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VRを使って知覚を問う たかくらかずき展「有無ヴェルト」開催中

7/12(水) 14:45配信

Impress Watch

 2017年7月11日から8月4日の日程で、銀座にある「ガーディアン・ガーデン」にて、ドット絵や絵文字を使った表現を用い、イラストレーターおよび劇団のアートディレクターとしても活躍中のたかくらかずき氏による個展『有無ヴェルト』が開催されている。主催は株式会社リクルートホールディングスが社会貢献活動の一環として運営しているギャラリーの1つ「ガーディアン・ガーデン」。HTC NIPPON 株式会社、株式会社マウスコンピューター、株式会社マル・ビが協力している。

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 「人間の知覚を問う」ことに焦点があてられており、鑑賞者の位置や角度で絵柄が変わるレンチキュラー作品や、バーチャルリアリティ(VR)を使って移動ロボットの視点になれる作品が出展されている。同時に、その作品に動かされる鑑賞者の姿を別の鑑賞者が見るという二重の構造をつくっており、「作品と向き合う身体を再認識させる」ことがねらいとなっている。

The Second Stage at GG #45 たかくらかずき展「有無ヴェルト」

場所: ガーディアン・ガーデン(東京都中央区銀座7-3-5 ヒューリック銀座7丁目ビル B1F)

会期: 2017年7月11日~8月4日

時間: 11:00~19: 日曜・祝日休館

入場: 無料

■Photoshopの空間に入る

 展覧会の名前「有無ヴェルト」は、生物学者ユクスキュルが提唱した「umwelt(ウムヴェルト、環世界)」に由来する。「環世界」とは、動物はそれぞれの動物特有の知覚世界、世界の認識を持っていて、その主体として行動しているという考え方。時間や空間もそれぞれ独自のものとして知覚されており、世界はそれぞれの種にとって違う意味を持っていると考える。たとえば昆虫の一部には紫外線が見えるが人間には見えない。カタツムリやダニと人間と世界認識は違うし、世界に存在する事物の意味や行為の可能性も異なる。

 「有無」は、デジタルの「0、1」のアナロジーだ。もともと、たかくらかずき氏が普段から使っているPhotoshopを操作しているときに、この体験は、人間が目を通して現実を見るのとは違う構造をしているなと感じたことが発端だという。たとえば虫眼鏡ツールを使うとどこまでも拡大したり、逆にものすごく俯瞰したりすることができる。レイヤーを使うと別々のモノを重ねて表示することもできる。ソフトウェアを操作しているなかで、現実では起こり得ない身体感覚が生じる。

 たかくらかずき氏は「僕の接しているゼロイチだけでどれだけの別の視点を見せられるか」、「Photoshopの空間に本当に入ったらどうなるのかを突き詰めたい」と考えたのだと語る。

■「拡大率の迷路」を意図した感覚遮断装置としてのVRと外部からの視点

 ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とヘッドフォンを装着して360度の映像を見るVR作品「FullWelt(あめつちほしそ)」も、3Dオブジェクトではなく2Dで組まれている。VR空間内にドット絵の平面があちこちに浮いているかたちだ。この作品はメディアアーティストのゴッドスコーピオン氏とコラボレーションしたものである。空間のなかの平面配置は最初、たかくら氏が配置して、そのあとにゴッドスコーピオン氏が整理するという手順をとったが、奥行きがあるように感じさせるにはかなり試行錯誤したという。

 体験者は中央の畳に座ってその映像を見る。周囲には動き回るルンバがあり、その動きをトラックしたオブジェクト上に表示されている文字を見つめていると、そちら側に視点が変換し、今度は移動しているルンバからの視点で周囲を見ることになる。HMDをつけることで、一度バーチャルの世界に入り、そこからさらにルンバの世界に入って経験するという構造だ。

 ヘッドフォンからは「あめつちの歌」が流れている。この音にも特徴があり、中心にいる自分の音程が真ん中で、その周囲を回るルンバはそれぞれより高音、より低音に設定されている。「真ん中に中音があり、周囲を高音と低音がぐるぐる回っている」といったイメージでデザインしたそうだ。

 この作品を体験している鑑賞者が見ている画面も壁面にプロジェクションされている。周囲の人は体験者の視点が切り替わる様子を外部から眺めることができる、「見ることが見せることになる状況」の演出を狙ったものだという。

 VR作品を鑑賞するときにはHMDを装着する必要があり、そのため体験者数が限られてしまう。一方でVR装置は一種の感覚遮断装置でもあり、着けている側からすると、他者からの視点はあまり気にならなくなってしまう。だから見られていてもあまり不快に感じない。

 VRを体験している人を見せるという発想の1つは、昨年(2016年)、VRを利用した「Zoo」(演出: 篠田千明氏)という演劇に、2人が参画したときの体験にあるという。「原住民を発見した科学者のレクチャーという形式をとりながら、植民地主義や「人間の展示」という主題に挑んだ」作品で、役者はHMDを装着し、VR空間と舞台空間がシームレスに繋がることで、見ている側であった観客側も実は見られていたといった関係を示す作品だったという。

 レンチキュラー作品に対しても、観客は身体を左右に揺らしながら鑑賞する。それを外から見ているとなかなか面白い。身体を動かすと視点が変わる。その位置情報の変化をトラッキングして提示する情報を変えるのはVRと同じである。左右に動いたときに前後の情報がうっすら見えるところもレンチキュラーの魅力だ。もし、将来、X軸だけではなく奥行きなども見られたら面白い。

 現在主流のRPG作品では俯瞰視点で操作することが多いが、それとは異なる、ドット絵に乗り移って操作するようなあり方も面白いのではないかと考えているという。そういう趣旨で作られたのが「ん」という作品だ。ドット絵で構成された作品のなかをコントローラーを使って探索する作品である。通り抜けられたり抜けられなかったりする壁があるだけで特にゲーム性はないのだが、変な中毒性がある。

■ゲーム以外のVRの可能性としてのアート作品

 ハードウェアとしては、VR HMDには「HTC VIVE」、それとマウスコンピューターのクリエイター・エンジニア向けPCブランド「DAIV(ダイブ)」の「DAIV-DGZ510S1-SH2」が使われている。

 DAIV-DGZ510S1-SHのスペックは以下のとおり。

 ルンバにはVIVEのトラッカーを搭載して位置を追跡している。開発環境はUnityだ。ディレクションを行なったゴッドスコーピオン氏は「DAIVは底面のキャスター(オプション)で床をころころ転がせるのが便利だった」と笑う。たかくらかずき氏も「黒くて高級感があるところがいい」という。

 マウスコンピューターとしては「ゲーム以外のVRの可能性の1つとして、アートという切り口を提案していただいた」と考えているという。実際に可能性を示すことでVRをより広くクリエイターたちにも広げていけるのではないかというわけだ。

■テクニカルとプリミティブとのあいだの可能性

 今後の展開についても伺った。普段はMicrosoft HoloLensをつけて生活し、「Psychic VR Lab」や「渋家」でさまざまなUIの開発を手がけているというゴッドスコーピオン氏は、今はアイソレーションタンクとVRを組み合わせた作品を作ろうとしているという。アイソレーションタンクとは塩水を使った感覚遮断装置の一種だ。暗闇で目を開いたときに、その遮断の体験を拡張するような何かを見せられないかと考えているとのこと。「経験の圧縮と解凍」や、魔術の再現のような体験に興味があるとのことだ。

 たかくらかずき氏は「すごくテクニカルなものとプリミティブなビジュアルのあいだに、まだまだできることがかなりある。やりすぎてしまうとテクニカルすぎる作品になってしまう。技術的には最新ではなくても面白いものにするには、やりすぎないほうがいい。そういうところを狙っていきたいと思ってます」と語った。

 なお演劇「Zoo」は2018年に再び新たな作品が上演される予定だそうだ。「有無ヴェルト」の会期中(7月1日~8月4日)に、「有無ヴェルト」に関するトークイベントが開催。詳細はホームページまで。

PC Watch,森山 和道

最終更新:7/13(木) 13:37
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