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<九州豪雨>日田祇園で弔いの笛…犠牲の消防団員の仲間

7/12(水) 12:17配信

毎日新聞

 ◇「悲しみを慰めたい」

 福岡・大分を襲った九州北部豪雨では、家族や地域に愛された多くの人が犠牲になり、今なお22人の安否が分かっていない。記録的な大雨から1週間。残された家族の悲しみは深まる。一方で支援の輪が広がりつつある。

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 大分県日田市の消防団員、山本岳人(たけと)さん(43)は、今年の夏も地元の伝統祭事「日田祇園」で、山鉾(やまぼこ)を担ぐ勇ましい姿を披露するはずだった。「お父さんは他の誰よりもかっこよかった」。悲しみにくれる家族は空を見上げ、長年親交があった職場の同僚は昨年12月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されて初めてとなる20日の祇園で弔いの笛を吹く。

 豪雨が一時的にやんだ6日午前、山本さんは、自宅がある小野地区周辺の被災状況の見回り中に大規模な土砂崩れに巻き込まれ、搬送先の病院で息を引き取った。涙を浮かべる中学生の娘2人と小学生の息子1人に妻の佳代さん(39)は言った。「お父さんはどこにいても見守っている。だから大丈夫だよ」

 佳代さんから見ても、山本さんは「子煩悩」だった。子どもたちが悩みを抱えて学校から帰ってくると、家族会議を開き、子どもたちの言い分に耳を傾けながら一緒に解決策を考えた。20年前から勤めている地元のガソリンスタンドでも、子どもたちが進級する春になると、先輩の佐々木秀世さん(67)に「どんなふうに成長するのか楽しみ」と語り、はにかんでいたという。

 5年ほど前から山本さんは、祇園の「囃子方(はやしかた)」として長年笛を吹いてきた佐々木さんのつてを頼り、祭りに参加するようになった。豪華絢爛(けんらん)に飾られた最大で高さ10メートル級の山鉾9基が町中を巡行する祇園は、多くの市民の誇りだ。2年ほど前から重い山鉾を担ぐ花形の「棒鼻(ぼうばな)」に選ばれ、夏が近づくと得意げに子どもたちに「今年も出るから見においで」と声をかけた。

 今夏の祇園は9基がJR日田駅前に勢ぞろいする観光行事の「集団顔見世」は中止になった。ただ、山鉾は神事として例年通り担がれることになり、22、23日の本番に向けて町内ごとに住民らに披露される20日の「流れ曳(び)き」で、佐々木さんが弔いの笛を吹くことが決まった。

 「最愛の家族を残して逝ったから、少しでも悲しみを慰めたい」。佐々木さんは、何年か前の祇園の際に、法被姿で山鉾の前に立つ山本さんの写真をじっと見つめた。

 佳代さんは唇をかみ締めた。「今はつらい。でも彼のおかげで幸せでいられた。『ありがとう』と伝えたい」【比嘉洋】

最終更新:7/12(水) 16:49
毎日新聞