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毎朝見てたはずなのに……知らない間に変わっていた駅の“アレ” 制作会社「気付かれなくていいんです」

7/12(水) 12:13配信

ITmedia NEWS

 駅の券売機やバスの行き先表示――そんな誰もが目にする物の一部が、多くの人に気付かれることなくひっそりと変わっていることをご存じだろうか。

【画像】変更後はこのフォントに

 実は、変わったのは「フォント」。2016年ごろからさまざまな交通機関の表示が新しいフォントに置き換えられているという。いったい何のために、どんなフォントに変更したのか。フォント制作企業のモリサワに聞いた。

●2016年ごろから「ユニバーサルデザインフォント」に それって何?

 話をしてくれたのは、モリサワの園田晋さん(エンタプライズ事業部)と澤村明子さん(広報宣伝部)。園田さんによると、駅で使われるようになった新フォントの一部は、モリサワが手掛ける「ユニバーサルデザインフォント」(UDシリーズ)というものだ。

 「JR東日本の券売機に使われているのは、モリサワのUD新ゴです。バスタ新宿にある電光掲示板の行き先表示などにも同じフォントが使われています」(園田さん)

 同じUDシリーズのフォントは、任天堂の「Nintendo Switch」や、キングジムの「ポメラ DM200」などでも使われているという。

 だがユニバーサルデザインと聞いて記者がイメージするのは、障害の有無や国籍を問わずに誰もが利用できるよう、物の色や形をデザインすること。すでに形がある程度決まっているように思える「文字」のユニバーサルデザインとは、どのようなものなのか。

 「モリサワでは、性別・年齢・視力の強弱を問わず、誰でも読みやすいフォントをユニバーサルデザインと考えています」と澤村さんは話す。

 制作に当たっては、フォントよりも視認されやすい「手書き文字」に全てのデザインを近づけた。小さくしても潰れないよう、濁点や半濁点は大きく、線1本1本の間隔は広くした。

 文字全体のバランスを見直したほか、フォントごとに細かいこだわりも。「明朝体や、長体をかけるゴシック体は、横線が潰れないよう10%刻みで線の太さも調整しています」(澤村さん)。

●社会の変化で需要が拡大

 近年ではフリーフォントや凝ったデザインのフォントも増え、雑誌で特集が組まれるほど。そんな中であえて「読みやすい文字」を作り、駅などに広めているのはなぜか――園田さんによると、その背景には「日本社会の高齢化」があるという。

 「読みやすい文字はこれまで、金融や医薬品など、読み間違いが人生を左右しかねない現場で必要とされてきました。しかし、高齢化によってその需要が社会全体に広がってきています」(園田さん)

 また、2020年に開かれる東京五輪・パラリンピックも、同社がユニバーサルデザインフォントに注力する一因になっている。増加する訪日客向けに多言語表記が求められるようになり、「誰にでも読みやすい文字」の需要が日本語に限られなくなったからだ。

 モリサワはすでに中国語の簡体字や、韓国語(ハングル)のユニバーサルデザインフォントを販売している。新たに、画数の多いアジア圏言語のフォント制作も検討しているという。

●本音は「変化に気付かないで」 せっかく作ったのに、なぜ?

 だが、いくら読みやすくなったとはいえ、フォントの違いに気付く人はそう多くはないだろう。実際モリサワでも「気付いた人から反響をもらうことはほとんどない」という。ならばなぜ、新しい文字の普及に取り組み続けるのか。

 「人は無意識でも文字を“読みにくい”と感じると、足を遠ざけることがあります。読みやすい文字の普及は、そうした文字に関わるネガティブな側面を潰すこと。文字を通して社会貢献するという、モリサワの意義そのものです」(園田さん)

 数あるフォントの中でもユニバーサルデザインフォントは、モリサワの自信作。弱視の人でも読みやすいようヒアリング重ねてその意見を反映したり、「読みやすさ」が自己満足にならないよう実証実験を行ったりと、さまざまな工夫を凝らしている。

 しかし、そうした数々の工夫を含めて「本当は、文字の変化なんて気付かれなくていいんです」と園田さんは笑う。

 「読みやすい文字というのはストンと頭に入ってきて、どこが変わったとか何が違うとか、そういうことは気にされないものなんです。だからむしろ、気付かれては困る」(園田さん)

 こうして今日もどこかで、文字は「ユニバーサルデザイン」に置き換わっている。それこそ私たちの気付かぬうちに、街中が2020年に向けてアップデートしていくのかもしれない。

最終更新:7/12(水) 12:13
ITmedia NEWS