は「健康になりたい」「運動不足を解消したい」と思っているのではないか。ただ、“自分ごと”として受け止めることができていないので、動いてくれない。そうした人はどうやったら動いてくれるのか。「自分と同じくらいの体型だった人が、急に痩せた。どうしたの?」と聞いて、「実は、カーブスというところに通っていて……」といった会話をして、初めて腰をあげてくれることが分かってきました。つまり、クチコミですね。

 当社はフランチャイズを導入していて、オーナーさんは地元で何らかの事業をしている人が多い。そうした状況を生かして、各店舗は地域密着に徹してもらうことにしました。例えば、新店がオープンする際、地元の商店街には必ずあいさつに行く。お祭りに参加する、掃除に参加する、といった地道な取り組みを継続することで、紹介の輪が広がっていきました。

●会員数を増やすために

土肥: 2005年に創業したものの、会員がなかなか集まらなかった。でも、クチコミが広がって、2007年の6月には、店舗数481店に対し、会員数13万人。いい感じで、伸びていますよね。

坂本: いえ、ダメですね。損益分岐点として会員数は1店舗当たり300人を超えなければいけません。このころは270人ほどなので、まだまだですね。店舗数は伸びていたのですが、300人の数字を突破することができなくて、苦労しました。

土肥: 2009年11月の数字をみると、店舗数770店に対し、会員数は28万人。1店舗当たり363人なので、このころにはチャリンチャリンと儲かっているわけですね。

坂本: なぜ、300人の壁を突破することができたのか。会員さんの悩みは、人によって違いますよね。痩せたい人もいれば、運動したい人もいれば、腰が痛いという人もいる。1人1人の悩みが違うのですが、インストラクターは全員の情報を把握して、その人に合った指導をすることにしました。ちなみに、会員さんは下の名前で呼んでいます。

土肥: えっ、ということは、インストラクターは400人ほどの名前を憶えて、その人の悩みも把握していると。膝が痛い人がいれば、「このマシンは気をつけたほうがいいですよ」と声をかけているのですか?

坂本: はい。会員さんの満足度を上げると同時に、成果も出していただく。そうすることで退会率を大幅に下げることに成功しました。ただ、居心地のいい場所にするのはよくないんですよね。

土肥: どうしてですか? 会員にとって居心地のいい場所のほうがいいでしょ。

坂本: カーブスに行くことを楽しみにしていただくのはうれしいのですが、楽しみにしているだけではダメなんです。やはり、きちんと運動して、自分が考えている成果に近づいていただきたい。

土肥: いまは1801店舗に対し、会員数は80万人。ということは、1店舗当たり444人。300人の壁を大きく超えたことで、このようなことを考える人が出てくるのではないでしょうか。「カーブスという店舗が増えている」「儲かっているようだな」「ウチらも同じようなことをして、ひと山当てようぜ」と。

 でも、同業他社は少ないですよね。しかも、100店舗を超えているところはひとつもない。なぜカーブスは店舗数も増やせて、会員数も増やせたのに、他社はできないのでしょうか。

●「大変だから」運営は難しい

坂本: 「大変だから」ではないでしょうか。

土肥: 失礼な話をしますが、大変ではなくて、むしろ「楽」なのでは。一般的なフィットネスクラブと違って、初期費用も10分の1ほどで済みますし、営業時間も短い。同じような広さで、同じようなマシンを設置すれば、「一丁上がり」ですよ。

坂本: ご指摘の通り、40坪ほどの場所を借りて、マシンを置いて、女性専用のフィットクラブですといった広告を打てば、営業はできるでしょう。必要な経費は、大きく分けて家賃と人件費のみ。その人件費ですが、他社はアルバイトを雇っていました。当社の場合、原則正社員。先ほどもお話しした通り、インストラクターは会員の名前を憶えなければいけませんし、清掃活動に参加しなければいけませんし、お祭りにも参加しなければいけません。ほかにも、さまざまなことをしなければいけません。

土肥: 会員と地域にどれだけ密着することができるかどうかが、このビジネスのキモだと。

坂本: 会員さんに「不満はなんですか?」と聞くと、「大好きなインストラクターがいなくなること」を挙げる人が多いんです。私たちがしなければいけないことはなにか。優秀なインストラクターを採用して、その人たちが働きやすい環境を提供し続けなければいけません。

土肥: ということは、会員が多い店舗というのは「立地がいい」とか「新しい」ではなくて……。

坂本: 「優秀なインストラクターがいる」ところですね。

(終わり)