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新しい表現を追い続けるジャグリング世界王者・望月ゆうさくさん

7/12(水) 11:10配信

朝日新聞デジタル

【十手十色】

 2015年、カナダ・ケベックシティーのとある会場で、観客からのスタンディングオベーションを全身で受け止めている日本人がいた。歴史あるジャグリングの世界大会個人部門で優勝したジャグリングアーティストの望月ゆうさくさんだ。タップダンスとジャグリングを組み合わせた独創的な演技、四つのコマを同時に回す大技に、観客は沸きに沸いた。しかし望月さんは当時を振り返って、「賞を取らないとどんなことをしても説得力がないから、取りにいっただけです」とクールに話す。目指すものはもっと先にある。世界チャンピオンはそのために必要な称号に過ぎない。

【写真】表現で大事にしているのは技を見せつけることではなく、思いやり。「観客は道具ではなく、シンプルに人を見ていますから」

 13歳でジャグリングを始めたという手のひらには、スティックを握りしめる時にできるマメがくっきりと浮かび上がる。きっかけは生まれ育った静岡市に毎年11月にやってくる、アジア最大級の大道芸ワールドカップだった。当時はやっていたヨーヨーに夢中だった望月さんは、動きは似ているけれど大きくて迫力があるジャグリングに心を奪われた。新しい技を考え、映像を撮ってはインターネット上で公開する。将来はパフォーマーになりたいと思っていたが、両親には「いい大学に行って、安定した仕事に就いて、ちゃんと税金を納めなさい」と言われ続けた。

就職を覚悟して訪れた転機

 趣味でジャグリングをしながら、映像の編集ができるテレビ局への就職を考えていた大学時代、転機が訪れる。建築史学の授業で先生が突然、都市の公共空間における大道芸の重要性について語り始めた。「日本ではムダだとか、禁止の対象になりやすい大道芸にも価値があるということを教えられて、感動しちゃったんです。自分の職業に誇りをもっているというヨーロッパの大道芸人たちの生き様にも驚きました」

 卒業論文では、大道芸をしながら50日間ヨーロッパを旅し、その足跡をレポートにまとめた。浅草で買った袴(はかま)をはいて、小さなスピーカーから音楽を流し、フランスの広場やイタリアの路上で恐る恐るコマを回す。しかし、まったく人が集まらない。どうしたら人を楽しませ、コミュニケーションがとれるのか。もがいて、もがいてたどり着いたのは、メトロノームの音に合わせてゆっくりコマを回したり、速いテンポでコミカルに動いたりするシンプルな表現。ムダな言葉や演出をそぎ落とし、技ではなく心を伝えることで、観客は何倍にも増えていった。

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