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三度目の正直? ARM版Windows 10は離陸するのか

7/12(水) 13:28配信

ITmedia エンタープライズ

 2016年に開発が発表されたARM版のWindows 10は、これまであまり詳細が解説された資料がなかった。しかし、5月に開催された開発者向けカンファレンス「Build 2017」の事前レコーディングセッションで、ARM版Windows 10(Windows 10 on ARM)の内部構成が発表された。さらに、5月末に台湾で開催されたIT関連の展示会「Computex Taipei 2017」において、ARM版Windows 10のプロセッサーを提供しているQualcommが、リファレンスプラットフォームを展示したり、実際にARM版Windows 10が稼働するハードウェアを展示していたりした。

【まずは超薄型、軽量のノートPCやタブレット(2in1)で発売されるだろう】

 今回、こういった情報からARM版Windows 10はどういったOSなのか、リリースされるハードウェアがどのようなモノになるかを見ていこう。

●ARM版Windows 10はどんなOS?

 ARMプロセッサーに対応したWindows OSとしては、Windows 8をベースとした「Windows RT」、スマートフォン向けの「Windows 10 Mobile」などが知られている。ただWindows RTにしても、Windows 10 Mobileにしても、残念ながらほとんど使われていない(Winodws 10 Mobileは、企業向けのスマートフォンとして採用される可能性はあるが、実際にスマートフォンを発売しているメーカーが少なくなってきている)。

 実際、Windows RTに関しては、2012年に鳴り物入りで発表され、Microsoftが「Surface RT」「Surface2」といった2in1タブレットを、2012年から2013年にかけて発売したが、結局市場に受け入れられずに、Microsoftは莫大な在庫を償却することになった。

 スマートフォン向けのWindows 10 Mobileに関しては、市場をiPhoneとAndroidが席巻している状況で、Windows 10と互換性がある(UWPアプリが動作する)といっても、市場には受け入れられなかった。実際、Nokiaから買収した携帯電話事業を2016年に売却し、実質的に携帯電話事業から手を引いた状況となっている(2015年にフラッグシップ端末を発売後、後継機種は発表されていない)。

 Windows 10 Mobile Creators Updateと以降のアップデートに関しては、Snapdragon 820/617を搭載したスマートフォンが対象となり(Microsoftがサポートを表明したの11機種ほど)、それ以外のWindows 10 Mobile端末はアップデートができても、動作を保証しないという状況になっている(ARM版Windows 10の動作を保証しているわけではない)。

 Microsoftは、Windows RTやWindows 10 Mobileが普及しなかった原因の1つが、今までのデスクトップ アプリケーション(Win32ベース)が動作しないため、もしくはUWPアプリしかサポートされないためと考えているようだ。徐々にWindows Storeに掲載されるUWPアプリも増えているが、iOSやAndroidに比べるとお話にならないほど数が少ない。このような状況では、多くのユーザーはあえてWindows RTやWindows 10 Mobileを使用することはないだろう。

 また、Microsoftでは、UWPアプリへの移植よりも、デスクトップ アプリケーションをUWPカプセル化(フルUWPアプリではなく、UWP上でデスクトップ アプリケーションを動かす仕組み)して、とにかくWindows Storeに登録されるアプリを増やしていこうという方針に変わった。

 UWPカプセル化したアプリケーションは、既存のWin32環境をUWP上で仮想化して用意している。また、プログラム自体は、x86コードとなっているため、ARMプロセッサーなどではUWPカプセル化したアプリケーションを動かすことはできない。

 そこで、次のWindows 10 Fall Creators Updateでは、ARMプロセッサー上で、x86のエミュレーションを行い、既存のデスクトップ アプリケーションを動かそうとしている。さらに、Windows 10 Proとほぼ同じ機能(ドメイン参加など)を搭載しようとしている。つまり、ARM版Windows 10は、フル機能のWindows 10にx86エミュレーションを付け加えたものになる。なお、最初のバージョンから仮想化などの機能が用意されるかは不明だ。Microsoftの計画としては、最終的にWindows 10 Proと同じOSと機能をARM版Windows 10でも提供する予定としている。

 Microsoftでは、Windows 10と同じコードを使っているWindows Serverに関してもARM版を計画している。当面は、パブリッククラウドのAzureで利用するOSとして限定された機能が移植される予定だ(フルスタックのWindows Serverではない)。

●ARM版Windows10の実装は?

 ARM版Windows 10は、OSの内部コード、エクスプローラー、WebブラウザのEdgeなどは、ARMネイティブコードで書かれている。このためARM版のWindows OSは、ARMのネイティブコードで動作する(エミュレーションでないため、高いパフォーマンスで動作する)。

 さらに、外付けのデバイスに関しては、MicrosoftがInboxドライバをARMコード化しているため、多くのデバイスがARM版Windows 10で動作する。もし、Inboxにドライバがない場合は、ネットワーク経由でMicrosoftのサイトからドライバをダウンロードしてインストールする。

 ただ、古いデバイスがARM版Windows 10で動作するかは不明だ。サードパーティ独自のドライバしかサポートしていない周辺機器の場合は、もしかするARM版Windows 10では動作しないかもしれない(もしくは、機能的な制限がある可能性も)。

 Microsoftでは、ユニバーサルWindowsドライバという複数のWindows 10(Windows 10 Home/Pro/Enterpriseなどのデスクトップエディション、Windows 10 Mobile、Windows 10 IoTなど)で動作するフレームワークを用意している。ARM版Windowsでは、ユニバーサルWindowsドライバを拡張することで対応していこうと考えているのだろう。

 2017年中にリリースされるARM版Windows 10の最初のリリースでは、32ビットのx86コードのエミュレーションだけがサポートされる。64ビットのx64コードのエミュレーションに関しては、最初のリリースではサポートされない。64ビットのx64コードのサポートは、2018年3月以降のアップデートとなる。

 x86のアプリケーションを動かすには、元々Windows OSが持っているWindows On Windows(WOW)を拡張して、x86コードをエミュレーションする機能を追加している。WOWは、x64(64ビット)環境でx86(32ビット)アプリケーションを動かすために用意されたレイヤーだ。

 ただ、全てのx86プログラムをエミュレートするので、高いパフォーマンスが出せない。そこで、Microsoftが新たに開発した「Compiled Hybrid PE(CHPE)」を使って、x86アプリケーション内にあるDLLをARMコードベースのDLLに変換する。最初の実行時にx86コードをARMコードに変換していく。一度変換したコードは、ディスクにキャッシュされるため、再度起動したときにはすぐにアプリケーションが動作する(一度目は、変換に少し時間がかかる)。

 CHPEにより、x86アプリケーションがエミュレーションであっても、高いパフォーマンスで動作する。デモでは、「Adobe Photoshop」を動かしたり、ゲームを動動作させたりしていた。デモを見る限りでは、十分実用になるパフォーマンスで動作すると思われる。

 ただ、ARM版Windows 10では、ARMコードのデスクトップアプリケーション(Win32アプリケーション)の動作は許されていないようだ。

●Snapdragon 835を採用することで得られるメリット

 ARM版Windows 10は、最初はQualcommのSnapdragon 835が動作プラットフォームとなる。Windows 10 MobileがサポートしているSnapdragon 820/617は対象外となりそうだ。

 Snapdragon 835は、Qualcommのプロセッサとしてはハイエンドモデルとなるため高コストだ。実際、Snapdragon 835を使ったスマートフォンは、軒並み約10万円ほどの製品となっている。

 Qualcommでは、ARM版Windows 10が動作するプラットフォームとしては、2in1タブレットもしくは、超薄型で軽いノートPCになると予想している(スマートフォンなどのカテゴリーではない)。また、Snapdragon 835を採用したスマートフォンの価格から見れば、10万円~15万円ほどの値段になるのではと予想される(製品のスペックによっては、10万円を切る製品もあるかもしれない)。

 OSは、Windows 10 Mobileなどと同じく、PCにプリインストールする形で入ることになる(ARM版Windows 10のパッケージやARMプロセッサーを使用したマザーボード単体は販売されないだろう)。

 価格面からみれば、IntelのCore MシリーズやCore iシリーズを搭載する製品とそれほど変わらないだろう。ただ、ARM版Windows 10では、Snapdragon 835プロセッサと通信チップのX16の組み合わせが利用できるので、常にネットワークに接続できるノートPC/タブレットになるだろう。

 Microsoftは、Computexにおいて、Always Connected PCというコンセプトを打ち出している。スマートフォンで使われている、Snapdragon 835プロセッサとLTEをサポートした通信チップX16の組み合わせにより、常にネットワークに接続していても、長時間のバッテリー動作を可能にする(Always Connected PCは、Qualcommだけでなく、Intelとも協力している)。

 Always Connected PCは、eSIMを搭載することで、SIMカードを入れなくても、Windows上から通信キャリアとの契約もできる。海外に持っていったときにも、海外の通信キャリアが旅行者向けの料金プランを用意していれば、その料金プランを契約するだけで、すぐにでも海外で通信を行うことが可能になるかもしれない。

 ARM版Windows10を搭載したPCやタブレットは、Lenovo、HP、ASUSなどが2017年の年末商戦までに発売する予定だ。

 ARM版Windows 10については、企業では当面は様子見になるだろう。MicrosoftはフルスペックのWindows 10だと言っているが、実際にリリースされるまで、本当に制限がないのか、といった点を確認する必要がある。また、社内で利用している業務アプリケーション(Win32)が本当に動作するのか、満足いくパフォーマンスで動作するのかなどもチェックする必要がある。

 ただ多くの社員は、Officeソフトなどを利用していることが多いため、ARM版Windows 10でも問題は少ないだろう。独自開発の業務アプリケーションも、マルチデバイス対応ということを考えれば、Webアプリケーション化されているなら、問題は起こらないと思われる。

 ARM版Windows 10は、なによりも低消費電力で高い性能を持つARMプロセッサと、各国キャリアの認証を取得しているQualcommの通信チップを使うことで、全世界どこに行っても通信しながら、バッテリーで長時間動作するPCやタブレットが手に入ることが強み。この点は、企業にとってもメリットがある。

 不確定要素としては、IntelがARM版Windowsでのx86エミュレーション機能に関して、自社の権利を侵害している可能性があると懸念していることだ。最終的に製品がリリースされていないため、懸念という状態だが、製品化された時に訴訟も辞さず、という態度を表明している。このあたりは、実際にARM版Windows 10がリリースされてからの推移を見守る必要があるだろう。個人的には、MicrosoftとIntelが何らかの折り合いを付けると思っている。

 まずは、2017年の年末商戦にでてくる製品を見る必要がある。2018年にはARM版Windows 10が動作するプロセッサーの種類も増えてきて、低価格化していくだろう。本格的に企業で導入するなら、2018年から2019年になるのだろう。