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『生涯投資家』日経平均「4万円到達」に必要なものとは?【書評】

7/12(水) 18:10配信

ZUU online

村上世彰氏が貫いてきた信念は投資を通じた日本でのコーポレートガバナンスの浸透であった。村上ファンドを有名にしたニッポン放送や阪神電鉄などの投資やこれまでの人生の歩みについて語っている。

『生涯投資家』
著者:村上世彰
出版社:文藝春秋
発売日: 2017年6月21日

■「物言う株主」が株式市場の健全化に貢献した

株を大量に保有して経営陣に無茶な要求を突きつける。このようなファンドに対する世間のイメージは相当悪い。メディアはアメリカで1980年代に頻繁に起こった敵対的買収をファンドが私的な利益のみを求め、企業に迷惑をかけた悪しき事例として報道することが多いように思う。

しかし、真実は放漫経営を続ける企業にファンドが敵対的買収を次々に仕掛けたことで、それを恐れた経営者たちは企業価値を高める経営をするようになり、コーポレートガバナンスが普及し株式市場に好影響を与えたのだった。

日本でコーポレートガバナンスが欠如したために起こった事例は、バブル期の財テクやシナジーを生まない企業買収、損害の隠蔽など数知れない。

村上ファンドは、企業の手元資金や内部留保と比較して、市場価値が著しく低い企業に投資し、経営の効率化や株主還元の徹底を求めた。その時の被買収企業の経営陣の反応やその後の趨勢は本書を読んでもらいたい。ただ、当時は筆者の強引な手法がバッシングされたもの、現在では「コーポレートガバナンス・コード」が政府主導でまとめられ、ようやく企業もコーポレートガバナンスに真剣に取り組み始め普及しつつある。

■日本企業のROE向上は資金循環を促進し経済成長につながる

コーポレートガバナンスに加えて筆者が強調するのがROEの向上だ。日本の企業は保守的な経営で現金を多めに保有しROEを低くしているので、銀行借り入れなどを使い積極的な経営で成長を求めるべきだと主張する。また、コーポレートガバナンスやROEの観点で害の大きい株式の持ち合いについても批判する。

ただし、企業の現金保有に関しては、これまでのマクロ経済状況も考慮すべきだろう。2013年の日銀公表資料『総裁・副総裁就任記者会見(3月21日)要旨』によれば、デフレが長年続くと企業は多額の現金を保有するようになり、デフレ回復の序盤では投資や生産を自己資金で拡大する。3年半から5年経過すると銀行から借り入れをするようになるのが、日本の昭和恐慌や1930年代のアメリカ、小泉政権下でも見られる特色だ。

2017年現在の企業の現金保有状況については、ソシエテ・ジェネラル証券 調査部の会田卓司氏がZUU onlineに寄稿した『企業貯蓄率の再低下が示す循環的な景気回復力の再生』が参考になる。企業貯蓄率はアベノミクス開始直後急激に下がり、2014年以降の緊縮財政により一時上昇したが、2016年4-6月期から企業貯蓄率は再び低下トレンドに戻っている。しかし、まだまだ不十分な水準であることは間違いない。

企業がROEを高めることは、投資家のリターンが上がるだけでなく、世の中に出回るお金が増えて景気が良くなり経済成長にもつながる。この資金循環がうまくいけば、将来的に日経平均株価が4万円台になるのも夢ではないという。そのためにも、やはりコーポレートガバナンスの徹底が必須なのだ。

■筆者の知られざる素顔

本書の見どころは株式投資に関する内容のほかに、あまり知られていない個人的な話題についても語っている点だ。投資家を志すきっかけとなった父との関係や家族のこと、インサイダー取引の有罪が確定してから現在までの出来事などどれも興味深い。NPOの支援やボランティアに励む姿を知れば、メディアの報道で持ったイメージも大きく変わるだろう。ちなみに、料理も上手で秋元康氏におでんを振る舞うと「日本で一番おいしい」と言わせるほどの腕前だそうだ。

本書を多くの人が読んで、上場企業のあり方や株式投資、筆者の人柄について理解が広まることを願う。(書評ライター 池内雄一)

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最終更新:7/12(水) 18:16
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